エピローグー4
アラン・ダヴー少佐は、日本に赴くのにどうしようか、と想って、日本の海兵本部等と連絡を取ったところ、
「一緒に乗ればいいだろう」
という石原莞爾提督の鶴の一声で、日本に帰国する遣欧総軍司令部の面々と同行することになった。
「日本軍の方々と同行するのは、どうでしょうか」
と、ダヴー少佐は辞退したがったが。
「若い癖に堅いことを言うな。日本軍の軍籍にしてやる」
と、石原提督はどんな裏工作をしたのか、ダヴー少佐を日本軍の佐官階級の軍属扱いにしてしまった。
それで、問題なく「橿原丸」に乗船して、ダヴー少佐は日本に赴くことになり、乗船している間も、北白川宮成久王元帥らと話し合い、インドシナ問題について、日本軍の後方支援を依頼することができた。
そのおかげで。
「インドシナに赴任するまで、少なからず余裕ができたな」
ダヴー少佐は少し羽を伸ばすことができた。
8月上旬に日本に到着し、9月下旬まで日本国内でインドシナ問題に関する支援依頼等を行った上で、インドシナにダヴー少佐は赴く予定だったのだが、船上で依頼ができた結果、少なからず余裕ができたのだ。
更に。
「ダヴー少佐」
土方勇大尉の訪問を、ダヴー少佐は受けることができた。
「日本にはいつまでおられるのですか」
「この9月一杯です。その後、インドシナに赴く予定です」
「それなら、日本を離れる前に一杯やりませんか」
「いいですな」
土方大尉とダヴー少佐は、そんなやり取りをした。
そして。
「義姉さん、ダヴー少佐が日本を去る前に、送別会をやりたいのだけど」
「いいわね。千恵子さんも連れて来てね」
土方大尉は、村山幸恵とそんな会話を交わした。
土方大尉は、帰国して早々に義弟の岸大尉と共に、無事に帰国ができた旨を、幸恵に伝えに逢いに行ったのだが、岸大尉が席を外した際の幸恵の一言に肝を潰した。
「ところで、アラン・ダヴーは、私の異母弟ではないかしら」
「一体、何を」
「姉の勘を舐めないで。キク母さんも認めたわ。私達の父さんに、ダヴー少佐はそっくりなのよ」
幸恵の何もかも見透かしているような眼を見て、土方大尉は、大袈裟に顔を背けることで暗に肯定した。
幸恵は微笑みながら言った。
「これ以上、兄弟を増やすつもりは無いわ。沈黙を守るから。その代り、「北白川」にダヴー少佐を、いつか連れて来て、そして、その場に千恵子も連れて来て。恐らく、もう2度と会えない弟と、名乗れなくとも私は会いたいの。そして、その場には、兄弟全員を揃えたいの。長姉としてね」
「分かりましたよ」
土方大尉は、義姉の願いを聞くことにした。
そういった裏事情から、土方大尉は、「北白川」へ、とダヴー少佐を9月下旬に誘うことになった。
当然、その場には、岸総司大尉や土方千恵子も来ることになった。
岸大尉は、ダヴー少佐と旧知の仲なので、送別会の場に呼ぶことに問題は無かったが、千恵子を「北白川」での送別会に呼ぶ理由は、特には無い。
だから、土方大尉は困ったのだが、幸恵が勝手に解決した。
「何で手前味噌を「北白川」に予め送るんだ」
「幸恵さんに頼まれたの。私の味噌を送って欲しい。料理に使いたいからって。それで、一緒に味見をしてほしいって」
夫婦はそんな会話をした。
「どんな料理なんだ」
「味噌仕立ての肉じゃがを作るつもりだって。総司にも、その時に味見をしてもらう予定だって。私の味噌は商売品になる自信はあるけど、幸恵さんに欲しい、と言われるとは思わなかったわ」
千恵子は、胸を張って言った。
千恵子の味噌作りは、実母りつに仕込まれたもので、実際に、かなりの腕だった。
土方大尉は想った。
幸恵は賢いな。
料理を理由に全員を集めるとは。
キク母さんも加担しているのかも。
史実を知る程、何となく石原莞爾は無茶を平然とやりそうなので、最後まで無茶をしてもらいました。
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