エピローグー3
日本の陸海空海兵四軍の将兵の欧州からの帰還、復員は一筋縄でいく問題では無かった。
それこそ、英米等も、その将兵を祖国に帰還、復員させねばならなかったし、そのための輸送手段確保に頭を痛めることになったからだ。
だから、日本が英米等に輸送手段について援けを求めても、まずは自国優先で、という回答が返ってくる有様であり、日本が自己努力で、将兵を基本的に帰還させるしかなかった。
まず、少しでも早く日本に将兵を帰国させるために、片端から人が載せられれば、貨物船の貨物室さえ転用されて、日本に向かう将兵はそこに乗船する羽目に陥った。
他にも、急きょ改造された重爆撃機の爆弾倉を転用して、簡易シートを積んだだけの客室に乗せられて、日本に向かった将兵までいた。
(もっとも、実際にそれに乗った将兵の間では、意外と評判は良かった。
何しろ、欧州から日本まで約2月掛かる旅程が、1週間以下で済んだのだ。
少々、不眠や疲労に悩まされようと、少しでも日本に早く還ることができるのなら、という理由だった)
他にも、戦艦や空母の空きスペースを活用して作られた客室で帰国した将兵もいる。
土方勇大尉や岸総司大尉らは、帰国が遅れた代償として、何と戦艦大和で帰国することになった。
「流石、大和ホテル」
「冷房完備だからな、5月とは言え、暑い赤道直下を通るのには有難い」
そんな会話を、大和の艦上で義兄弟は交わすことになっていた。
実際、早く日本に還りたかったが、まずは長年、従軍した兵、下士官が帰国して、士官が殿を務めるべきだという理屈から、土方大尉らは帰国が遅れる羽目になったのだ。
流石に、少しでも暖かい土地で過ごさせるべきだ、という本国上層部の温情から、欧州に遺されていた日本軍の将兵のほとんどは、旧ソ連から離れて、友好国であるフランス、それも南フランスで冬を過ごせた。
その代償として、南フランスで遊ぶ将兵が出たのはやむを得ない話ではあった。
そして、4月半ばにトゥーロン軍港に到着した大和に乗船して、復員兵の一人として、義兄弟は帰国することになったのだ。
「北白川宮元帥らは、お盆までに帰国の予定らしいな」
「文字通りの殿を務めるつもりらしいですね。自分の父も同様です」
「そうか。土方大佐も同じか」
インド洋の潮風の香りを感じながら、二人は会話を交わした。
「帰国したら、斉藤雪子大尉と結婚するつもりですか」
「そのつもりだ。姉や母の説得をよろしく頼む」
「分かりました」
義兄弟は、私事について会話を交わした。
また、その3月程前に。
「新婚旅行を、この船でしたいな」
「それだけずっと稼いでくれるならいいわ」
「きついことを言うな」
防須正秀中尉は、上原敏子伍長勤務上等兵と会話を交わしていた。
二人が乗っているのは、日本郵船の誇る豪華貨客船「出雲丸」だった。
もっとも、復員兵を載せる関係上、少しでも多くの人間が乗れるような工夫がされており、正直に言って、豪華貨客船とは呼びづらいのが現実だった。
それでも。
若い二人にしてみれば、祖国への船旅を共に過ごせる日々が、とても有難かった。
何しろ、二人共五体満足で、生きて祖国へ帰還できるのだ。
「まずは、父に挨拶して、共に中村屋のカレーを食べよう。恋の味も知らずに、妻になりました、とは言わせたくないからね」
「ありがとう」
敏子は、防須の言葉に、心からの幸せを感じた。
戦争が終わったのだ。
あの地獄から、自分達は生きて還ることができた。
これからは、この人と幸せな人生を歩みたい。
あ、でも、その前に。
「ちゃんと、私の親にも挨拶をしてね。お互いの親を納得させて、結婚しましょう」
「勿論だよ」
二人は寄り添い、平和のありがたみを感じ合った。
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