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エピローグー2

 アラン・ダヴー少佐が、家族の下に帰宅できたのは、1943年の12月24日の午後、文字通りのクリスマスイブになった。

 ある意味、我が儘を貫いて、何とかクリスマスイブに間に合わせることに、ダヴー少佐は成功したのだ。

 もっとも、帰宅した瞬間、妻のカテリーナに、いきなり平手打ちをダヴー少佐は食らったのだが。


「私を棄てる気なのね」

 カテリーナは絶叫し、平手打ちの後、ダヴー少佐の胸ぐらをつかんで喚いた。

「落ち着いてくれ。一体、自分が何をしたというんだ」

 何でこんな目に遭うのだ、ダヴー少佐は困惑するしか無かったが。


「ああ、もう。女心が分からないのは、実父譲りだね。血は怖ろしいね」

 ダヴー少佐の実母、ジャンヌが口を挟んで介入し、二人を分けた。


「全く何でスペイン軍の軍服とコートで帰宅するんだい。スペイン軍にこれから奉職するつもりかい」

「いや、フランス軍に奉職するつもりで、その旨の書面も出したよ。そもそも、フランス人の自分が、何でスペイン軍の軍人になるんだい」

「それなら、フランス軍の軍服で帰宅しな。全く。ついでに言えば、そのコートは、カテリーナが送ったコートじゃないね。まさか、スペインの愛人からの贈り物かい。邪推されて当然だね」

「酷い誤解だよ。このコートは、スペイン軍の官給品で、スペイン軍の軍服に合わせて着ているだけだ」

 母子は、そうやり取りをした。

 更に、そのやり取りを聞いて、カテリーナの頭も冷えてきた。


「本当にスペイン軍に入るつもりは無いのね」

「無いよ。酷い誤解だよ」

「まさかとは思うけど、スペインで愛人ができて、その愛人の下に行くとか」

「無いから、絶対に無いから」

「それなら、神に誓える。私と逢った後に浮気はしていないって」

「誓うよ。聖書を何十冊積んでもいいから」

 ダヴー少佐は、カテリーナにそう誓った。


 そのやり取りを聞いたジャンヌは、(内心で)ため息を吐いた。

 全く、血が上っているせいか、カテリーナは際どいことを言っている。

 自分が明かしたのも一因なのだが、あの科白では、自分と会う前にスペインの女性と関係を持っているのでは、と諸に疑っているのも同然ではないか。

 だが、息子は気が付いていないようだ。


 全く、この鈍感息子、本当に戦場で役に立っているのだろうか。

 女心一つ読めないで、敵軍の行動や味方の行動を読めるとは思えない。

 戦場では無能極まりない行動を取って、阿呆、愚物等々、罵倒の嵐を浴びているのではないだろうか。


 実母から、そんな失礼極まりないことを想われていること等、ダヴー少佐は、目の前の妻を宥めることに懸命になる余り、思いも寄らなかったが。

 その懸命さがいい方向に働き、何とか1時間余り後に、夫婦は和解をして、仲良くカテリーナの連れ子のピエールを含め、家族4人でクリスマスの食卓を囲んだ。


「この後は、しばらくはここに住めるの」

「その筈だ。パリの陸軍省勤務の内示が出た」

「良かった。家族で過ごせるのね。ピエールの弟妹を作らないと」

「はは」

 ダヴー少佐は、妻と会話し、平和の到来を、幸せを感じた。

 だが、数か月後。


 カテリーナが妊娠を確信した頃、インドシナの独立運動は、武装化、過激化の一途を辿っていた。

 そして、インドシナの独立運動鎮圧のために。


「済まない。できる限り、早く片付ける」

「できたら、付いていきたいわ」

「ピエールの学校もある。一人で行かざるを得ない」

「気を付けてね」

 そう、ダヴー少佐は言い置いて、インドシナに向かうことになった。

 もっとも。


「その前に、日本との交渉役を務めろか」

 ダヴー少佐は、まず日本本土に赴いてから、インドシナに向かう羽目になった。

 まずは、海兵本部を訪ねるか、そうダヴー少佐は考えた。

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