第5章ー30
このような結果を受けて、10月21日、連合国各国政府は、第二次世界大戦の事実上の終結を宣言した。
これ以前から民主ドイツ政府を名乗る発表等は途絶えており、ソ連政府、共産中国政府も事実上、消滅したと判断されている。
更に言えば、ソ連軍、共産中国軍の中でも、抗戦意欲を尚も持つ部隊は、個別に抗戦しているものの。
統一的な指揮系統は既に崩壊しているのだ。
こうしたことからすれば、第二次世界大戦の事実上の終結を、連合国各国政府が宣言するのは、半ば当然の話に他ならなかった。
そして、その宣言を受けて。
「日本に我々は還れるのですよね」
土方歳一大佐は、そう上官である遣欧総軍司令官の北白川宮成久王元帥海軍大将に尋ねていた。
「そうなるだろうな。ウラソフ将軍の下、ロシア諸民族解放委員会の指揮下で、新生ロシア軍等が胎動を始めている。彼らに、旧ソ連領内の治安維持等を任せて、また、各地域に暫定政府を徐々に樹立して、ということになっていくだろう。どちらにしても、それらは占領地行政を担う文官の仕事に基本的にはなる。我々軍人が担う仕事ではない」
そう北白川宮元帥は答えた。
北白川宮殿下は、第二次世界大戦の事実上の終結を受けて、元帥に昇進している。
海兵隊出身者としては、林忠崇元帥に次いで、2人目の元帥と言うことになる。
もっとも、これまでの武勲を考えれば、極めて順当としか言いようが無い話だし、更に皇族でもある。
海兵隊内部どころか、日本の四軍内、更に日本の輿論からも、異論は全く出ていないと言って良い程、好意に包まれた中での元帥昇進であり、「日本武尊の再来」と謳われるに相応しいものと言って良かった。
土方大佐は、ふと想った。
北白川宮元帥の父は、北白川宮能久親王殿下だ。
更に言えば、幕末の輪王寺宮殿下でもある。
かつて、輪王寺宮殿下の下に、いわゆる奥羽越列藩同盟の面々は結集し、錦の御旗に対して容赦なく銃弾を放ち、戊辰戦争を戦った。
自分の祖父、土方歳三提督も、輪王寺宮殿下の旗の下で、戊辰戦争を戦った者の一人だ。
そして、海兵隊は、当初は彼らの受け皿として、徳川家の陰の護衛として作られた、と父、土方勇志から、自分は聞いている。
(もっとも、父にしても、それを林忠崇元帥閣下から聞いたのだが)
それから70年余り後、このような時を迎えることになろうとは。
日本の現首相、米内光政閣下も、枢密院議長の鈴木貫太郎閣下も、思えば戊辰戦争時は、いわゆる錦の御旗に容赦なく銃弾を放った奥羽越列藩同盟に参画した面々の子になる。
もっとも、それを言えば、自分は土方歳三の孫だから、人のことは全く言えない。
他にも石原莞爾提督が、庄内藩出身だし、南雲忠一提督が、米沢藩出身等、海兵隊の面々の中に、奥羽越列藩同盟関係者、一時とはいえ、皇室に刃を向けた者の子や孫がいかに多いことか。
だが、海兵隊は歳月を経て、数々の戦いを経る内に、徳川家の陰の護衛の任務が消え去り、サムライ、日本の皇室、ミカドを護る世界最強の兵、といつか、世界で謳われるようになっていった。
そして、この第二次世界大戦で、その通りの活躍を果たしたのだ。
創設の経緯を考えれば、何とも皮肉な話ではないか。
この後、我々はどうなるのだろう。
サムライは武器を置けるのだろうか。
第二次世界大戦が終結したとはいえ、完全な世界平和がもたらされるか、といえば、多くの者が否、と答えそうな気がしてならない。
だが。
今は平和の到来を歓び、祖国へ、故郷へと皆で還ろうとすべき時と割り切るか。
ともかく、第二次世界大戦は終わったのだ。
そう土方大佐は想うことにして、北白川宮元帥を見た。
元帥は、複雑な表情を浮かべて、空を仰いでいた。
第5章が終わり、後はエピローグの5話になります。
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