第5章ー24
モスクワの外郭陣地にたどり着いた連合国軍は、モスクワに対する攻撃につき、議論を行うことになった。
もっとも、ここまで来た以上、後はモスクワを完全にいかに早く占領するか、ということが基本的には主眼の議題となる。
「モスクワをポーランド軍がかつて2度、占領した経験から言えば、モスクワを完全に包囲するのが第一、その上で四周から攻め寄せて、モスクワを占領すべきだと考える」
ポーランド軍のレヴィンスキー将軍は力説した。
実際、モスクワは、ほぼ孤立しつつあった。
連合国軍の容赦のない砲爆撃は、ソ連軍がモスクワへ物資を運び込もうとする努力を、徐々に無駄なものにしつつあった。
1943年7月下旬、ソ連領からモスクワへ通じる鉄路、道路全てが、連合国軍の空襲どころか、重砲の砲撃の管制下に置かれていた、といっても過言では無い、というのが現実だった。
「歴史を踏まえた発言は重いものだが」
日本海兵隊、というより日本遣欧総軍司令官の北白川宮成久王大将が、少し異論を述べた。
「どうやら、スターリン以下のソ連政府首脳部は、モスクワから脱出しているという情報が入っている。このことから考えれば、モスクワ占領後も見据えるべきではないか」
「と言われると」
この場にいる英軍の総司令官であるモントゴメリー将軍が、半ば反問した。
なお、モントゴメリー将軍の顔色は、余りいいとは言いかねる状況だった。
このモスクワ近郊までの進撃に際し、日米ポーランド等の連合国軍上層部(から末端)の一部の間では、
「中央軍集団及び北方軍集団にとって英軍は、南方軍集団のイタリア軍だ」
とまで陰口が叩かれる有様になっていた。
何しろ連携しての進撃を、英軍が主に主張するせいで、進撃が実際に遅延しているのだ。
(その代り、連合国軍に損害がそう出ずに済んでいるのも、また事実なのだが)
そして、英軍上層部も、それが耳に入ってくる。
英軍が堅実な進撃を主張し、そして連合国軍がその通りに進撃を図ることで、損害が抑えられているのは事実だが、それにより、二度目のロシアの冬越しを我々がさせられては堪らない、というのが、連合国軍の最上層部から末端までの本音だ。
だからこそ、連合国軍の最高司令官であるアイゼンハワー将軍でさえ、流石に二度目のロシアの冬越しは避けねば、という考えを持ち、それを公言しつつある。
「喧嘩をする際に、まず狙うべきは、敵の頭であり、敵の腕や足ではない。ソ連政府が、これ以上の抗戦ができないように、ソ連政府を潰すべきでは、と愚考するのだが、如何」
「つまり、スターリン以下のソ連政府首脳部を、最優先で潰すべき、ということか。それこそ無理ではないだろうか。何しろ、彼らはモスクワから脱出し、クイビシェフに、より正確に言えば、その近郊のジグリの大地下壕に移動しているらしい、という情報が流れている」
北白川宮大将とレヴィンスキー将軍は、そうやり取りをした。
「ふむ。もし、クイビシェフにいるソ連政府首脳部を潰せれば、この戦争はなし崩しに終わらせられる、とは思いませんかな」
モントゴメリー将軍は、自らの立場を考えた末、そう控えめに提案した。
モントゴメリー将軍は、ある秘策を思い付いた。
大地下壕とはいえ、必ず連絡通路を作らねばならない。
そして、連絡通路を無限に深くして、破壊を不可能にすること等、出来ようはずがない。
更に考えれば、その連絡通路を潰してしまえば、彼らは大地下壕の中で死ぬしかない。
我が英軍が、開発中の例の爆弾を使用すれば、連絡通路の破壊は可能なのではないだろうか。
勿論、そのためには事前準備が必要不可欠だが。
モントゴメリー将軍は、自らの秘策を周囲に開示し、周囲は唸った。
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