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第5章ー21

 日本海兵隊総司令部の面々と似たようなことを、欧州にいる日本陸軍や日本空軍の上層部も考えた。

 また、米軍や英軍等、他の連合国軍の上層部も同様だった。

 だが、実際問題として、ソ連政府が抗戦意欲を持ち続けており、ソ連の市民も抗戦姿勢を示している以上、連合国軍としては、モスクワ等への進撃、攻撃を続けざるを得ない。

 従って、最前線の将兵は、戦いを続けざるを得なかった。

 その中には、当然、この人も含まれていた。


「かつて世界最強を呼号した零式重戦車も、今や平均以上の戦車に過ぎないか」

 そう呟きながら、土方勇中尉は、零式重戦車に搭乗し、モスクワ・ヴォルガ運河沿いに、カリーニンからモスクワを目指していた。


 土方中尉の搭乗する零式重戦車はいわゆる後期型であり、ソ連製の76.2mm野砲M1936(F22)を参考にして開発された戦車砲を主砲としている。

 そして、この戦車砲は1941年に開発、採用された時点では、世界最強の戦車砲といってよく、ソ連の戦車の大半を今でも屠る力を持ってはいる。

 だが、それから僅か2年余りで、零式重戦車の後期型と言えど、土方中尉が述懐する有様だった。


 日本陸軍が制式採用した通称、三式中戦車(実際の制式名称は、一式中戦車改)は、零式重戦車後期型と同じ主砲を採用していたが、2年の歳月の差は、零式重戦車が二人用砲塔で忍んでいるのに対し、三式中戦車は三人用砲塔の採用を可能にしていた。

 たかが、二人用と三人用と思われるだろうが、戦車長の指揮能力の発揮や、砲弾の発射速度等々の問題から言って、三式中戦車の優位は間違いなかった。


 更に、仏軍に至っては、零式重戦車に搭載された戦車砲を上回る戦車砲を搭載して、更に三人用砲塔を採用したルノー43戦車を制式採用するに至っている。

 米軍も76ミリ砲を三人用砲塔に搭載したM4中戦車の制式採用に踏み切っており、日本陸軍内では三式中戦車と同等とみなされている。


 勿論、日本海兵隊も手をこまねいている訳ではなく、陸軍とも協力して、後の四式中戦車を共同で開発、採用しようとはしているのだが。

 この戦場には間に合っていない、というのが現実だった。

 そのために、土方中尉は内心でぼやく羽目になっていたのである。

 とは言え、零式重戦車は、この戦場では未だに十分に役立つ戦車だった。

 実際に。

 

 いきなり、土方中尉の乗っている戦車に衝撃が奔った。

「痛いなあ。こん畜生が」

 土方中尉の乗る零式重戦車の砲塔正面に、ソ連軍の対戦車砲弾が直撃したが、無事に跳ね返したようで、操縦手が罵声を挙げるのが、土方中尉の耳に入った。

 土方中尉も打ち身にはなったが、大した怪我はしていないし、ざっと見た感じでは、乗員は誰も大けがはしていないようだ。


 衝撃等から、45ミリ級と土方中尉は推測し、大声を挙げた。

「他の戦車や随伴歩兵と協力して、周囲を捜索しろ。対戦車砲が隠れているぞ」

「はい」

 乗員らが返答して、捜索に取り掛かる。

 また、周囲の随伴歩兵も、砲声等から同様の結論に達して、捜索する。

 実際、如何にもそれらしい茂みが目に入ってきた。

 だが。


「歩兵にまずは攻撃させろ。我々は支援砲撃に徹する」

 土方中尉は、冷静にそう判断した。

 茂みに欺罔して、ピアノ線等が張り巡らされていることがよくある。

 そして、その中に戦車が突っ込み、ピアノ線に足回り等を絡まされて行動不能になり、そこを歩兵の近接攻撃でやられることが多発しているのだ。


 戦車の支援砲撃の下、歩兵が接近してソ連兵を排除する。

 正規軍と民兵が共闘していたらしく、一部の兵はどう見ても正規兵では無かった。

 戦闘の末、彼ら全員が戦死又は捕虜となった。

 土方中尉は重い気持ちにならざるを得なかった。

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