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第5章ー20

 そういったモスクワ防衛に当たるソ連軍(及び民兵隊)の実情について、精確に連合国軍側が、モスクワに対する最終攻勢を発動する前に把握することまではできてはいなかった。

 だが、朧気ながら、何となく様々な情報から、モスクワ防衛に当たるソ連軍の内実が徐々に悪化していることが、連合国軍側にも推察されつつあった。


「これが、航空偵察等に基づく最新のモスクワへの物資搬入状況の推測情報です」

 7月初め、土方歳一大佐は、米軍等と協力して、モスクワの防衛状況を把握しようとしており、それを日本軍上層部に報告していた。

「流石に、完全にモスクワを物資の欠乏等により飢餓地獄に陥らせることはまだ無理か」

 その報告の内容にざっと目を通し終えた参謀長である石原莞爾提督が、少しぼやくように言った。

「無理ですね。それに、度重なる連合国軍の戦略爆撃により、モスクワに備蓄されていた物資も、かなり破壊している筈なのですが、まだ、備蓄の底が見える状況とは言い難いようです」

 土方大佐は、口頭で補充報告をした。


 そのやり取りを横で聞きながら、報告書に目を通し終えた北白川宮成久王提督が口を挟んだ。

「とは言え、この報告書を見る限り、モスクワ市内及びその近郊における食糧等の物資は、徐々に減りつつあるのは間違いないとみていいようだな」

「ええ、米軍や英軍、ポーランド軍等の意見も聞きましたが、彼らの意見も似たようなもので、このような物資搬入量では、モスクワ市民までの生命を維持するような食料等の供給ができるとは思えない、との意見が多数でした」

 土方大佐は補足して答えた。


「それでも、モスクワ市民は色々な理由から戦わざるを得ないのだろうな」

 土方大佐の言葉を聞き終えた石原参謀長が、半ば独り言を呟いた後、更に続けた。

「ソ連政府に対する恐怖感、侵略者と言える連合国軍に対する反感、抵抗の意思、そして、やはり、愛する祖国のため、という愛国心、他にも周囲が戦うから自分も、というのもあるだろうし、食糧等を手に入れて自分が生き延びるため等々、色々と戦う理由が思い浮かんでくるな」


 その言葉を聞いた日本海兵隊総司令部の面々の多くが、石原参謀長の言葉に無言で共感した。

 実際、石原参謀長が言う通りなのだろう。

 モスクワ市民を始めとする、ソ連の国民の多くが、中々投降してこないのには、それなりの理由がある。


 例えば、どこまで本当と嘘が入り混じっているのか、日本海兵隊総司令部では分からないが、日本で言えば女学生が対戦車用爆雷を抱え、集団で突っ込んできた事例が先日、中央軍集団の戦区であったと聞く。


 その子達は、祖国ソ連を護るためには必要なのだ、と教師達に言われて、爆雷を抱えて体当たり攻撃を仕掛けてきた。 

 それに対処した連合国軍の兵士が、発砲を躊躇っている内に、何人かの女学生は体当たりに成功して、戦車を数両破壊したが、そのことから、腹をくくった連合国軍の兵士の応戦により、残りの女学生は全員が殺傷された。

 その事実を、無抵抗で投降を申し出た子どもまでも、連合国軍は無残にも皆殺しにしている、このことから考えても、連合国軍は、最早、ソ連人を皆殺しにするつもりなのだ、とソ連政府は報道しているらしい。


 真っ赤なウソだとすぐにバレがちになるが、事実にウソを添加すれば、ウソの部分まで真実に見える、というプロパガンダを、ソ連政府は巧みに使っている、としか言いようがない話だ。

 このような官製報道が垂れ流されていては、事実が含まれるだけに、我々の前面にいるソ連軍の兵士も、モスクワ市民も、自分達が投降しても殺されるだけだ、と信じてしまうだろう。


 本当に厄介だ。

 そう、日本海兵隊総司令部の皆が思った。

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