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第5章ー19

 だが、モスクワ市民の士気が、スターリンの演説で幾ら高まろうとも、既にモスクワ防衛のための武器を始めとする様々な物資は欠乏しつつあった。

 例えば、7月初めに、スターリングラード近郊に連合国軍の南方軍集団の先鋒が到達し、バクー油田からの原油等を運んでいたヴォルガ河の水運は途絶しつつあったのだ。

 そのために、原油が届かないことで、工場の稼働等が困難になり、更に、物資の生産自体も困難をきたすようになり、と連鎖反応が起きたために、モスクワ防衛のための物資を、モスクワに送り届けることにも困難が生じていた。


 勿論、ソ連政府、軍もこうした事態が起きることを予期していなかったわけではない。

 これに対処するために、例えば、バクー油田からの原油については、ソ連もカスピ海を経由し、アティラウに物資を揚陸して、そこから鉄道網や内陸水運を活用することで、モスクワやウラル山脈周辺に建設した工場に物資を運べるようにしており、そこで工業生産の維持を図ってはいたのだが。


 連合国軍の戦略爆撃の猛威は、ウラル山脈周辺に疎開した筈の工場の一部にまで、戦闘機の護衛付きで襲い掛かる有様になっていた。

 勿論、こういった戦略爆撃を避けるために、更なる奥地、例えば、シベリアの奥地に工場を移転させて、そこで稼働させるということを、ソ連政府が考えない訳では無かったが。

 実際問題として、それが可能かと言うと。


 仮にシベリアの奥地に工場等を建設して、稼働させるとなると、それこそ新たな土地の開拓から取り組まねばならず、更にその工場を稼働、維持させるための物資も必要不可欠で、そうなると道路や鉄道の新たな建設もせねばならず、という問題が生じることが目に見えている。

 かと言って、中央アジア方面に移転させることも困難になりつつあった。

 何故なら、中央アジアにおいて、主にイスラム教徒を中心とするソ連からの分離独立運動が、連合国からの様々な援助もあり、活発化する一方だったからである。

 折角、中央アジア方面に工場を移転、建設させても、安定した稼働ができるのか、と言われると、ソ連政府のかなりの上層部も(多くが大粛清の恐怖から、表立っては言えなかったが)首をひねる有様だった。


 そして、やっとの思いで工場を稼働させ、武器等を製造しても、今度は、それをモスクワ防衛等に送り込まねばならない。

 鉄道網や道路網等にも、連合国軍の戦略爆撃は牙をむいており、また、前線に程近くなると、それに加えて連合国軍の戦闘爆撃機等を用いた戦術爆撃までが牙を向けだす。

 ソ連軍にしてみれば、前線に武器等を送り込むのも、大問題という事態が生じていたのだ。


 そういったことから、モスクワ防衛に当たるソ連軍(及び、モスクワ防衛に志願した老若男女をかき集めた民兵隊)は、士気こそ首都防衛と言うことで、それなりに高いものがあったが、武器等の物資は不足気味になっていた。

 ソ連軍の一部の戦車や装甲車に至っては、燃料不足から固定トーチカと目されて、防衛線構築の一翼を担う有様となっていた。

 

 食料等の問題も深刻で、欠乏気味だった。

 民兵に多くのモスクワ市民が志願していたが、その理由の一部が、民兵になれば、食糧の優先配給が受けられるという理由からだった。

 それくらい、飢餓の恐怖が、モスクワ市民に忍び寄る有様だったのだ。


(なお、夏を迎えて、暖かくなったことにより、冬季のように、体温等維持のために大量に食べる必要は減っていたとはいえ、様々な行動をするためには、人はどうしても食料が必要である。

 そして、極寒の中で、空腹に襲われた悪夢の経験を想い起こすならば。

 モスクワ市民の一部は、食べて生きるために民兵に志願していたのだ)

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