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第5章ー17

 そんな高木惣吉少将の想いは、誰にも届くことなく、1943年5月、連合国軍の春季攻勢は始まった。

 北方軍集団の3か所で行われた攻勢は、それぞれに成功し、アルハンゲリスク等に対する助攻は始まり、また、モスクワへの二本の主攻勢の矛先は競い合うように進んだ。

 中でも。


「北白川宮殿下を、モスクワで出迎えるんだ。野郎ども。モスクワ一番乗りは、俺が承る」

 米第三軍司令官、パットン将軍は呼号し、できる限り前線に赴いて、部隊を督励する有様だった。

(なお、これを聞いた将兵達は、

「文言だけ聞けば、バカにしているのか、褒めているのか、よく分からないな」

 という有様だった)


 日本陸軍も山下奉文将軍の指揮の下、機甲師団6個を集団運用して、米第三軍と競い合うように進んだ。

 これまでの中国内戦介入以来の戦訓の積み重ねは、日本陸軍の機甲部隊の運用を熟練させていた。

 日本海兵隊も、それを追いかけるように進撃を行った。

 高木少将以下、第6海兵師団の将兵は、その一員として、モスクワをひたすら目指した。

 岸総司大尉や土方勇中尉ら、歴戦の将兵にしてみれば、罠を警戒する程の快進撃だったが。

 これには裏があった。


 このように北方軍集団の進撃は極めて順調だったが、中央軍集団の進撃は遅々としており、連合軍内部でも問題になる有様だったのだ。

 これは、実は連合国軍側にはこの時点では不明だったが、ソ連軍がモスクワへの攻勢の主力を中央軍集団と予め踏んで、できる限り、その手当をしていたのも原因だった。

 そのために、北方軍集団に向けられていたソ連軍の質量はよくなく、それによって北方軍集団の進撃が順調に進んでいたのだ。

 だが、中央軍集団が遅々としたのには、他にも理由があった。

 

「いかんな。英軍の攻撃が、ほぼ一定になっている」

「できる限り、攻撃準備を整え、能う限りの支援をしながらの攻撃の繰り返しですからね。あれでは、攻撃予告をしておいて、攻撃をするようなものです」

「その間に、ソ連軍も準備を整えるし、場合によっては退却してしまう」

「それで、ソ連軍の損害は抑えられ、我々の進撃は想うように進まないですか」

 5月半ば、ポーランド軍総司令官のレヴィンスキー将軍と、参謀長のソサボフスキー将軍は嘆くように言い交わしていた。


 中央軍集団の前線の主力を担うのが、英軍なのだが。

 その英軍の攻撃は、対ソ欧州戦突入以来、ソ連軍の前に手痛い損耗を繰り返した事などから、極めて慎重に行われるようになっていた。

 それこそ今回の攻勢に伴い行われた縦深攻撃にしても、重砲の砲撃可能圏より奥に入った後への進撃を、英軍は躊躇う有様になっており、そのために日米軍が見せたような快進撃を、英軍は行わなかった。


 これは、英軍の新たな総司令官となったモントゴメリー将軍の性格と、現在の英軍の特質にあるのではないか、と、レヴィンスキー将軍とソサボフスキー将軍は睨んでいた。


 モントゴメリー将軍は性格的に、守備に向いており、大胆不敵な攻撃を行うような性格では無かった。

 勿論、不十分な準備で攻撃を行うのは愚の骨頂と言われても仕方が無いが、だからといって、充分な準備を心掛ける余り、相手に手の内を読まれるのも問題である。

 レヴィンスキー将軍の得ている情報に間違いなければ、目の前にいるソ連軍の最高司令官はジューコフ将軍らしい。

 自分でもジューコフ将軍のこれまでの戦歴を知るほど、充分に注意をして掛からねばならない相手だというのは分かるが、モントゴメリー将軍のやり方では、却ってジューコフ将軍の思うつぼだ。

 ジューコフ将軍の狙いはソ連軍の損耗を迎え、戦力を維持して戦い抜こうというものだろう。

 レヴィンスキー将軍は、そう睨んでいた。  

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