02 深夜の邂逅
クロードからは去り際に、風邪引くなよと言われたが、そこまでか弱くないと文句は言っておいた。
一人になった俺は、今日からでも両親の対策のために、屋敷に戻ることを伝達便の使い魔の鳥に言伝ての紙を括りつけて、外に放した
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次の日も一応の仕事を終えて、訓練や指導など、ある必要な事柄を済ませた頃には、夜になっていた。
資料をルーヴェンスに渡したあと、さて寮に帰るかと、歩いていれば、ローズ宰相に呼び出され、行くことになったのが今日だったことを思い出した。
いっそサボりたい衝動にかられたが、行かなければ、行かないで、あの悪知恵の宰相のことだから良い弱味を見つけたとか思い
何をするか、わかったものではない
ゾッと寒さを感じた俺は、すぐにローズ宰相の館である、黒の屋敷に行くことにした。
人の足だと、走っても30分、馬車で10分ぐらいの距離に黒の屋敷がある、さてどうするかなと考えていたとき
丁度、城の仕事場より外を出たタイミングで、まるで俺が来るのをわかっていたかの如く、馬車があったときは、気味が悪る過ぎて一歩、引いていたら
ロイがひょこっと首を出して御者をしていた。
そしてクロードより向かえを頼まれたと聞かされたときは、ローズ宰相の差し金ではないことに安堵して、馬車に乗り込んだ
◆◇◆◇◆◇
屋敷に向かう間に、ロイから現状的な報告を受けたあと、どうにも両親からの動向によるものを聞いた
両親はいまの所、フラミエルゴの近隣あたりで豪遊しているらしく、王都に着くのは良くても二、三日程度には着くらしいと教えて貰えた
そんな会話のあと、10分程度で屋敷に到着したあと、俺は馬車を降りた瞬間、メリア嬢とクロードがいて、その側にはミラ嬢がいた
ミラ嬢はメリア嬢の専属のメイドで、武闘大会のときにあたり、妙に手腕が凄く、何だか手加減されているような気分になった
そんでもって、何だか知らないが懐かしさを感じ追いかければ、メリア嬢の双子の片割れであるクラヴィストと仲良さげな雰囲気に、嫌な気分になり
声をかける間には、二人きりの雰囲気を邪魔する気にはなれず、変なモヤモヤした気分に支配され
メリア嬢の婚約式では、変に睨まれてしまい
妙に苦手な女性という認識をもってしまった。
そんなことをぼんやり考えてミラ嬢を見ていれば、ロイが首を傾げて
「どうしたんすか、シリウス隊長」
と声をかけられて、ハッと我に返りミラ嬢から視線を外して、メリア嬢とクロードに向きを変えた
「┄お久しぶりです、婚約式以来ですね」
「そうでしたね、あのときはすみません、メリア嬢にまさか、事故とはいえ、押し倒してしまい」
「┄いえ、大丈夫です。そのことは、ロード様には弁解しましたし、おかげで覚悟ができましたもの」
「そう┄ですか? なら、いいんですけど。まあ、俺はクロードに殺されかけて、危なかったですが、な、クロード?」
ニヤリとクロードを見て言えば、うぐっ! と唸り、から笑いを浮かべ、素早く俺の側にくるなり、こそりと呟く
「┄あのときは、謝っただろう、蒸し返すなよな」
「ふふ、まあ、俺もわるかったんだから、お互い様だけど、あのときの形相は、すぐに思い出せるなあ~、嫉妬むき出しの┄┄」
と途中まで言えかければ、クロードが耳を塞ぎ、あ~! とか、あ~あ~! とかを叫び、俺は聞こえない、聞かないという態度をされ
クスクスと笑って、クロードをからかっていれば、メリア嬢が近くに来て
「シリウス様、あまりロード様をからかわないで下さい、お二人が仲良さげで嫉妬しますから」
そんなことを言われ、クロードの肩をポンポンと叩けば、耳を塞いで騒いでいたクロードが大人しくなり
「┄幸せものだな、お前は」
「┄は? 何がだよ」
「嫉妬したんだとさ、俺とクロードの仲良さげな態度にメリア嬢がな┄」
呆れつつも、笑みを浮かべてクロードに告げてやれば、すぐにメリア嬢の側にいき、二人きりの世界に入ってしまう
まったく、二人きりの世界なら他所でやれよと思いつつも、微笑ましく感じて見ていれば
不意に視線を感じて、その方向を向けば、ミラ嬢が俺を見ていたらしく、視線が合った瞬間、何故か今までにないほどに睨まれてしまう
鋭い中に、まるで意図的な感情は悟らせないようにしている姿は、何処か誰かの姿に重なりかけたとき、扉が開く音がし
「┄屋敷の前で何を騒いでいるんだ、まったく、ん? シリウス来ていたのだな」
声には低音の中にあり、嫌味口調は、嫌いな声に俺は振り向き際に睨んでいた。
「┄ああ、来ていたが、ローズ宰相、直々に出迎えてくれるとは、どんな風の吹きまわしですかね」
嫌味たっぷりに、ローズ宰相を冷めた目で見て告げれば、ローズ宰相は眉間をピクッと反応し
「別にお前を出迎えてやるほど、私も暇ではないんでな、我が愛しの娘が風邪などひいては困るんでな」
「ほう~、娘馬鹿はご健在の様子ですが、メリア嬢はクロードの嫁になったのです、娘離れもしないと、後で泣きを見ますよ。ああ、もう泣いてましたね、婚約式のときに」
「ほう┄言うようになったな、クソガキ」
「負け惜しみですね」
などと嫌味口調の連鎖を繰り出した攻防に、メリア嬢が仲がいいですね、と言われ
「「┄何処が仲が良いんだ、気持ち悪い‼」」
と声が重なれば、メリア嬢とクロードが一緒になって笑われ、プイッと互いに視線をそらしておいた。
こんな奴と仲良さげに見られるなど、胸くそ悪い、俺は嫌い、嫌、憎いとさえ思っている相手だ。
そんな奴が何で、呼び出してくるのか不可解で怪しく感じてしまう
次にメリア嬢とクロードにより、ローズ宰相がどうにか機嫌が良くなり、俺とは視線を合わさずに、屋敷に向いて
「┄シリウス・コード、話は屋敷の客間で話す、さっさと入れて!」
と命令され、イラッとしながらも、二人のこともあり、ムカツク気持ちを押さえながら、屋敷の中へと入ることにした。
◇◆◇◆◇◆
客間の中へと通されたあと、クロード達は他にも客を待たせているらしく、二人は別の場所に移動し、客間にはローズ宰相と何故かミラ嬢がそのまま部屋の扉にて待機していた。
何となく、どうしてかと疑問を感じたが、ローズ宰相が息を吐くなり
少し前に執事の人が入れた紅茶を、一口飲むなり、偉く真顔で、冷たい眼差しで俺を見られた
「┄話をしようか、シリウス・コードよ」
ローズ宰相は、先程の空気を一変させる雰囲気で名前を呼ぶ姿は、いち屋敷の主人の者に変わっていて、俺は対等に話す相手として背筋を伸ばし、ローズ宰相の言葉に頷いた
「用件があると、伺って来たのです、どうぞお話下さいローズ宰相殿」
「ふ、いい顔だ。では話す、今回は貴殿に来て頂いたのは、そなたの両親である、ジルビオ・コードとサリエル・コードについて、詳しい事情を話して欲しいのだ」
「俺の両親の事情とは、どのような事柄についてのことでしょうか?」
両親についての事柄は、俺には多く、すぐに詳しい事情といえど、よくわかる訳がないために聞き返せば
ローズ宰相はテーブルにて、一枚の紙を置く
「┄貴殿の両親に詳しい事情を聞きたいのは、この案件についてと、もうひとつあるが、先に、これを読んでみろ、さすれば私が聞きたいことも、理解出来よう」
俺は一度、宰相を見て嘘偽りがないかを見て、真剣な瞳に、曇りがないことを感じて、紙を受けとるなり、目を通せば
そこには、不可解なまでに頭が痛くなる内容が綴られてある書類だった。
まさか┄こんなことを企み、実行しようとしているのかと思うと、阻止せねばコード家は没落いや壊滅的なものが待っている
だけど、阻止するのは、どうにも間違っている気もする、一度は痛い目にあったほうが両親のためにもなる気がした
そしてローズ宰相が望んでいるのは、その証拠たる事柄だ、しかし俺もいま知った事実なため、証拠たる事実など話せるわけがないし
ローズ宰相の意図が何処を指して、俺に┄何を望んでいるのか? 疑わしい気分になる
「┄ローズ宰相、貴方は何を俺に望んでいるんだ?」
「貴殿とは、仲違いの間柄だが、私は国に仕える身、そして貴殿も国に仕える身だ。国を大事に思うは同じ、ならば貴殿に願うのは一つだ」
「私に協力し、貴殿の両親の罪を裁きたい、ただ┄それだけだ」
「┄┄┄罪を裁くねえ、それって、あんたも入るのか?」
罪を裁くとローズ宰相から聞いたせいで、イライラが俺に怒りを思い出させて、睨んだ瞬間
「お前の望む中で、私はいまだ変わらずか」
と何故か悲しげな表情をされたが、それは一瞬で、いつもの嫌味たらしい表情になり
「わかった、そのときは、私も裁かれてやるさ」
「┄その言葉、忘れないからな」
俺は心の奥底に刻みつけ、誓うように言えば、何故かフッとローズ宰相がニヤリと笑みを浮かべて
「それで、誓ったのだから、話すのか? 話さないのか? どっちなんだ?」
「誓っておいてなんだが、話したくは思う、しかし、これについては調べさせてくれないか?」
「ほう、調べさせてとは、まるで私に協力するような物言いに聞こえるが?」
わざとらしい言い方に、どうせ俺がこう話すことは読んでいたくせにと思うものの
そんなことを言えば、ローズ宰相の思うつぼであるのは癪に障るため
「┄もとより、俺は両親に対して不満だらけなんでな、没落しようが、俺は爵位に未練もないさ、まあ俺自身には新しく爵位があるんで未練もくそもないがな」
「┄両親は子供にも罪があると判断されることもあるが、それも大丈夫なわけか?」
「あたり前だ、俺は主に被害者だからな、大切な奴を守るためなら、どんな演技もするさ」
「なるほどな、貴殿の覚悟はわかった。ならば、いまからは争いは中断し協力体制としよう」
ローズ宰相からの言葉に、一瞬嫌な気分になるが、こいつを後で罪が問えるならば、気分も違ってくるため、頷くことにした。
そのあとは話し合いをするなかで、ローズ宰相には、今後の協力についての約束事や、理解にある提案について話していったあと
そういえばと思い出した。
「ローズ宰相殿、俺に┄もうひとつあるとか、言っていたよな、それを話す必要はないのか?」
ふと宰相が、もうひとつと言っていたことを思い出して聞いて見ると
「そのことか、話がずれるから言わなかったが、これも必要なことだから話そう」
「┄もうひとつは、私の養女であるミラを貴殿の手伝いに、使って貰おうと思ったのだ」
「┄┄┄は?」
なんでミラ嬢を俺の手伝いに使うんだ?
ローズ宰相の言っている意味が理解出来ずに、変な声をあげて、問えば、ローズ宰相は自分が言葉足らずであると気づいたらしく
ミラ嬢を呼び寄せたあと、近くにこらせれば
「┄ミラ嬢は、暗部に所属していてな、裏情報や調べる案件にもよるが、メイドとしても、優秀なのだ、両親の証拠集めにも率先してくれる、だから使ってやってほしい」
とローズ宰相から言われて、俺は動揺した。
確かに大会のときの動きや、素早さ、裏からの暗殺的な攻撃にヒヤリとした覚えがあり、とても使えるだろうけど
いち女性であるミラ嬢を道具のように使うのは、どうにも両親と同じような気がして、返事に困っていれば
ミラ嬢が、俺を見るなり、冷たい瞳で
「┄私は暗殺としての誇りもあるので、余計な感情はいりませんよ、命令は遂行して見せますから」
と言いながら、余り感情のこもらない義務的な対応をされて、何でそんな瞳で俺を見るんだろうと疑問が沸いてしまう
「いや┄でも道具みたいには」
「使えるものは、使うものですよ、怪我などしないし、やれと言えばいいのです、私のことなど、お気になさらないで下さいませ」
ミラ嬢はそれだけいい終えると、ローズ宰相の横で、まるで人形のように待機していた
そんな様子にローズ宰相は、どこか苦笑していたものの、俺を見るなり
「┄まあ、こういう奴だが、いい人材だと思うぞ」
と改めて言われ、どうにもわからないが断る理由も見つからないため、頷くことにした