17 両親の変貌と心の戸惑い
部屋に戻った俺は、ベッドに横になるのは何だか憚られて腰をかけたまま、今日の出来事は夢ではないかと思えてならなかった
暖かな手で俺の頭を撫で、優しく笑んだ姿に、冷たさはなく、慈愛が込められていたからだ
「今日の父上は、何処か変だった。でも、あの感じは昔からのようだとも、思えてならない」
これも俺を動揺させる作戦か?
だが、父上の瞳が違った色合いに見えたんだよな。
よくわからない出来事に俺は頭をガシガシと掻いてから、明日にでも聞いて見ればいいとか考えて
明日会話する気かと、自身に苦笑がもれた
ふっ、俺は何をしているんだろうな
やめよう、妙なことを考えるのは、仕事して忘れてやる
そう思い直し、机へと向かい書類と睨み合い夜を過ごしていった。
◇◆◇◆◇◆
次の日になり、つい徹夜してしまい眠気覚ましに、何かを飲もうと台所に行ったとき
母上が何故か料理を作っていた、それも料理人と一緒に、気まずい空気のなかを平気な表情で指示を出していた。
「ほら、それは違うわよ。香辛料はね、ターメリックとコチュジャンを入れた方が美味いんだから、それと┄これとこれをね」
手慣れたように、香辛料を入れ、調理機具を素晴らしい手つきで捌き、野菜類なども包丁を使えば、危なくないようでプロの料理人のようだった。
その光景に俺が固まっていれば、料理人も使用人も同じようになっているものの
メイドのロロアナと娘3人は、少しの動揺だけで、配膳をしたり、皿を出したりと動き回っていて
ときおりロロアナが他の料理人達に、指示を出している不可解な状況があった
固まりから取れたのは、近くに執事のラーシュから声をかけられてからだった
「シリウス様、このような場所で固まるなど、どうかなさったのですか?」
「いや、母上が料理してるから┄┄って言うよりも、何で令嬢なのに料理出来るだ⁉」
硬直より解かれた俺が、沸き出す疑問を呟けば、ラーシュは台所を見て、母上を見たあと
「┄なるほど、今日は演技中ではないのですか?」
と意味不明なことを言われた
「演技?」
演技って何だ? と余計に疑問が沸き出していれば、ラーシュは苦笑をもらして
「何でもございません、きっと気まぐれでしょうし、それよりも用があったのでは?」
「あ、うん。でも何かどうでも良くなったから、俺は部屋に戻るよ。あと食事は部屋でとるから、料理人に伝えといてくれ」
俺は理解しにくい現象に、頭を使いたくなくて現実逃避したくなり、そうそうに部屋に行こうとしたが
「シリウス様、お待ちください」
と呼び止められてしまった。
「なに?」
「徹夜したようなら、軽めの物をご用意しましょうか?」
「┄┄えっと、そうしてくれ」
ヤバイな徹夜したことラーシュにはバレバレか
よく見ているよな
ラーシュに短めな返答をし、俺はそうそうに台所をあとにしたとき、妙に楽しげな母上の声に微妙な気分になったのは、しょうがないと感じた
次に部屋への道すがら、父上と会うが、夜のときとは違い妙に威厳や凄みがあり、冷たい感じがし
俺の嫌いな感じになっていて、何だか声をかける気にはならず、会釈だけで横切るとき
「お前は┄ジルビオのときと俺のどちらを好きになるんだろうな」
と呟かれて、つい振り向けば父上は妙に寂しげな感じで俺を見てから、スッと表情が消えて
前を向いて歩き出していた。
「┄なんなんだ?」
この両親の変貌ぶりは、と続けたくなるのを我慢し、朝から混乱しすぎて頭が痛くなってきた
◆◇◆◇◆◇
部屋に戻ったあとは、本当に現実逃避したくなり、溜め込んでおいた書類に没頭し、朝食がきたあとは食べてしまい、玄関に向かう
仕事に向かうため屋敷を出る頃、いつものように金をせびるような事をすると思っていたが、両親からして何も言わず、ただ出掛けるとだけ言い残しただけだった。
俺はそのことに対しても不可解な感じで戸惑いしかなく、使用人達も同様で互いに見つめている感じしかなかった。
余計に混乱しつつも、屋敷を出て馬車ではなく、歩きで城に行こうと決めた。
風にでもあたり、頭を整理しないと仕事に集中出来ないもんな
ラーシュに挨拶後は、歩きながら町中を見て回っていると、偶然┄ミラ嬢とメリア嬢が宝飾店の入り口にて店内を見ている姿を見かけた。
普段では私服のメリア嬢だったが、珍しく制服を着ていて、ちょっと新鮮な感じだと思っていたが、もっと珍しいミラ嬢の私服姿にドキッとした。
いつもメイド服だけで、私服姿など見たことがないからだ
上からは淡い白を基調としたワンピースに、肩にはピンクのストールを羽織り髪など、ちょっとおしゃれで、綺麗で可愛いとか思ってしまう
それにしても、何であんな所に二人しているんだ?
と思っていれば、宝飾店からクロードとルーヴェンスが出てきて、俺は咄嗟的に近くの物陰に隠れてしまう
そして隠れて見れば、四人して何だか和気藹々としていて、ルーヴェンスなど、ミラ嬢に何か小さな袋を渡した瞬間、ミラ嬢が嬉しそうに微笑む姿があった。
「┄なんだあれ? ミラ嬢が嬉しげって、ルーヴェンスの奴、何をしているんだよ! ムカツクな」
「┄┄┄┄いやいや、ただの買い物だろうし、別にWデートとかじゃないだろう、だいたいルーヴェンスは他に好きな奴いる┄┄いないな」
「いや、だからってミラ嬢を奪われたくない┄┄いやいや、何を言ってるんだ俺は」
余りの衝撃に動揺しすぎなため、頭を抱えていれば、肩をポンポンと叩かれビクッと肩が跳ね、振り向けば、そこにはロイがニヤニヤして俺を見ていた
「何をしてるんすか?」
「┄別に何もしてないぞ、俺は┄」
「その割りには、副隊長の嫁さんとメイドと殿下の買い物を見ながらブツブツ言ってましたですぜ」
「お前は何処から見ていた⁉」
羞恥心と怒りでロイを睨めば、自身の口許に手を当てて
「そうっすね、隊長がメリア嬢とミラ嬢を宝飾店で見かけて、物陰に隠れ、ブツブツ言ってるところまでっすかね」
「全部じゃねーか! 今すぐ忘れろ‼」
「えーどうしてっすか、こんなおもろいネタ、いっとき思い出して笑えるのに」
ぷくくと楽しげに笑い出すロイに俺は拳を掲げて睨み
「よし、殴って忘れさせてやろう!」
「うわっ、隊長が怒ってるし、こわいっす」
などと、わざとらしく怖がりだすロイに、本気で殴ってやろうと決意を固めた矢先
「何をしているんだ、シリウス?」
とクロードの声が聞こえて、俺はソロリと前方を見れば、クロードとルーヴェンス、メリア嬢とミラ嬢に見られていた。