第5話 初依頼
鬼と人間は探偵事務所を設立した。そして設立して早2日。やっと依頼が届いた。しかしその依頼は……そんな第5話です。
暇だ。
学校がないとすごく暇だ。
私自身、学校は嫌いではないが好きでもない。
無いよりかはマシと思っている。
まぁ暇つぶしにはなるし。
「あのー……すいません。」
声が聞こえた。
声的に女性の声だった。
「はーい。今出まーす」
ドアを開けるとそこには20代後半の女性が立っていた。
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「えーっと。うちに何の御用でしょうか?」
突然来た訪問者に聞いてみた。
いや、聞かないと話にならないし。
「私の名前は冬希と申します。私はその……雪女なんです。すいません!こんなこと言っても信じてくれませんよね……」
「信じますよ。私の家には妖怪が2人住んでますから。それで、悩みを相談しに来たんですか?」
「はい。実は昨年、山登りをしてまして。そこで、遭難してしまいまして。冬の山ですし、吹雪が凄かったので帰る道が分からずにそのまま……死んでしまいまして。そして気が付けばこの姿に。私には3歳年上の夫がいるんですよね。その夫に、別れも告げれずに死んでしまいまして。その夫に別れを告げたいんです。そうすれば、何も思い残すこと無く、この世を去れると思うんです。幽霊、それも妖怪なので夫には見えなくて。」
なるほど。
つまり、冬希さんに変わって旦那さんに別れを告げてほしいと。
「あるじさまー!ただいまなのじゃ!」
「ただいま帰りました。」
このタイミングで帰ってくるのね。
多分、驚くから今のこの場で説明しておくか。
「……なるほど。そうですか。それは……残念ですね。」
「私も分かります。私も別れを告げれずに、この世を去りましたから。今となればもう1500年ぐらい前の話ですが。」
そっか。
犬神さんも旦那さんを亡くしてたんだった。
「あの、冬希さん。もし、その方がどこにいるか分かるのなら、教えてくれませんか?」
「はい。しかし、今そこに住んでるかは分かりませんが、大丈夫ですか?」
「大丈夫です。その時は手分けして探しますから。」
「ありがとうございます……!」
「私たちにできることはこれぐらいなので。では行きましょうか。」
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「ここです。」
すごく立派な家だ。
すごく立派な家だった。
三階建てで裏庭があるし車が3台停められそうな車庫もある。
前世はすごい家に住んでたんですね。
「あってますか?苗字は変わってませんか?」
「……違いますね……私の本名は桜坂冬希と言うんですが、これは違いますね。」
住所が変わっていた。
つまりこれは手分けして探さないと行けないですね。
「主様、どうするんじゃ?」
「とりあえずここら辺を手分けして探しますか。冬希さん、旦那さんの写真持ってませんか?」
「はい。持ってます。こちらをどうぞ。」
渡された写真は年齢は30代前半で、顔立ちは凄く綺麗でスタイルは太ってもなく細くもない。
すごく身長が高い。
私が女性だったら多分惚れてるなぁ……すごくイケメン。
こんな男性に生まれたかった。
「とりあえず、犬神さん、空、この写真に似た人物を探してください。犬神さんは左を、空は右をお願いします。」
「分かりました。」
「了解なのじゃ!って主様さっき……まぁ後でいいか」
「あの、私はどうしたらいいでしょうか?」
「私たちは大通りを探しましょう。」
とりあえず、夕方までには探したい。
ここら辺の地域に住んでるかどうか分からないけども。
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「全然……見つかりませんね……」
「そうですね……その写真のような人、全く見つかりませんね………」
やはり見つからない。
犬神さんや空からも連絡は来たが、全く見つからないらしい。
でも依頼者を悲しませることは出来ないし……どうしたものか
「あの……すいません。私のせいで時間を潰してしまって。もう夕方ですし、もう諦めてもいいんですよ?」
「そんなこと出来ませんよ…。冬希さんにとって大切な人なんですよね。なら諦めることなんて出来ませんよ。まだ時間は残ってますから頑張りましょう!」
そうだ。
まだ時間は残っている。
諦めるにはまだ早い。
もう少し探したら見つかるかもしれないし。
「とっしーー!ここで何してるの?」
「あ、七海!いい所に来た!実は横の人の依頼を受けてて」
「まさか仕事が来たの?」
「あの、私が見えてるんですか?」
「はい。見えてますよ。私の名前は橋口七海と言います。どのような依頼なんですか?」
「私の名前は桜坂冬希と申します。実はこの人を探してまして。」
「………あっ!この人知ってる!!」
「え!?それ本当!?ど、ど、どこで見つけたの!?」
「えーっとね。5分前くらいに向こうを歩いてたよ。」
「ありがとう七海!やっぱりお前は頼りになるよ!後で何かお礼させて!何でもするから。行きましょう冬希さん!」
「え??なんでもいいの?ねぇちょっと!」
「ごめん今急いでるんだ!そのことに関しては後で!」
「有力な情報ありがとうございます!七海さん!」
もし。
もしも、この人が冬希さんが探している人なら……私たちはそんな微かな希望を信じて、七海が教えてくれた場所に向かった。
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「はー……はー……やっと追いついた。冬希さん、確認をお願いします。」
「はい!わかりました!」
この人が冬希さんの旦那さんじゃない可能性もあるけど、そうじゃないと信じよう。
「この人です!間違いではありません!」
良かった。
本当に良かった。
「あの突然すいません。」
「はい?何でしょうか?」
すごい渋い声。
「あの、突然なんですけども、冬希さんをごそんじでしょうか?」
「はいもちろんです。私の世界で1番愛した女性の名前ですから。」
「良かった……本当によかった……やっと出会えた……私、実は陰陽師でして、先程冬希さんにあなたを探してほしいと言われまして。」
「それって本当ですか?」
「はい。今、私の横にいます。冬希さんは『夫には私が見えないので、変わって伝えてほしい』と言われました。『今まで迷惑かけてごめんなさい。しかし、私はあなたと出会えて本当に良かったと私は思っています。こんなにも素晴らしくて、優しいあなたに出会えて本当に良かった。私がこの世界から消えても、必ず私はあなたのことを忘れません。あなたを世界で1番、愛しています』と。」
「そうですか。わざわざありがとうございます。本当に……本当に……ありがとうございます。感謝の言葉しか出ません……そこに冬希がいるんですよね?」
「はい。いますよ。」
「すこし、話してもいいですか?」
「勿論ですとも。」
そう言ってその人は冬希さんの目の前に来た。
その人は本当に見えていないのかと思うぐらいだった。
見えるはずのない、見える存在ではない冬希さんを、じっと見つめていた。
「冬希………今まで悲しい思いをさせてごめんな……いつもおまえに迷惑かけて……お前は本当にいい嫁さんだ………私は、本当に幸せ者だったよ。世界で1番幸せ者だったよ……」
その人からは悲しみの感情が見えなかった。
むしろ清々しい感じだった。
多分、ずっと言いたかったんだろう。
冬希さんに。
世界で1番愛した女性に。
この思いをこの言葉を。
「見えるんですか?冬希さんが」
「見えませんよ。しかし、感じるんです。そこに彼女がいることを。私に貴重な時間をくれてありがとうございました。心なら感謝します。」
そうか。
これが愛の力なんだ。
誰にも奪えない力を私は実感した……
「あなた!私も、私も、世界で1番幸せ者でした!」
そう冬希さんが言ったら彼は振り向いて泣きながら、しかし笑顔で笑顔を見せた。
見えない姿。
しかし、そこには私の想像を覆す様な力があった。
見えなくてもお互いを分かり合える。
そんな力がこの2人にはある。
人間って本当に凄い………。
「これで私も悔いなくこの世界を去ることが出来ます。ありがとうございました。これは私からのお礼です。すずめの涙ほどしかありませんが、どうか、受け取ってください。」
そう言って渡されたのは光り輝く、まるで星のような綺麗な宝石だった。
この宝石には彼女の思いが詰め込まれている。
私はそう思った。
「………世界で1番愛している………か……。私もいつか、そう思える人が出来るのかな……」
星のように美しく、月下美人の様に儚い。
空に散らばっていく、無数の欠片。
来世も旦那さんのような優しくて素晴らしい方に出会えたら良いですね。
そう思いながら空に消えていく欠片を見ながら家に帰っていくのであった。