6話 黒い門
黒い門が出現して三日経った今でも、千葉駅周辺には人がごった返している。
門を一目見ようと、門の先には何があるのだろうかと、人の興味は尽きないものだ。
そして、その人混みの中に空達もいた。
「なあ帰らないか? 人がゴミみたいで気持ち悪い……」
「人混み、な。苦手なのは知っているが我慢してくれ、訓練だと思えばいい」
「まだ……見てない。来た……ばかり、だし……それよりも、見え……ない……」
「うげぇぇ……」
空は人混みが苦手なのか顔に縦線が入っており、一方の誠司と睦月は楽しそうだ。睦月にいたっては、ぴょんぴょんとジャンプして門を見ようと試みているが、なにぶん低身長なので未だ見ることが出来ていない。
「くっ……仕方ない……。空、肩車……しろ」
「くっ、って何だよ博士……それに命令形だし」
「いいから……はやく」
「空は僕より背が高いからなー、役得だなー」
「くそ……知ってるくせして……」
空は以前、人が邪魔でパレードが見えないという理由から睦月を肩車してあげた事があった。その時は連日の徹夜明けで、それは酷い顔をしていた。そんな状況で兄妹とは思えない小学生くらいの女の子を肩車していたのだが、それを見た警備員に誘拐か何かに間違えられて一騒ぎがあった。もちろん、遠くで見ていた誠司も知っている事だ。
「ほら……はや、く」
「あーはいはい、やればいいんでしょやれば」
空は睦月の横腹をがっちりと掴み、頭の上へ抱え上げ方に乗せる。睦月のいろいろな部分に空は触れているが身長差からなのか、それとも幼く見えるからなのか変な気分にはなったりはしない。
「おお……高い! よく……見える!」
「そりゃーようござんした」
「感謝……。お礼、に……セクハラで……訴え、ない……」
「セクハラって言い出したら投げ下ろしてやる……」
「仲良いね、二人とも」
三人は他愛もない話をしながら人の隙間を縫って門へと近づいていく。
「おい博士、満足したか?」
「まだ。太もも、サワサワ……してるの、許す。だからもう少し……」
「空……アニオタ・エロゲマスターはまだ許容出来はするけど、ロリコンはダメだと思うぞ?」
「ちっげーよ‼︎ 俺はノータッチだ! 紳士なんだ! それにサワサワなんてしてねー!」
きっと、そのセリフを聞く誰もがアウト、と思う事だろう。イエスロリータノータッチ。完全にアウトである。
「お前が上で動くから触られてるように感じるだけだよ。で、何か分かったのか?」
「空、は……上で、動かれる……方が、好みって、聞いた」
「誰にだ⁈」
「それより、なんか……門の、向こう……人が、割れてる」
「何か起こったのかな?」
「おい! 誰に聞いたんだ! そいつ張っ倒しに行くぞ!」
「空……うるさい……」
睦月は空の髪を引っ張り、足で両脇を蹴り先を急がせる。空は「俺は馬じゃねー!」と叫び、誠司はゆっくりそした動きだが、彼の進む道はまるで人が避けて行くみたいだ。
そして三人は門の前までたどり着いた。
「ふぅ、やっと出れた……」
「空……褒めて、やる。あと、で……ニンジン、ね」
「……」
「おおー、間近で見ると壮大だねー。何か威圧感みたいなものを感じるね。……それで、人が割れたのはアレのせいだったんだね」
空達の視線の先、そこには何台もの軍用車両が門に向かって来ていた。
「これからここは自衛隊が預かることになった! そして、内部調査を始める! 危険があるため、ここに残る者は自己責任だと思え!」
先頭の軍用車両から男が降りて来て、門を見ている者達に警告を出した。
「どうする博士? それに誠司」
「もちろん……見て、いく」
「ここまで来ちゃったしね、門の中くらい外からでいいから見ないとね」
「そうかい」
二人は危険を顧みないそうだ。実際のところ、空がモンスターを外に出すように操作しなければ、危険なんてありもしない。だが、若さゆえなのか二人の安易な行動に、空はウンザリする。
*
「ではこれより内部に突入する!」
自衛隊が来てから30分。ようやく準備が整った。
「やっとだな」
「おそ、い……」
「さてさて、門の先はどんなところなんだろうね」
自衛隊が門に近ずく。そして……今扉が開かれる。
あたり周辺からワァーっと歓声が上がる。
「どう、なって……るんだろ?」
「さあな。けど、ようは便利な道具のドアと同じだろ?」
「すごく分かりやすい説明をありがとう。……でも、実際に見ると凄いね」
三人はそれぞれ声を上げ、そして光の膜で覆われ中が見えない門の中に自衛隊が入り終えると同時に門が閉まった。
「帰ろうか」
「うん……見るもの、見れた……満足」
「そうだね、これ以上は何も見られないだろうしね」
空達は黒い門を後にし、それぞれは帰途に着いた。
そして、空は二人と別れてすぐにダンジョンへと転移した。