4話 これからの事
初めての侵入者は、2人死亡、生存者1名という結果になった。
空はこの結果を受け、どうするのか考える。
「やっぱり一般人相手にはウルフでも厳しいのか? どうなんだろう……男達は何も準備していなかったのだし、武器とか事前準備があればどうにかなるものなんだろうか?」
ダンジョンの目的は『人類を進化に導く』ことであり、人を虐殺することではない。
だからこそ、空は悩んでいるのだ。これ以上難易度を下げるのはほぼ不可能、しかし人間はされるがままになってしまった。男達が何も準備していなかったからなのかも知れないが、あそこまで呆気なくやられてしまっては心配になってしまうものだ。
「運良がいいのか、最初から動画を撮っていた奴が生き残ったのが幸いだな。ちゃんとスマホも持ち帰ったようだし」
そう、生き残った男はダンジョンに入ってからウルフから逃げるまで、カメラを回していたのだ。きっと国にダンジョンの事が伝わるのは時間の問題だ。
国に伝われば、治安維持やら何やらで自衛隊とかが来てくれるのだろうと空は考えている。
そこで、ダンジョンを調査しにくる自衛隊に、宝箱の1つでもあげればいい。そしたらまた宝箱を求めてダンジョンに入ってくれるだろう。
ちなみに、第一階層には宝箱のオートスポーン装置は置いていない、置いているのは第二階層からだ。理由は簡単でDPが足りなかったからである。男達の2人が死んで少なくないDPになったが、空は階層を増やしたいと思っているので貯めている。
「とりあえず、国が動いてくるまでは何も出来ないかな? 銃火器とかの対策とかしたいけど……どうにもならないし。もう一旦家に帰ろうかな?」
ダンジョンの入り口は既に警察が塞いでおり、誰も入ってくる気配がない。人がダンジョンに入って来なければ、DPは手に入らない。DPが無ければ何もする事が出来ない。
現在時刻は22時を回っている。空はアパートに一人暮らしなので心配する者は居ないが、薄暗く土壁で囲まれているマスタールームでは落ち着いて寝ることも出来ない。
また、ダンジョンから空が出ると、マスタールームに転移する事と、モニターを出してダンジョン内を監視する事しか出来なくなる。
しかし、しばらくはダンジョンに誰かが入ってくる気配がなく、加えて何も出来ないので、空は退屈している。そして、アパートに帰って、本やゲームを取りに行こうか悩んでいた。
「そうしようか、これからは大体ここにいることになりそうだし、マスタールームも改造できるみたいだし、今のうちに色々持ってこようか」
マスタールームはDPを使用して床をフローリングにしたり、電子機器なども取り揃えられる。
階層を増やすために貯めようとしていた男2人分のDPを使えば、それなりのものになる。
空は決めたが早いか、DPを消費し住んでいるアパートの自室に転移した。
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「何なんだこれは‼︎」
ただでさえいかつい顔を、さらに強張らせて男が叫ぶ。周りの者はそれにおののいて腰が少しひけている。
「まあまあ落ち着きなさい、鎌田将官殿」
鎌田という男を諌めたのは、日本の官房長官である野良である。
「だ、だがなぁ!」
「貴方は昔からいちいち声が大きいのですよ……。とにかく、今すべき事は声を上げることではありません。この自体ーーこの映像に映るモノをどう対処していくか、またこれは一体何なのかを解明し、国民を守る事です」
現在、ダンジョンから生還した男が撮影したという映像を、とある場所に召集された者達が見ていた。
総理大臣の諏訪部 正蔵。
副総理大臣の西野 忠
官房長官の野良 修
自衛隊・陸上幕僚長の鎌田 光正
この4人がダンジョンの映像を見た者達だ。もちろん、官房長官である野良に報告がいくまでに何人か映像は見ているが、すぐさま箝口令をしいたので国民には詳しいことは一切伝わっていない。また、メディア関係にも野良は手を回ししていた。
「野良君、現在わかっている事はあるのかね?」
「いえ、内部には誰も入っていないので、何も。映像を解析したところ、手が加えられた痕跡が全くなく、映っているオオカミらしき生物は地球上の何処でも発見されていないそうです」
野良に尋ねたのは、総理大臣である諏訪部だ。
そして、野良の報告に皆が顔をしかめ、思わず声が漏れ出る。
「なんと……」
「じゃあこれは、なんだというのですか……」
「おいおい、冗談じゃねぇぞ!」
「動きからして、中型犬の能力と比較すると、少し高いかくらいだそうです。また、見てわかる通り非常に凶暴です」
皆が見る画面には、ウルフが男に襲い掛かり、喰いついている場面が映し出されている。
「油断と混乱、加えて抗う手段がなし。いくら中型犬レベルだとは言え、判断力をなくした者が無事に済む訳はねぇな……」
ウルフの力量を聞き、鎌田は冷静に考察する。
そして、野良がその鎌田に問う。
「将官殿、倒せますか?」
「当たり前だ。近接戦でも刃物なしでいける。その上、銃を使えばなおさらいけるだろうよ」
鎌田の言う事はもっともな事だ、遠距離から秒速で何十発出せる銃でウルフをこうできすれば、ひとたまりもないだろう。また、自衛隊は戦闘の訓練を受けている。そう簡単にやられはしないだろう。
「鎌田君、本当に行けるかね?」
「当たり前だ。ものの数秒足らずで消し飛ばせる」
「……。……そうか。ならば、内部調査を任せたい、皆はそれでいいか?」
諏訪部は3人の顔を見ながらそう尋ねる。
「問題ないです」
「そうですね、しなければ何も進展しませんから」
「ああいいぜ! 任しときな!」
そして、4人は解散する。
こうして物語が少しだけ進むのであった。