27話 選択 (終)
空は神との対話を終えて、現実の世界へと帰ってきた。
結果から言えば、世界は空が神のいた白い空間に行く前とほとんどが変わりはなかった。変化したところをあげると、ダンジョンの数が初期の頃の6つに減り、それら全てが日本に出来たことだろう。それ以外は全てが元の世界のままだ。
神に言われた『これからどうしたいのか』の問いかけに対し、空は『このままでいい、だけどダンジョンの数を減らして欲しい』と答えた。理由は単純で、管理がめんどくさいという理由であった。
そして、おまけにノッテクラスの魔人を5体くれと、空は要求を追加した。これは、副ダンジョンマスターとしてその魔人たちにダンジョンを管理してもらうためだ。
自分で6つのダンジョンを管理してもいいのだが、どうしても一人でやっていると全てのダンジョンが同じような構造になってしまい、それを避けるために空は魔人たちに任せることにした。
そしてダンジョンは空の思惑通りになった。火、水、風、土、光、闇、それぞれをテーマにした物だ。そして、それらを管理するものは順に不死鳥、天龍、風聖霊、鬼、天使、ヴァンパイアのそれぞれの最高位の6体だ。神に『魔人』と空はお願いしたはずが、どう見ても鳥と龍がいたがちゃんと知性はあり、強さも他の4体と同じくらいであり、人型でないだけだったので空としては良しとしている。
世界は突然に日本以外にあったダンジョンが消え去り、突如として混乱に陥った。また、そのことで日本に対し、ダンジョンで取れるものを優先的に回せ、ダンジョンを我らに明渡せなどと戦争まで起こそうとしてきた国もあったが、たちまち首謀者が暗殺されていたり、手を出すと殺すと国のトップ宛に手紙が直接送られていたりした。もちろん誰の仕業か知られずにだ。
世界はゆっくりと変わり出していた。
日本にのみにダンジョンがあり、そしてそれらは今までのダンジョンとは難易度が違い、安全性などというものは無くなっていた。それもそのはずで、ダンジョンルールの全てがなくなったことで、階層ごとに難易度を合わせなくて良くなったからだ。また魔物種類も今までに増え、一階層に多種多様な魔物が入り乱れることになり、魔物に会う頻度も多くなっていた。
日本以外の各国は交渉の結果、選りすぐりの探索者を数名派遣することが決められ、その選ばれた者がダンジョンを探索し持ち帰った物は自由にしていいことになった。
そこまで行くので世界は数年を要していた。その間、日本では探索者育成学校を建設する計画を立てられていたりもしている。そしてそれは完成間近と言ったところだ。
そしてその講師として優秀な探索者を当てることになり、深部で活躍している者たちを集め会合を行った。
その中には当然のように大学生となった空の姿はあった。そして誠司と実里、睦月の姿も合わせてそこにはあった。
数年の間で空達のパーティは若いながらもトップ3に入るほどの実力があり、発言権もそれなりに強くなっていた。
空は親友達を殺そうかなと思っていた時期もあったが、それは止めることとなった。止めた理由は空にはなかった。ただ、神に言われたことが空の心に何と無くシコリとなり、気持ち悪くなってやめたのだ。それに合わせて、魔物をダンジョンの外に出して暴れさせよういう計画も空は白紙に戻していた。
やることになくなった空は取り敢えず『俺つぇぇぇぇぇ』をして見たいと突然に思い立ち、親友強化月間を始めたのだ。
その結果、とても目立ち過ぎた。トップ3と表現をぼやかしたが、実際はぶっちぎりの1位だ。2位と3階層分も差が開いた。また、誰にも見せたことはないが空は一人で副ダンジョンマスターのSSSランクの魔人達を一度に相手して勝てるレベルにまでなっていた。
今では世間の注目の的であり、誠司と実里、睦月のその優れた容姿も相まってアイドル的な人気ぶりになっている。しかし容姿が普通な空は目立ってはいたが、悪目立ちをしていた。いわゆる『なんでお前みたいなやつが3人と並んでいるの?』だ。空はテレビに出演するたびに、恋人である睦月に泣きついていた。
空は未だにダンジョンのことは誰にも話していない。今後話すことも絶対にない。そして空の異常性が完全になくなることも無いのだろう。
彼はどうしようもなく狂っている。神に対してそれを解消させることも、母を生き帰らすことも願うことで叶えることが空には出来た。
しかし、空はそれを望まずに元の世界へと戻った。それが良かったのか、悪かったのか……他の人間からしたら迷惑極まりないが、少なくとも空は遊びや、気分でなど無意味に人を殺すことは無くなった。殺しを行うのは大きな争いに発展しそうになった時に、最小限に介入する時のみになった。
そして徐々にではあるが、空は人を殺すことに悦を覚えることがなくなっていった。慣れていったとも捉えられるが、空には忌避感のような者がほんの少しだけ芽生えていることから、慣れとは違うのだろう。
――きっと、彼は変化して行っているんだと思うよ。少なくとも私はね。
***
「空〜! 早くこないと置いて行っちゃうよ!」
実里が手を振って催促している。
「ああ、ごめんごめん」
俺は今誠司達とダンジョンに入ろうとしていた。
このダンジョンは闇をテーマにしたダンジョンだ。地元から近いということで良く俺たちはここに挑むことが多い。
実里達は転移結晶の前にいる。転移結晶は水晶のような物でできた人間大の柱だ。それに触ると半透明のウィンドウが現れて、行ったことのある階層に転移することができる。
「今日挑むのは第五十二階層だっけ?」
「そう……空……覚えて、ろ……」
「お前ほんと昔っから変わんないよな……てか酷くなってない?」
睦月とは高校の二年の夏辺りから付き合い出した。その頃も口は酷かったように思えたが、年々酷くなる罵詈雑言にちょっと胸が踊ってしまう俺は手遅れなのかな? いいや違うと信じたい。
そして、出会った時から背の変わっていない睦月と付き合っている俺はろりこんじゃないよ? ほんとだよ?
「はいはい、空と睦月が愛し合ってるのはわかったからさ、早いとこダンジョンに入ろうか。列ができてるからさ」
「おい誠司、どこをどう見たらそうなるんだ!」
「空、ドM……してほしい、って……いつも」
「うっわ……キモ」
「ちょ実里! てか博士! 何をありもしないこと言ってんだ! 俺はノーマルだ!」
「まあまあ、3人とも取り敢えず入っちゃうよ」
誠司がみんなの腕を掴んで転移結晶に触れさせる。
おい、言い訳嫌いさせてほしいんだ。ちょっと睦月に罵られると胸がざわつくだけで、本当に俺はノーマルなんだ!
だがしかし、虚しいかなぁ、俺の必死な抵抗も意味なく無情にも転移結晶が輝き出し転移が実行される。
視界が光に包まれ、それが治ったかと思ったら周囲の景色が一転していた。
「うわー、やっぱりここ気味が悪い……お化け屋敷に来た気分になる」
「そうだな、いつまでたっても慣れる気がしない」
「そうか? 俺はもう慣れたぞ?」
「私も……慣れた。そもそも……好き、だし」
第五十二階層は墓場の様な場所だ。日本式のではなく西洋風の墓地だ。たしかに怖いとは思うが、これがノッテの趣味と思えばなんてことはない。
ノッテはおバカなやつだなと最初は思っていたんだが、以外と歴史に興味を示し、今では暴れたい! なんていい出さなくなった。暴れるよりも歴史書を読むかストラテジーゲームに夢中になっている。
「今日はボス戦だろ? しっかりしてくれよ」
「まあそうなんだけど、やっぱり気が滅入っちゃうんだよなここ」
「そうそう、もっと光の方みたいに明るかったらいいのに!」
「そう? ここ、暗くて……いい」
何気ない雑談、俺は最近やっと楽しいという物がわかってきた様な気がする。何故変わったのかは分からないけれど、どうせあの神様が何かしたんだろうな。
ただ、何かしてくれたのならそれは嬉しいことだと思う。俺はこうしていて嫌な気持ちにはならない。昔感じていた『迷惑』もなくなった。
きっといいことなんだろうよ。
少し歩みが遅くなってしまい3人の後ろ姿を見つめる。
あいつらを殺したいと、あれほど思っていたのが嘘みたいだな。
さて、今の俺はあの神からどう判断されるのだろうか、狂っていると笑われるのか、はたまた正常だと残念がられるのか……どちらでもいいか。
「空? どうした……の? 早く」
「おっそーい! もうボス前だよ!」
「空、しっかりしろよ」
友人達が手を振っている。みんな笑顔を浮かべて俺を見ている。
嬉しくも思うが、そう思っているのは一部分だけで、俺の大部分は何も感じていない様な気がする。
「ああ、今いくよ!」
ただまぁ、やはり今はそれでいいんだと思う。きっと、一歩一歩解決していくように――少しずつ少しずつ俺は変わっていくんだと、そう思う。
いいことか悪いことなのか……変化することは少し怖くはあるが、変わって見たい、そんな気分だ。
だからまずは、この黒い門の先にいるモンスターを倒すことから始めてみようか、仲間と協力するって、それらしいことだからな。
強引で適当な終わりですみません。
ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。
続く作品達もどうかよろしくお願いします。




