15話 友人との夏休み2
水着は問題なく買うことができ、空は無地の黒いハーフパンツタイプを誠司達に買ってもらった。
その後空達はデパートから二駅行ったところにある屋内プール施設に向かった。
そして現在は更衣室で水着に着替えたところだ。
「空着替えたか?」
「ああ、着替えたよ。さっさと行こう、あいつらより遅かったら何言われるかわからんからな……」
「違いない」
空達は笑いながら更衣室を後にしプールに向かった。
プールまでの道はそこそこ長く、プール特有のにおいが染み付いていて、来たんだなと空に改めて認識させた。
「まさか俺がこんなとこに来るなんてな……」
「そうだな、引きこもりな空が自分で来たいとは思うはずないもんな」
「ああ、どうせ中は人が洗濯機の中に入ってるみたいになってんぞ?」
「あはは、そうかもな。だけどここってかなり広いからな、すいてるところもあるだろうさ」
「だといいけど……」
空が道の先の事を思い浮かべて、やれやれと頭を抱える。しかし無情ながら、空達はプールに続く扉にたどり着いた。
そして、扉をくぐった先にはーー
「やっぱゴミじゃん」
「ゴミじゃなくてだな……まあすいてる方だと思うよこれでもさ……ほら結構施設あるし分散されてるし大丈夫さ」
「何を持って大丈夫って言えるんだ?」
確かに誠司の言う通りに様々なタイプのプール施設が中にはある。流れるプールや波のプール、滑り台のあるもの、遠泳用のもの、子供用に様々なギミックがあるもの、温泉も中にあるようだ。それ以外にも様々な様式のものがある。
しかしそのどれにも人で賑わっており、空にとっては最悪のふた文字以外ない。
そして、空は嫌なものを見つけたのか指を向けて誠司に話しかける。
「おい誠司、あそこ見てみろ」
「どこ?」
「スライダーの上の方、高校生カップルと思われる奴らがなんか乳繰り合ってる。あ、流れるところにも……あ、あそこも、あそこも、あそこーー」
「落ち着け空。前から思ってたけど、空ってすごく目がいいのな……スライダーの上にいる人なんて良く見えるな……」
「いや、俺はそこまで目はよくはないぞ? 嫌なものほど良く見えるようになる特技があるだけでな? ほんと、呪いたくなるなああいうのは」
そういう空の目はどんどん暗くなっていき、背中から何か変なオーラが出ているようだ。そんな空を優しい目で誠司は見ている。
そして、空の後ろから、よく知った声が聞こえた。
「ちょ、空から変な圧感じるんだけど……どういう事?」
「あー来たね二人とも。しょうもない事なんだけどね、空がカップル率の高さを呪っているだけなんだ」
実里はテニスによって引き締められた肉体が惜しげもなく外界にさらけ出されるビキニ姿だ。薄い布地のパレオから覗くスラット伸びた脚は数々の男性の視線を集めることだろう。
変わって睦月はスクール水着。では花柄のワンピースタイプの水着だ。着る人が着れば絵になりそうな物だがいかんせん睦月は小さいた子供っぽく見える。
「ほんとどうでもいいことね……空! そんな事してないで早く行こうよ!」
「るせー! あいつら恋人いない奴を指さして笑いやがるんだぞ?」
「そんな事しないって、空だって頑張れば彼女作れるって……多分」
「多分⁉︎ 多分って言った実里! 泣くよ? 泣いていいよね?」
「そもそも空って女の子に興味あったの? 画面の中しか見てないって思ってたんだけど」
「お、俺ってそう言う認識だったの? お前の中では?」
「え? 違うの?」
空は実里の言葉に驚愕しながら誠司と睦月に目を向け「お前達はどうなんだ?」と問う。
「ごめん、俺も」
「せ、誠司まで……」
「私は……違う……」
「博士!」
「女の子……中でも、ロリ!」
「違うつってんだろぉぉ!」
空の叫び声が施設内に虚しく響きわたるが、人が多いせいか叫び声はかき消された。
誠司達は互いに笑い合い、頭を抱えてうずくまっている空に声をかける。
「まあそれは置いといて、早くいきましょ?」
「そうだね、ここまで来たのにまだプールに入ってないんだからな」
「ん、空……早く、行こ?」
「分かったよ……」
空達は階段を降りて、近くにあるシャワーを浴びてとりあえず流れるプールに入った。
流れるプールにも人は沢山いる。どれくらいかと言うと、手を大きく横に振れば人に当たりそうになるくらいだ。
「うげぇ……人口密度高すぎないか? 本当に気持ち悪くなりそうなんだけど……」
「大丈夫だって!」
「そうそう、話をしていればなんとかなるさ……」
「なんとかって……って、そういえば……」
空は気持ち悪いのを我慢しながら、なにかを思い出したのか周りを見渡し、そして睦月に視線を向けて話し出す。
「博士……お前迷子にならない? と言うか溺れない? 浮き輪してないし心配になるんだが……」
「空……私に、水泳のタイム……負けてる……」
「そうなんだけどさ……博士小さいし、こんなに混んでるから溺れそうだなーって」
「まぁそうだね、ここに来るまでにも一回人混みに流されているからな」
「確かに、空が心配になるのもわかるよ。私も心配になって来た! 浮き輪もらってこよう!」
そう言ってプールから出ようとした実里を睦月がパンチで止める。
「やめて……実里。大丈夫……な、はず……」
「うぐ……はずって……それダメなやつだって! どうしよう……流石にプールで水難事故とか嫌だよ?」
「同感だ。博士、素直に浮き輪をつけてくれ? な?」
「……いや。ますます、子供っぽく……なる……」
睦月は断固として浮き輪が嫌なようだ。確かに睦月のなりで浮き輪をつけてプカプカと浮かんでいて、さらにその周りに高校生のお兄さんお姉さんがいるとなると、遊んでもらっている小学生のように見られるかもしれない。
そう見られるのは立派なレディである睦月にとっては嫌で嫌でしょうがなく、空達が心配しているのが分かったいるものの、譲れないものが睦月にはあった。
そんな睦月に誠司はある提案をする。
「睦月、空に手をつないでもらうなり抱っこなり、それこそ肩車されるのはダメか?」
「おい! 何言ってんだ誠司⁉︎ ついに狂ったか」
「狂ってない。これでも睦月と付き合いがながいからな、性格くらいよく分かっている。で、どうだ睦月?」
「うん、それでいい……むしろ、それが……いい……」
「即答⁉︎」
睦月は空に手や抱っこやおぶってもらうのなら、周りに子供っぽく思われてもいいと簡単に自分の誇示を譲り渡す。
睦月は空が好きとかではなく、ただ単に空をいじるのが好きなのだ。昔、警備員に空が補導された時、顔こそ冷静で無表情だったものの内心ではウッキウキであったのだ。
「空? 肩車……要求……」
「え? マジでするの? やだよロリコンって思われたくないもん」
「もんって……そっちの方がどうかと思うぞ?」
「いいじゃん空、肩車は良くやってるんでしょ? それと一緒だって」
「そう……早く……」
「え? マジで? 本当にするの?」
嫌だ嫌だと首を振っていた空だが、ついぞ3人に押し切られ睦月をおんぶすることになった。
空は睦月を抱き上げ肩の上に乗せる。空は睦月のむき出しの太ももに顔が挟まれ、支える手も素足に触れるが、やはり依然として空は全く興奮しない。
「よかった……俺はロリコンじゃない」
「私、立派な……レディ……ロリじゃない。それより……もっと、屈んで……」
「あいよ……」
誠司と実里が言い合う二人を見て笑い合っている中、空は顔が水面ギリギリになるまで体を沈める。足腰が痛くなるかもしれないと空は思ったが、睦月が軽いためなのか苦にはならなかった。
***
空達はたわいない雑談をしながら何周か流れるプールを回り、そろそろ次のところに行こうとなったが、ふと空は気になったことがあり3人に話しかけた。
「そういえばなんでお前らはプールなんかに誘ったんだ?」
「だから言っただろ? お前が夏休みの間中引きこもってばっかだからだよ」
「そうそう、私達がこうでもしなきゃ外出ないじゃん」
「空……不健康……ダメ」
3人はそういうが、なんとなく空は腑に落ちない。
「確かにそうなんだが……お前ら、前までは家に来るとかだっただろ? 夏休みにこうやって強引にでも連れ出された事なんて一度もなかっただろ? 祭りとかは行ったけど、それは俺も行きたかったからだし」
「そうだけど」
少し気不味い雰囲気が4人の間に流れるも、気にせずに空は話を続ける。
「それに、だ。わざわざ俺の水着をお前らが買って、なんだかんだでプールの入場券も買ってくれたよな?」
「そ、空?」
「実里、怒ってるとかじゃないぞ? ただ疑問なだけだ。確かにお前らとつきあいが長いけど、ここまでされるいわれはないぞ? 親しき仲にも礼儀ありってヤツだ」
「ちょ、ちょっと待ってよ」
「待てない、何隠してるんだ? 会った時から思ってたけど、違和感みたいなんもんがあった。すっごく気を使われてるって言うか、嫌な感じじゃなかったから別に気にしてなかったけど、流石に気持ち悪くなってきたんだよ。人にじゃないぞ?」
3人は返す言葉がないのか沈黙してしまって、空がさらに言葉を重ねる。
「お前らが悪気があってじゃない事は分かってる。俺が何年お前らと一緒だと思ってる。特に誠司と実里は幼稚園時代からだぞ? そんな俺が分からないと? そう思われてたんならちょっとショックかな……」
「そうじゃない! そうじゃなくて……違うのよ……」
「実里……ごめん空、別に隠していたとかじゃなかったんだ……」
「そう……みんな、不安で……夏休み中……ずっと空と、連絡……付かなかった、から……」
連絡がつかなかった。その事に空は思い当たる節があった。マスタールームに電波なんてものが届くわけがなく、ダンジョン内でスマホはずっと圏外だった。DPを使ってインターネットの回線は整えた空だが、スマホは外にいるときに使えたらいいやと、何もしなかった。
今回誠司から連絡を受けた時ちょうど外にいたから返信できていた。
それまでにいくつも誠司や実里、睦月からの通知が来ていたが、あいにくダンジョンの中にずっと空は引きこもっていて、全然確認しておらず、とりあえず『引きこもって通知見てなかった』と返しただけであった。
「あー7月の最後らへんに携帯が壊れちゃってな、修理に出してたんだ。ごめんね☆」
「ごめんじゃない! 私達がどれだけ心配したと思ってるの!」
「空……また、昔みたいに……鬱って……自殺……かもって……」
「それに空のアパート行ったけど何日も帰ってないようだったじゃない! 肝が冷えたわよ!」
「あの時、空と連絡付かなかったから警察に届け出してたぞ?」
友人達の言葉が空の心に刺さる。そして警察に捜索届けが出されそうだった事に空は冷や汗をかき、とりあえずそれらしい言い訳をする。
「し、親戚の家に連行されてたんだよ」
「連絡くらいしなさい!」
「だから携帯修理に出してて、それにお前らの番号覚えてないし……」
「せめて書き置きとか今日みたいにこっちに来てとかでも良かったんじゃないのか?」
「急に連行されて書き置きの暇なかったし……ずっとゲームしてたし……考えてなかった」
「……へぇゲーム、そういえば空の部屋の中いつもあるはずのゲーム機が無かったわよね? 急に連れ出されたって言ってるけど……しっかりゲームは持って行ってるじゃない!」
「マジごめん!」
やはり適当に考えた空の言い訳は穴だらけであった。
「世界中であんな事になって……空がまた変にならないかとっても心配してたのに」
「俺達が心配している中、当の本人はゲームをしていたと……いいご身分だなあ空は」
「空……反省……」
もう空には返す言葉がなく、ただ肩が重くなっていった。しかし実里の言葉に気になることがあった。
「なあ実里、あんな事ってなんだ? あいにく親戚の家じゃ誰とも関わってないし、テレビ見てないし、携帯帰ってきてからネットもSNSも見てないからな、世の中で何が起こってるとかまったく知らないんだ……」
「え……それって……。誠司、睦月どうしよ教えたほうがいいの?」
「わから……ない……」
「いいから教えろよ、気になってしょうがない。まあロクでもないことってのは分かるけどよ……」
「……教えた方がいいだろうな。どうせ後で簡単に分かる事だ。今教えた方が対処しやすいだろ」
実里と睦月は少し悩んだが、それがいいと判断する。そして誠司は流石にここでは何だから落ち着ける場所で話そう、と何処かないか考えている。
「それなら風呂でいいだろ。この施設内にもあるし、俺風呂好きだし落ち着ける場所に適切だ」
「そうだな、そうしよう。それでいいかな二人とも」
「そうね空がいいならどこでもいいわ」
「同感……」
「なら行こう」
四人は施設の端にあるサウナや露天風呂が併設されている区画に向かい、飲み物を買った後露天に続く扉をくぐった。




