12話 姿見えぬ侵入者
人々が寝静まる頃、現在時計の針は深夜の4時を指していた。
そして、空は転移を使用して手当たり次第に研究所に侵入し、魔石についての研究をしているところを探していた。
「やっと見つけた……何軒回ったかな? 覚えて無いや……てか、4時なのにまだ働いているってどうなのさ……」
空は0時から研究所の探索を開始し、いくつもの研究施設に侵入するもどれもがハズレであった。
そして、ついに魔石を研究しているところを見つけ、人目も気にせずに空は資料を読んでいた。
「なるほど、修理か。バイパーのはまだわかっていない、と」
人のいる研究室の中で空は報告書を読み、研究員の近くにあるウルフの魔石を一つ手に取る。
「えーっと、壊れてるのは……これか。……ダメか。……あ、やっぱそうなのね。魔石は魔道具と同じなのか」
空は近くにある壊れた顕微鏡に魔石を二度近づけた。
一度めは何も考えずに近づけーー何も起こらず。
二度目は『直す』とか考えながら近づけーー顕微鏡は直った。
これではまだ厳密に魔石は魔道具と同じとは言えないのだが、どちらも目的に合った意思を持ちながら使わないと効果がないという点では共通している。
「人間には判別が無理だなこりゃ。『鑑定』のスキルがあるならともかくとし……ってあぁぁぁぁ!」
空は人がすぐ近くにいるにもかかわらず大声を上げる。
しかし、空が大声を上げたにもかかわらず研究室内の人間は誰一人として気付く者はいなかった。
『スキル』それは『力』だ。持っている者と持たざる者では圧倒的な差が出る。と言ってものスキルレベルが低ければ、ランクがそう高くないものであれば、そこまでの差は出ないのだが……。
空は有り余るDPのほとんどを費やし、二つのスキルを取りそのレベルを上げた。
取ったスキルは『気配遮断』と『無音』の二つだ。
スキルにはいくつか種類があり大まかには、自分の意思なく効果のある『パッシブスキル』と、自分の明確な意思によって発動する『アクティブスキル』だ。
『気配遮断』や『無音』は無意識の内にでも発動するものなので、『パッシブ寄りのアクティブスキル』となる。
そして前者は自身の気配を他人に気付かせにくくする効果がありまたレベルが高いと映像機器に映らなくなる、後者は自身が出す一定の音量を消す効果がある。
その二つのスキルのお陰で研究員に空は全く気付かれ無い。スキルレベルが異常に高いためそうなるのだ。
挑戦者ならともかく、DPさえあればどんなスキルでも取れるダンジョンマスターならばそのようなことは容易い。そう、どんなスキルでも取れる、だ。
「俺が『鑑定』を取って魔石見れば全部わかったじゃねーか! 四時間だぞ……眠いの我慢して頑張ったのに……」
空は情報を得るためにスパイごっこをすることに夢中になった結果、『鑑定』を取って魔石を見るという一番簡単な方法が思いつかなかったのだ。
また、一定レベルの鑑定と同じ効果の持つ魔道具もDPを消費して出せることに空は今気づいた。
「もう良いや……眠い。明日学校あるのに……あーどうしようかな……めんどくさい、明日考えよ」
空は魔石についての報告書を見つけた時までのテンションが急激に下がり、もうどうでもよくなってしまいマスタールームに転移し、すぐさまベットに入った。
数日後、空は魔石のことを思い出し研究所をのぞいてみるも、全く進展している様子がなく。空としては利益を早く出してもらい、ダンジョンの有用性をもっと認識して欲しいため、研究所に鑑定の効果を持つ魔道具を説明書付きで送ってあげた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ダンジョンの第一階層を自衛隊が攻略してからさらに時間が経った今日この頃。
総理、副総理、官房長官、陸上幕僚長がいつもの部屋に集まり顔をつき合わせていた。
「それで、何が合ったというのかね野良君」
「そうだぜ野良、急に集まれって言われたから来たけどよ、一応こんなでも忙しいんだぜ?」
「すみません皆さん。しかし緊急な事案が発生したのです……」
諏訪部や西野、鎌田の三名は急に呼び出され、非常にマズイことが起こったのであろうと予想はしていたが、野良の混乱しきっている表情を見て思わず唾を飲む。
「い、いったい何があったと言うのかね……」
「お前がそんなになるなんて……相当なことか?」
「い、一旦水でも飲んで落ち着いてください」
野良は水を取りに行こうとする西野を「いえ、大丈夫です」と片手で静止し、そのまま話を続ける。
「昨夜の23時ごろ、魔石を調査している研究室に何者かが侵入しました。そして研究員の誰にも気付かれることなく、ある道具とその説明書を残していきました……」
「なんだと‼︎」
野良の報告を聞き真っ先に声をあげたのは鎌田だ。他の二人は驚きすぎて声も出ない様子だ。
「あそこは厳重に警備がされているはずだ! センサーに人物認証、カメラだってある! 登録されてない奴が入った時点で警報が鳴るはずだ! それに中の奴らが気付かないうちに物を置いていくだと⁉︎ ありえない!」
「鎌田将官殿……ありえないと思っているのは私も同じです。……しかし、実際に物が残されていました」
「研究員の誰かがした悪戯じゃねぇのか? 警備を突破したのも信じられねぇが、誰にも気付かれずに研究員のいる部屋に物を残すなんて、それこそ悪戯としか考えられねぇ」
「いえ、確実に外部の者の犯行でしょう」
「だからなんでそう言える!」
鎌田が野良に問い詰めるが、野良が懐から写真を数枚出し机の上に並べる。
「これは何かね野良君……」
「虫眼鏡……だな……」
「これは魔道具なる物らしく、鑑定が出来る物のだそうです」
写真の中にはやたらデコレーションされた大きめのサイズの虫眼鏡があった。ひと昔の女子高生が持っていたような物みたいにホイップクリームや宝石などで彩られている。
もちろデコレーションしたのは空であり、ささやかな嫌がらせのつもりであった。余談だがデコレーションは何度か失敗しており、四度目の挑戦で成功した。また使われている宝石類はまごうことなき本物の宝石であったりする。
「皆さま……言いたいことはよくわかりますが話を聞いたください」
「あ、ああ……」
「そ、そうだな……」
「これはなんともふざけた外見ですが、効果は本物でした。ベビのモンスターから得られた石ーー正確にはバイパーの魔石は一定までの毒を浄化する効果がありました」
ただ、出来ることは精々お腹を壊す程度の毒性のものまでしか浄化できないものである。そして、野良はそのことを三人に説明した。
「それは……またなんとも言えない……」
「いや実際すごいと思うぜ? 腹壊す程度なんなら水を浄化出来るかもしれないしな」
「そ、それが出来れば凄い事ですよ!」
「いえ……副総理殿に鎌田将官殿、それは既に実験されており不可能と結果が出ています」
「そうか……」
魔石の近い道を知った研究員達は色々実験し、バイパーの魔石は『毒』と判別される物にしか使えず、微生物や菌、ウィルスに対しては効果が無いと報告書を製作していた。
「また微妙な……と、そうではなく侵入者の方はどうなのかね?」
「それが……魔道具にも説明が書かれた紙にも指紋などは付いてなく……監視カメラにもそれらしき人物は映っていなかったと……」
「何者かわからない……せめて敵意のないものであれば良いのだが……」
四人だけの会議は日が昇る頃まで続けられていたが、姿見えぬ侵入者への対応についての結論は出ず、頭を抱えたまま解散となった。




