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青春議論のお時間です。  作者: 示木海斗
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第一章 第二話 隙あらば勧誘


 俺と女子生徒の目があっていた時間は数秒か、はたまた数分か。

 思わず目を奪われるその可憐さに俺は声も出なかった。

「…誰……?」

 綺麗な声だった。その声が目の前の女子生徒から放たれたものだと気づくのに、少し時間がかかった。

「…あ、備品室に荷物運べって頼まれて…」

 ありのままのことを話す。

「…そうですか。」

 そう短く告げ、彼女は持っていた本へと目線を移した。

 ……こんなところで読書をしていたのか…?

 持ってきたダンボール箱を備品室に置くために、俺は備品室の中に入る。

 どの辺に置けばいいだろうか。

「……そこに置いておけばいいと思います。」

 彼女は備品室の一角を指差して、そんなことを言った。

「あ、ありがとうございます。」

 ……案外優しい子なのだろうか。

「なんでここで読書してるんですか?」

 ただ疑問に思っていたことを口に出す。

「…そんなの人の勝手だと思います。」

 それは間違ってはいなかった。しかし、本校には文学部、というものがある。その名の通り、文学作品に触れ、作者の思想などを追求したりしてなんちゃらかんちゃら…みたいな部活だ。

 …まあ、『あるだけ』といったほうが正しいか。

 文学部が存在するのにも関わらず、こんな薄暗い備品室で本を読む。

 不思議でしょうがなかった。

「文学部には入らないんですか?」

「……っ!」

 俺の問いかけに、彼女は息が詰まったかのような反応をした。

 ……何かおかしなことを聞いただろうか。

「……えぇ。別に、私が入らなくたってあなたには関係ないと思いますが。」

 それは間違っていた。

「いや、実は俺、文学部に所属してるんですよ。でも部員が俺含めて二人しかいないんで、読書好きな人にはぜひ入ってもらいたくてですね…。」

 俺は文学部に所属しているのだ。そして横峯も所属している。

 俺自身はそうでもないのだが、横峯は大の読書好きなのだ。

 もともと少なかった部員数だが、当時三年の先輩方が引退して、二年に進級してからは俺と横峯の二人しかいない。

 そんなこともあり、彼女に対し、勧誘アピールをする。

 ……別にこれを機にお近づきに慣れればいいなとかいう下心があったわけじゃない。ほんとうに。 

「俺は二年二組、結城隆治(ゆうきたかはる)って言います。もし所属してくれる気になったなら声をかけてください。」

「……たかはる…。」

 彼女が小声で何か言う。

 俺は難聴ではない。むしろ聴覚は良いほうだ。なので彼女が俺の名前を呼び捨てにしたことは普通に聞こえていた。

「……え?」

「…っ。いいえ、何でもありません。お心遣い感謝致しますが、あいにく私は文学部に所属する気はありません。」

「そうですかぁ…。まあ、気が変わったらいつでもお願いしますね。」

 そう告げて、俺は備品室から出ようとする。

 その時、後ろから視線を感じたのは、気のせいだったのだろうか。













「………知っているわよ、そんなこと…。」

 一人の女子生徒の口から漏れ出たその言葉は、哀愁を伴って薄暗い備品室の中で反響していた。








 


 俺はその後職員室に戻り、犬宮先生にダンボール箱を運び終えたことを告げて、帰宅するために下駄箱に向かった。

 下駄箱から靴を取り出しているとき、俺は先程のことについて考えていた。

 そういえば、あの子の名前を聞くのを忘れていた。

 しまった…。という後悔の念が湧き出る。

「…可愛かったなぁ…。」

「何が可愛かったのー?」

「わっ!?」

「え?あっごめん、驚かせちゃった?」

 急に声をかけられ、しかも「可愛かった」という言葉を聞かれた俺は驚愕と羞恥に顔を赤くさせながら、声の元へ視線をやる。

「なんだ、相沢さんか…。」

「むっ。その反応はないんじゃないかなー?」

 頬を膨らませながら、相沢さんは言う。

 彼女の名前は相沢神酒奈(あいざわみきな)

 俺のクラスメイトであり、横峯の幼馴染だ。

 ふんわりとした茶髪のボブショートヘアーに童顔というとても可愛らしい容姿をしている。

 そして、何が、とは言わないが、デカイ。

 思わず視線が彼女のそこに向く。

 ………けしからん。これ何カップくらいあるんだろう。Dとか…?

 邪な考えを巡らせていると、相沢は俺を下から覗き込む。

「どーしたの?」

 その構図は大変無防備で。

 …やはり、天然なのだろうか。彼女のする仕草一つ一つに男を惑わす何かがあるようだった。

「…横峯ならもう帰ったはずだぞ。」

「うぇ!?な、なんで蒼汰がそこで出て来るの!?」

 ……こいつ、バレていないと思っているのだろうか。

 こいつの横峯への視線は恋する乙女のそれだ。

 まあ、横峯はそれに気づいていないだろうが。いや、本当のところどうなんだろうか。鈍感なのは間違いない。

「いや、あんた、バレっバレやぞ。俺らのクラスでも知らないやついないと思う。」

「そ、そこまでなんだ…。で、でも…。」

「横峯は気づいてないだろうな。」

「そう!そうなんだよ!!あの朴念仁!ラノベ主人公!!これだけ私がアピールしまくってるのにぃ!ぜんっぜん反応しないの!何なのもう!!」

 ラノベ主人公という罵倒は的を得ていて、少し吹きそうになった。

「いやまあでも、相沢さんはこの先ずっと有利だわな。」

「え…?なんで?」

「そりゃ、あれだろ。あいつのコミュ力じゃ、女の子と話すのにも苦労するだろ?いや、むしろ顔合わせられないまである。でも相沢さんとは普通に話せてる。相沢さんと横峯にとっては別に普通で無意識のことでも、状況的には相沢さんは『特別』なんだ。」

「そ、そうかなぁ…えへへ…。」

 チョロすぎかこいつ。くっそなんでこんなかわいい子が幼馴染なんだ!あの朴念仁!ラノベ主人公!!

「で、でもあれだね…。蒼汰のコミュ力の話は、容赦ないね…。」

「事実だからね。……有利どころかぶっちぎりゴールな気がしてきた。

…まあその、めげずに頑張ってくだせえ。」

「うん!私、頑張るね!!」

 眩しい花が咲いていた。恋をしている女性が綺麗になるとは、こういうことらしい。




 

 相沢さんとの話を終え、帰路についた俺はそのまま家にたどり着く。

 鍵を開け、入る。

 誰もいない、家の中に。





 


 …両親共働きなだけであって、別に他意はない。

 しかし、二人共帰りが遅いため夕食は俺が作る。

 稼ぎが少なく、生活が困窮しているわけでもない。

 むしろ自由度は高い方だと思う。

 なのに、なぜ、と養ってもらっている俺が考えることでもないか。

 夕食作りへと無理やり意識を向けた。

 

 今日の夕食は簡単なマカロニグラタンだ。我ながらよくできたと思う。




 夕食を食べ終えた後は、風呂に入り、明日の学校の準備をする。

「早く寝よう…。」

 今朝、授業を居眠りしてしまった反省も込めて、まだ早い時間からベッドに潜る。

 

 …今日は色々あった。

 備品室であったあの子、なんて名前なんだろうな。

 そんなことを考えていると、徐々に意識は霞んでいった。

青春議論、出てきませんでした…すみません。

次には議論、してくれるかな…

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