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青春議論のお時間です。  作者: 示木海斗
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第一章 第一話 理想との邂逅は突然に

 突然だが人物を最初に印象付けるものは髪型であると、私は思うのだ。

 その人物を最初に見たとき、顔立ちや服装で立場や素性をある程度推測できる。

 中でも髪型は最も信用できる判断基準ではないだろうか。というのも自分の見た目や性格、言うなれば内面と外面を合わせて描く一つの絵画だからだ。

 例えば、黒髪ロングの女性がいたとする。その黒髪は艶があり、彼女が何か動作する度に意思をもつかのようにサラサラと揺れ踊る。

 長い時間をかけ手入れをしていることを確信させる髪だ。

 絶対いい匂いする。

 自分を美しく見せることに余力を残さない、彼女はそんな女性なのだろう。

 服装は毎日変わる。しかし髪型は毎日変わらない。変えられない。

 髪型をベースに「見た目」というものは存在する。

……長々と説明してしまったが、端的に言うならば、髪型にあった見た目や性格が形成されていくのだ。

 髪型を知ればその人が分かる。髪型を変えればその人は変われる。

 やはり、人間性を誇示するのは髪型なのだ。

 ロングヘアーはいい。中でも黒髪ロングは至高。理由は様々あるが一番は清楚さを感じさせるところだろう。

 ……あぁ…日本全国の女性が全員黒髪ロングになればいいのに…


キーンコーンカーンコーン


………目が覚めた。そう意識出来るまでどれくらいの間が経ったのだろうか。しかし、それが分からない程度には眠かった。

「うわぁ…思いっきり寝ちまった……。」

 後悔のあまり、自然と声に出してしまっていた。

「放課後、結城(ゆうき)は職員室に来い。以上だ。」

 数学教師である犬宮景子(いぬみやけいこ)は俺を一瞥し、そう言って颯爽と教室から出ていった。

 クラスメイトからの可哀想なものを見るような視線を感じ、机に突っ伏す。

「お前なぁ…。犬宮先生の授業で寝るのはまずいだろうよ…。しかも一時限目だし…。」

 声の主、横峯蒼汰(よこみねそうた)に視線だけを寄越す。

「いや寝ていない。気づいたら授業が終わるという能力に目覚めたんだ。」

「じゃあその能力今日ずっと使えよ。6人分の先生の説教はどんな感じなんだろうな。」

「……ふぇぇ…眠かったんですよぉ…。しょうがないでしょぉ…?」

「わかった、わかったからその声で喋るな。お前の声じゃロリ声は無理だ。」

「はぁ…後でノート見せてくれ。」

「しょうがねえなぁ。貸一つでいいぞ。」

「お手柔らかに頼んますよ…。」

 横峯とは中学時代からの友人だ。その前は単なる部活仲間だったが、お互いに趣味が通じ合う同士だと理解してからは仲を深めあった。

 ちなみに今も部活仲間である。

 俺とこいつはいわゆるオタクと呼ばれる存在なのだ。

 しかし、あまりオープンにしていないため、高校二年生になった今でも俺らをオタクだと知っているものは数少ないはずだ。

 そう願いたい。……そうだといいなぁ…。

 休み時間が終わりチャイムが鳴る。これから二時限目だ。

 先程の過ちを犯さないためにも「絶対に寝てなるものか!」という確固たる意志をもって、俺はまぶたを閉じた。









 「乗り切った……。」

 六時限目を終えて、机に突っ伏しながら俺はひとりごちる。

 「二時限目、俺が起こしてやらなかったらやばかっただろお前…。」

 横峯は眉をひそめながらそう言った。

「あの時は本当に助かりました…。」

「これで貸二つだなぁ?」

「高いのはやめろ。散財しちまう。」

「そこまでせがまねえよ…。」

 貸しを提示してくることに定評のある横峯だったが、二時限目に起こしてくれたのは感謝しかない。

 もし起こしてくれなかったら、説教が一人分追加されていただろう。

 その後の授業は説教が追加されるかもしれないという恐怖からか、自然と眠気は消えていた。

 欲求とは厄介極まりないものである。


 心の中で、人間の欲望に対し恨めしく思っていたとき、ガラッという音をたてて、その人は教室へ入ってきた。

 我々2年2組の数学教師かつ、担任。犬宮景子だ。

 自分が入ってきたことにより静まり返った雰囲気をものともせずに、彼女はツカツカと歩き出した。

 「…ホームルームを始めるぞ。」

 全員揃っていることを目視で確認して、そう告げた。



「……連絡は以上だ。他に何かある奴はいるか?………いないのならば、解散だ。」

 ホームルームが終わりを迎え、彼女がそう告げて教室を出ようとすると、静まり返っていたクラスの雰囲気が弛緩する。

 俺も帰ろうかと準備を始めようとしたときだった。

「結城、職員室だ。」

「………あっ…。」

 決して忘れていたわけではない。ただ現実と直面して硬直してしまっただけだ。本当に。

 犬宮先生は俺の反応に対し、若干目を細めたが、そのまま教室を出ていった。

 残される俺。クラスメイトからの哀れみの視線。

横峯のニヤケ顔。こいつ、明日辺り覚えてろよな。

「じゃあ、先帰ってるわ。健闘を祈るよ。」

 俺が無言で威嚇していると、横峯は肩をすくめながらそう言って、教室を出て行ってしまった。

 ここに居ても仕方がない。帰り支度を済ませて、教室を出る。もちろん帰ったりはしない。覚悟を決める。

 いざ、約束の地(しょくいんしつ)へ…!





 「結城、お前普段居眠りなんてしないだろう?どうしたんだ一体…。」

 職員室に来た俺は部屋の隅にある生徒指導室へ呼ばれ、担任である犬宮景子が俺の目を見て、そう告げた。

 「いや…ほんと、自分でもよく分からないんですよ…。気付いたら授業終わってて…。昨日は夜更かししてないんですけどねぇ……。」

「昨日は、ということは夜更かしする日はあるんだな?」

「…高校生は夜更かしくらいしますでしょ…。」

「それが積み重なって、身体に出たんじゃないのか?」

「そうですかね…。」

 確かに、彼女の言っていることはごもっともだ。

睡眠不足というのは、積み重なると身体に悪影響を及ぼす。流石に昨日は寝たとは言え、三徹でゲームは駄目だったようだ。

 ……完全に自分が悪いじゃないか。馬鹿なのか。

「ほんと…反省してます。」

「まあ、お前は成績もなかなかに優秀だし、普段こんなことは無いからな。大目に見ていいだろう。」

 彼女はそう言って、席を立った。その動きに合わせ、彼女のロングヘアーも揺れ動く。

 それと同時に、俺の心も揺れ動く。

 

 恐らく、反射的なものだったのだろう。

「綺麗だ………。」

 俺の口から自然にこぼれ出たその言葉を受け、犬宮先生は硬直する。

「な、なんだと…?」

「その髪型、本当に似合ってますよね。」

「そ、そうか…え、えぇ…?」

 彼女の反応は当然だろう。

 居眠りしていた生徒を指導し、終わり間際にその生徒から綺麗だ、と唐突に言われたのだから。

「美しい……。」

「ゆ、結城…お前、何をいきなり……」

 実際、彼女は自分を容姿端麗だと自負していた。

 年はまだ20半ば、顔立ちも整っていて、スタイルもいい。

 中でも、その美しいロングヘアーは絶対の自信をもっていた。

 しかし、そのことを面と向かって、しかも生徒から言われるとは思ってもいなかった。

 タイミングもタイミングだ。何故指導終わりなのだろう。そのことだけでも彼女を困惑させるには十分すぎるほどの理由になった。

「……はっ!?お、俺は一体何を……。」

「……………」

「…? 先生?どうしたんですか?顔赤いですよ…?」

「…!? き、教師をからかうのはやめたまえよ…?」

「からかう…?えっ俺なんか言いましたか?」

「……いや、そういうことにしておこう。」

「あ…はい、すいません…」

「…罰としてお前には備品室に向かってもらう。あのダンボール箱を持ってな。」

 見るからに重そうなダンボール箱を指差し、彼女はまだ少し顔を赤らめながらそう言った。

「…分かりました。」

「居眠りの件も今後こういうことが無いように、気をつけて生活しろ。」

「はい。肝に銘じておきます。」

「備品室の鍵を渡そう。……ん?」

「どうしました?」

「いや、鍵が無くてな…。恐らく他の教師が持っていったのだろう。 空いていると思うから、そのまま持っていってくれ。」





「失礼しました。」

 想像以上に重いダンボール箱を持ちながら、俺は職員室を出た。

 これから向かうのは備品室だ。ここからだと割と距離がある。どれだけ体力がもつかを想像し、ため息を一つついた。

 


 備品室へ向かう途中、俺は先程のことについて考えていた。

 実のところ、彼女を綺麗だと言ったことはバッチリ覚えている。

 完全に反射的なものだったために、言ったことに気付かず、自分で理解するのにも時間がかかった。

 しかし、まさか犬宮先生が照れるとは思っていなかった。

 いや、あれは照れていたのだろうか。本気で怒っていたのだろうか。出来れば前者がいい。

 綺麗だと言ってしまい、その後も続けて言葉が出る始末。いくら事実だとはいえ、状況を考えてほしいものだ。我ながら面倒くさい。 

 だが言ったことに変わりはない。

 どう収拾をつけるかわからなかったために、俺は覚えていないふりを決め込んだ。

 上手く演技できていただろうか。今日は不安で夜もぐっすり眠れるだろう。

 しかしながら、これを地で行くラノベ主人公はすごいな…と尊敬の念さえ抱く。

「ふぃ…」

 流石に疲れてきた。備品室まではあと少し。

「俺、この戦いが終わったら家でゲームするんだ…!」

 フラグを建築できる程度には、まだ余裕がありそうだ。





 「疲れた…。距離ありすぎるんだよなぁ…。」

 備品室に到着し、文句を垂れながらダンボール箱を地面に置く。腕を軽くマッサージしながら、備品室のドアに手をかける。

 鍵は空いていた。誰がいるのだろう。

 そんなことを考えて、教室の中を見る。

 

 

 瞬間だった。

 俺は呼吸を止めていたことに気づき、慌てて息を吸い込む。

 肺が痛くなった。胸が熱くなった。

 備品室の中には、こちらを怪訝そうに見る女子生徒。

 一言で表すならば、女神だった。

 端正な顔立ちをしていて、クラスの女子と同じ制服を着ているとは思えなかった。

 俺が一番目を引いたのは、その黒髪のロングヘアーだ。

 流れるようなしなやかさ、薄暗くとも分かる艶、そして、腰まで届くかというほどの長さ。溢れ出る清楚さ。

 …俺は確信した。

 この子が、この子こそが、俺の追い求めていた理想なのだと。

 

 

 

 さようなら。俺の非リア充生活。


 こんにちは。俺のリア充生活。

今回は結城くんと黒川さんとの邂逅の物語。

彼は理想とどう接するのか。

そして青春議論系ラブコメとは一体何なのか…

恐らく次話で明かされることでしょう。



前書きであったように、感想などで疑問点などを教えて下さると、ありがたいです。ぜひ、お願い致します。

長さはこれくらいでいいんですかね…?


http://ncode.syosetu.com/n4859ef/

横峯蒼汰からの景色。

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