第三話
「なるほど、ダイイングメッセージですか、これはミステリーみたいですね」
居酒屋店主は興味深そうに鼻を鳴らした。
「おでんのメッセージだから死者からのおでんごんですかね」
居酒屋店主は如何にも愉しそうだ。こちらは長年、その疑問に振り回されているのに。
「でも、分かったような気がしますね」
「分かった?な、何がです?」
「おでんのメッセージに込められた意味ですよ」
私は聞き違いかと思った。話してまだ数分しか経っていないのに、私がずっと苦しめられた疑問が解けたというのか?
「あの、よかったら、その推理を、・・・・・聞かせてもらえますか?」
私の声は震えていた。
「そうですね。普通に考えれば□だけが外されていたのだから、△の三島と○の丸岡が共犯と考えるか、外された角田が犯人と考えるのでしょうか」
それは私も何度も考えてきたことだ。しかし、確信を得られるというまでには行かなかった。それよりも私はもっと深い意味があるように考えていたのだ。
「これはご不満なようですね」店主は不敵な笑みを浮かべて言った。
「それは私も考えたことですから・・・・」
「それならば、少し考え方を変えてみるのがいいでしょう」
そう言うと、店主は串に刺さったおでんから□を取り外した。あのときと同じダイイングメッセージの出来上がりだ。それを店主は私の目の前に差し出した。私はため息をついて酒の入ったコップを口につけた。
「どうでしょう、これをおでんの具としてではなく、文字に変えてみては。例えば、アルファベット」
「アルファベット?」私は眉を顰めた。
「見ようによっては△はA、○はОと見えます」
「しかし、AとОでは、何のことだか・・・・」
「さらに□が抜けた串の部分、これをIとすれば、A、О、I。アオイになりますね」
そのとき、私は手にしたコップを危うく落としそうになった。
「被害者はホステスとも現場のおでん屋をよく訪れていたのでしょう。アオイはホステスの源氏名としてもありそうですからね」
「・・・・・・・」
「あ、別に、そんな深く考えないでくださいよ。これは居酒屋のおやじのただの戯言。根拠のない推測にすぎませんから」
居酒屋の店主は困惑した表情で訂正した。私の表情があまりにも思いつめたものになっていたからだろう。私にはよく分かっている。全身から血の気が失せるような感覚を私は今、覚えているのだ。何でもないと笑おうとした表情も強張っていた。声も震えて、うまくしゃべられない。
私には「アオイ」という人物について、思い当たることがあったのだ。




