第二話
その事件は10年くらい前になるだろうか、今のように寒い真冬の夜に起きた事件だった。
ガード下の屋台のおでん屋、そこで一人の男が殺された。
殺されたのはこの町で不動産業を営む50代の男性。
名前は串田健二郎。
無一文から成り上がったやり手の経営者だった。そのせいか、彼は裕福になった今でも、ガード下の屋台で飲むことを好んだ。その店には彼の仲間や社員だけでなく、なじみのホステスとも訪れることがあったという。
店主とは顔なじみ、気心の知れた仲だったという。それが仇となったのか、僅かな間、店主が店を離れた時間に事件は起こった。
少しの間の店番替わりをした中での事件。店主が帰ると背中を包丁で刺された串田の死体が残されていた。
警察は、当初、第一発見者の店主を疑った。しかし、その店主、三島丈志には目撃証言があった。店を離れる直前にはまだ屋台には客がいたという証言もあり、彼の証言の信ぴょう性は確かなものと判断された。
それよりも重要視されたのは串田がそこで誰かと待ち合わせしていたのではないかと言うこと。串田はよくこの屋台で待ち合わせをすることが多かったと言う。
例えば、同業者関係。仕事が深夜になることも多い彼は、ここで仕事明けの相手を待っていたという。その中でも、丸岡という同業者とは関係が良好な時期もあったが、商売上のトラブルも多かったようだ。当然、彼は容疑者となった。実際、彼にはその時間、アリバイがなかった。仕事が終わり、自宅へ帰る途中だったという話だが、目撃証言はなかった。
また、彼の会社の社員だった人間にも容疑者はいた。その社員とは古くから家族同然の付き合いもあったらしく、ここで飲みながら語らうことも多かったと言う。それはかつて彼の下で働きながらも独立した角田という男。顧客をそのまま持って出たことで二人の関係は最悪になったという。彼にも明確なアリバイはなかった。
そんな中、唯一、残された手がかりがおでん。
△と○と□の具が串に刺さったおでんである。そのうちの□の部分が外されていた。別の皿に置かれていた。食いかけというよりも意図的に外されたように思えた。それは理由は分からないし、特に気にするようなことではないというのが所轄の見解であった。
しかし、私は気になっていた。ミステリーで言えばダイイングメッセージというものではないか、死者が残した犯人を特定する伝言。考えすぎのようにも思えるが、私の頭から離れなかった。
そして、有力と言える3人の容疑者の名前が三島、丸岡、角田というのも気になった。彼らの名前に私は△、○、□を重ねてしまうのだ。その偶然がダイイングメッセージという非現実的なミステリーの題材をからめてしまうのだ。
そして、月日は流れた。結局、犯人を特定することは出来ず、私のおでんに対する疑惑も解明されることがなかった。当然、捜査方針としてはこのような意味があるかないか分からないダイイングメッセージは取り上げる必要はなく、私はそのことを忘れるように上から言われていたのである。




