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 朝飯を食べ終えた彼らは、今後の行動について話し合った。


「さて、今後のことなのだが、主はリンゴを奪い合う殺し合いに参加する事になった」


「それはもう変えられない事なのか?」


 玲のもっともな問いに、晴明は頷いて続きを話し始めた。


「変えられぬ。この戦いから解放されたければ主は死ぬか、他の者を殺しつくすかのどちらかだ」


 そう言われた玲は黙って考え込み始めた。

 自分が死なず、敵も殺さないで済む方法が無いか必死で考えた末に、彼は一つの思い付きに行き当たった。


「印を奪い合うと言っていたが、印さえ手に入れば良いんだよな?なら殺さなくてもその部分の皮をはぐとかではダメなのか?」


 彼の思い付きに晴明は少々驚いた表情をしたが、すぐに真顔で否定してきた。


「恐らくだが、不可能だろう。相手もそれなりの使い手だし、その使い手を殺さずに倒すなど余程の実力差が無いと無理じゃ。見たところ主は特に何か秀でたものがあるようには見えぬので、正直夢物語としか言えんぞ」


 晴明のこれでもかと言わんばかりの正論に玲は反論できなかった。

 だが、このまま何もせずに死んで行く事もしたくないのは事実であり、どうにかできるものなら殺さずに生き残る道を探りたいとも考えていた。


「そこでだ、主に提案がある。まず手始めに主を刺した者が何者か探してみぬか?」


 最初に探すという提案をされた玲は、正直驚いていた。

 彼はてっきり殺戮に慣れろといきなり襲い掛かる事を提案されると思っていたからだ。


「探すだけで良いのか?」


 そう聴き返す玲に晴明は頷いてから理由を話し始めた。


「主の場合はまず敵がどんなものか知らなければ戦えまい。それに覚悟無い者に無理強いをしたとしても、結果は見えておるしの」


 そういうと晴明はどこか寂しそうな眼をして窓の外へ視線を移していた。


「わかった。そう言う事なら晴明の提案に乗ろう。で具体的にどうやって探すんだ?」


「なに、探す方法は簡単じゃ、儂の式神である十二天将に占いの得意な者が居るでな。そいつに占ってもらえばいい」


 そう笑顔で提案する晴明を玲は「占いかよ」とどこか信用できない表情でつぶやいた。

 その声が聞こえたのか、晴明は急に立ち上がると、玲に指を突き付けて怒り始めた。


「儂の占いを馬鹿にするな! これでも宮廷の占星術師としても人気があったのじゃ。それに今回占いをするのは儂では無くて式神の大隠じゃ! 奴の占いは百発百中なんじゃぞ!」


 そういうと、晴明はおもむろに袖口から人形の紙人形を取り出したかと思うと、呪文を唱え始めた。


「我が求めるは天の声、地の声、その天上の知恵を貸したまえ、求急如律令! 大隠!」


 呪文を唱え終わるのと同時に彼女がおもむろに紙人形を放り投げると、激しい青い光と煙が沸き起こった。

 その光と煙が収まるとそこには、いかにも怪しい女官姿の老婆が立っていた。


「これは、これはおひいさま。久方ぶりの召喚ですな。此度は何用でしょうかの?」


 老婆の問いかけに晴明は、玲を指さして命令を伝えた。


「そこにいる芦屋玲が先日襲撃された。その襲撃犯の事を知りたいから占ってくれ」


「かしこまりました。少々お待ちを」


 そういって大隠は玲に近づくと、無言で彼の髪を一本抜いて行った。


「痛てっ! 何するんだ!」

 

 突然髪を抜かれた玲は怒って詰問すが、大隠はそ知らぬふりをしてどこに仕舞っていたのか、水晶と藁人形を出して占いの準備を始めた。

 

「占いって言ってたけど、なんか呪いでもかけそうな感じだな」


 そう彼がちゃちゃを入れると、晴明が真顔で頷いてきた。


「うむ、ある種の呪いと言ってもいいだろう。主の記憶を、藁人形を介して水晶に移すのじゃからな」


「……それ、副作用とかないだろうな?」

 玲の問いかけに晴明はキョトンとした表情で、「副作用?」と言っていたので、どんな意味か説明すると。


「ははは、大隠の術で副作用など無いよ。彼女が、人間として生きているならあっただろうが、これは紙人形を媒体にした霊体なのだから、そんなもの存在せぬ」


「なら、良いのだが――」

「まぁ強いて言うなら少し気持ち悪くなるくらいかの?」


「それが副作用って言うんだよ!」


 そんな二人の掛け合いを他所に大隠は呪文を唱え、占いを始めた。

 しかし、占い始めた彼女の顔色は徐々に悪くなってきた。


「どうした? 大隠。何かあったのか?」


 晴明が訊ねると、大隠は黙って首を振るとそれっきり姿を消してしまうのだった。


「おかしいの? あ奴があんなに怯えている所なんて、見た事ないんじゃがな……」


「それは良いけど、俺は髪の毛採られ損したって事か?」


 玲の皮肉に対して晴明が笑顔で頷くのを見て、彼は晴明に飛びかかって、アイアンクローをかけた。


「痛たたた、こら、やめよ。儂が悪いんではないんじゃから、痛い、痛いです。私が悪かったです」


 晴明から反省の言葉が聞けたことに満足した玲は、彼女の頭を離すと、真剣な表情で訳を聞いてきた。


「で、本当に理由はわからないのか?」


「うむ、考えられるのは、覗く事で危害が加えられる可能性と、お主の祖先の呪いくらいかの?」


「祖先の呪い? 何だって子孫を呪うんだよ」


 玲の問いかけに対して晴明は一瞬考える素振りを見せたが、すぐにため息を吐いて話し始めた。


「主は、蘆屋道満は知っておるかの?」


「一応は、道摩法師とかって人だろ? それがどうしたんだ?」


「知っておるなら話が早い、その道満が主の先祖じゃ。儂と主を引き合わせた謂わば因果と言うのが、その法師との関係なんじゃよ」


 晴明の話に玲の眼は点になっていた。

 それもそのはずだ、遥か千六百年近く前の先祖何て知る訳も無く、またそんな人物と自分の血が繋がっているなんて事も、考えた事も無かったのだ。


「まぁ奴は儂の事を嫌っておったから、もしかしたら儂の式神に対して発動する呪いを、子孫にかけておったかもしれぬ。何せあ奴と戦ったのも、何度も繰り返すこの戦いの只中じゃったからの」


 そう言った晴明の瞳にはどこか憂いの色があった。


「とりあえず、俺の先祖か俺を切った奴が原因なんだな? 他に探す方法は何かないのか?」


「ある事はあるのじゃが、その言っても怒らんか?」


 晴明の顔色を窺う様な仕草に一瞬ドキッとした玲は、「怒らない」と一言言って聞く姿勢になった。


「うむ、では玲にはこれ以後も、普通に生活してもらう」


「殺人犯がうろついている可能性があるのにか?」


 玲の疑問に対して晴明は頷いて続きを説明し始めた。


「うむ、不安なのもわかるのじゃが、流石に相手も人の目がある所で、主を殺しはせんと思う。だから安心しろ」


「安心できるか! なんかあったらどうするんだ⁉」


「大丈夫じゃ、ちゃんと儂にも考えがある。任せておけ」


 そう言って、晴明は偉そうに胸を反らしながら言った。

 玲はその姿を、一抹の不安と共に見つめるしかなかった。


これにて、導入部分が終了です。


今後もご後援よろしくお願いします。m(__)m

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