2
けたたましい時計の音に男は耳を塞ぎたい衝動を抑えながら手を伸ばして応えた。
「ん~あぁ~……あれ? 俺背中刺されてなかったっけ?」
男は昨夜の事を確認する為に自分の腹や背中を両手で確認する様に弄っていると、ふいに後ろに誰か座っているのが見えた。
「だ、誰だ!」
男が咄嗟に大声を上げて後ろの人物を見ると、そこに居たのは平安貴族の狩衣の様な物を着ている女の子だった。
「誰とは命の恩人に随分な挨拶じゃの。まぁよい、聞いて驚け! 儂は天下に名高き大陰陽師! 安倍晴明なるぞ」
「え? 安倍晴明って男じゃないのか?」
男の咄嗟の問いに目の前の女の子は地団太を踏んで怒りだし、恨みつらみを語り出した。
「うぬぬぬ! 儂はれっきとした女じゃ! 男の恰好をして居るが、これは内裏に入る為に致し方なくしていた事じゃ! それに儂が男だなんてほらを吹きまわしたのは、良く家に来ておった博雅の阿保のせいじゃ!」
女の子のこれでもか、と言う剣幕に圧された男は、顔を引き気味に頷く事しかできなかったが、辛うじて話題を変える事に成功するのだった。
「……ところで、俺を救ったって言っていたけど、やっぱり俺は昨日死にかけていたのか?」
「うむ、それも認識阻害の呪法もかけられておったから、発見される事なく土に埋まるか野良犬共の餌だったであろう」
その後、晴明と名乗る女の子に、男は事細かにその後の話を聞くのだった。
「まず玲よ、儂とそなたは契約関係にある。これは手の平の甲の紋様で解ると思う」
そう言われて玲が手の平を見ると、確かにそこには見た事も無い文字らしき物が一字書かれていた。
「それは契約者の印で、主が見た戦いは恐らくこの印を巡る戦いだったのだろう。普段は主にかけていた認識阻害の呪法を周囲に展開して戦うのじゃが、何故かお主にだけは効かなかったようじゃ」
「それは、どんな理由でだ?」
「残念ながら分からん。じゃが主に特別な力がある事は間違いない。なぜなら儂と契約をしているからじゃ」
そういうと晴明は玲の方をジッと見つめてきた。
平安時代の女性というと、麿眉にお歯黒した、ぽってりしたおたふく顔をイメージするが、晴明は意外と、と言うと失礼なのかもしれないが、彼女は結構目鼻のすっきりした顔立ちで、平安美人というよりも、現代美少女といった顔立ちである。
そんな子にジッと顔を見られれば、健全な男子高校生の玲は、照れてしまうし、緊張もする。
「ところで、主よ――」
彼女が改まった表情で玲を呼んだので、彼は何事かと思って身構えると。
「腹が減ったので朝餉を頂けぬか?」
そういうと、彼女のお腹が盛大に鳴った。
現在の時刻は十時過ぎで、彼女が、朝日が昇るのと同時に目覚めていたことを考えると当然の事だった。
「わかった。ちょっと待っててくれ」
玲はそういうとキッチンで簡単な朝飯を用意して一緒に食卓を囲むのだった。
少しずつですが、連載を再開します。
また書き溜めてから、放出するという形で連載しますので、掲載日は不定期です。
後、タイトル変更しましたので、よろしくお願いします。m(__)m
今後もご後援よろしくお願いします。m(__)m