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本格的なバトル物に挑戦してみました。
これから不定期更新ですが、最後までお付き合いいただけたら幸いです。
H28/9/26ご指摘頂いた事を念頭に全面改稿しました。流れは一緒ですが、視点を3人称に変えています。
辺りが少し涼しくなる秋の夜に一人の男が閑静な住宅街を必死に何かから逃げる様に走っていた。
「な、なんで俺がこんな目に――ッ!」
男が頭上を見上げるのと同時に体を捻ると、先程まで居た場所が突然大きな破壊音と共に地面がへこんだ。
その次の瞬間にはへこんだ部分にフードを被った背の小さい人物が降り立ったのだった。
「ちくしょう!」
男は叫んでまた走り始めた。
「だ、誰か! 誰か助けてくれ!」
男は走りながら大声で叫ぶがどの家からも反応が無く、まるで彼の叫びに気づいてないような異様な状態だった。
「クソッ! 携帯は――」
男は走りながらポケットを弄るが、どうやら逃走の途中で落としてしまったらしくどこにも携帯が入っている感触が無かった。
男は悪態を吐きたいのを必死になって我慢し、ただひたすら走り続け、小さな鳥居のある公園に辿り着いた。
その公園には鳥居の他に小さなお堂があり、うまい具合にお堂の鍵が開いている事に気づいた男は、周囲を確認してお堂の中に逃げ込むのだった。
「はぁ、はぁ、はぁ。こ、これで一息つける。けどなんだって奴らは殺し合いなんてしていたんだ?」
男はそう思ってお堂の中でなぜ自分が追いかけられているのか、状況を整理する為に思い出し始めていた。
時間は遡る事1時間前の事だった。
男は1人夕涼みがてら桂川の堤防を歩いていると、男女と思しき4人組が2対2で対峙しているのを見つけたのだ。
最初彼は何か騒いでいるのかな? と思っていたが、暫くすると彼らがどこからともなく武器を出して戦い始めたのだ。
最初は何かの撮影かと思って周囲を見回していたが、周りに撮影しているスタッフどころかカメラさえ見当たらず、彼らの戦いの音だけが響き渡った。
流石に不審に思い始めた男は、目を凝らして良く見ると、ひとりの男が持っているものが月明かりを反射して鈍い光を放っている事に気づいた。
「あれは、まさか刃物か?」
男はそれが刃物だという確証は無いものの、見守る事にした。
そうそれは何となくだった。
ただ何となく声を出すのを憚られた。
ただ何となくその様子を見て居たかったのだ。
暫くの間4人はお互いの相手と戦いを続けていた。
フードらしきものを被った体の小さい奴は拳で、相手をするのはスーツの様な姿をした男でこちらも素手だ。
しかし素手同士だと言うのに異常なほど相手を警戒して避けている。
多少武術経験のある俺としては彼らの動きはあまりにも粗雑に見えた。
そして、もう一組は仕込み刀の様な物を振り回す老人らしき人物と魔女の被っている様な三角帽にロングスカートの女が対峙していた。
女は杖らしきもので攻撃をしているのか、老人に杖を向けると、必死になって避けている様に見えた。
逆に老人の刀は魔女姿の女にギリギリの所で躱されていた。
このまま膠着状態が続くかに見えた戦いは、呆気ない幕切れを迎えた。
それは老人が相手の2人に手をかざしたのと同時に、2人が全く動かなくなったのだ。
そして、その隙をついたフードの人物がスーツの男の頭を弾け飛ばし、老人が刀で女の首を刎ねたのだった。
流石にこれに驚いた男は、思わず声を出してしまった。
「こ、殺した……」
その声は思った以上に大きかったのか、殺した2人が男の方をじろりと睨んだように感じ、彼は走り始めるのだった。
それからは、必死に走り回り、渡月橋の近くの大通りを、細い路地を必死になって逃げ回ったのだった。
「――そろそろ、行ったかな?」
男は幾分か冷静になり、お堂の扉を静かに開き、当たりの様子を伺った。
周囲は閑散としており、家から明かりは見えるものの、まるで彼だけが別の空間に閉じ込められたように一切の音がしなかった。
だが、男はこの時全くその事に気が付かず、追いかけてきた殺人者2人が見えない事に安堵してお堂から出てしまった。
お堂から出た瞬間、彼は後ろから鋭い痛みと、衝撃にみまわれ振り返ると、先程まで追ってきたフードを被った奴が自分の腹に刃物を指しているのが見えた。
「ぐぅ、な、なんで、なんだ――」
男は激しい痛みと、腹から溢れ出る生暖かい血の感触を感じながら、その場に倒れた。
その様子をジッと見て居た人物が振り返ると先程まで居なかった老人の姿があった。
「しっかりと刺したか?」
そう問いかける老人に対してフードの人物は無言で頷くと、手に持っていた刃物を老人に差し出した。
差し出された刃物を老人は丁寧に和紙で拭いてから仕舞うと、フッと姿を消すのだった。
その様子を見終わったフードの人物は足早に公園を去っていくのだった。
(俺は、ここで終わるのか?)
男は声も出せず、静かに意識を手放していった。
今後もご後援よろしくお願いします。