『聖なる武器』の正体、それは……
武の言葉を聴いた途端、ヒナタンと大和が俺――メイの顔を信じられないものを見るような目で見てきた。嘘だと言ってくれといわんばかりの顔だ。
「二人とも安心しろ、俺に彼女はいない」
俺がそう言うと二人ともホッとしたような顔をした。馬鹿な奴らめ、この言葉には続きがあるというのに。俺は左手の薬指にはめた指輪を見せながら続きを言う。
「愛してる妻はいるがな!」
「「神は死んだ!」」
「あら、おめでたいことですね」
「めでたいことだな」
「へぇ、おめでとう」
「おー、マジか。おめでとう」
ヒナタンと大和はショックを受けてるが、委員長、藍莉、葵、武は祝福してくれた。まあ俺とヒナタンと大和はリア充撲滅派だったからな、ショックを受ける気持ちは分からんでもない。だが後悔も反省もしない。
その時、項垂れていたヒナタンが顔を上げ、叫ぶように言い放った。
「妻と喧嘩でもして別れちまえ!」
「はっ、フィーと別れる確率なんざふぃっしゅ数分の一もありえないな」
「む、ふぃっしゅ数とは何だ?」
ヒナタンと同じくリア充撲滅派の大和が会話に入ってきたが委員長が答える。
「ふぃっしゅ数は呆れるくらい大きい数のことですね。因みにグラハム数というのが宇宙に素粒子を詰め込んだ時の素粒子の数なんていう微小な数を使っただけではとても表現できないほど巨大な数ですが、ふぃっしゅ数と比べるとそれすら限りなく0に近いです」
ヒナタンが歯軋りしながら言う。
「じゃあ……もし男を連れてきたら?」
これに対して俺は不気味なまでに満面の笑みを浮かべながら答える。
「決まってるだろ? まず男の魂をバラバラにして、フィーが俺以外の男に目移りしないくらいに自主規制して自主規制させてから自主規制するんだよ」
俺のこの言葉に男性陣は絶句、女性陣は肝心の部分が聴こえなかったから、首を傾げていた。流石に女性陣には聴かせるのはあれだし、聴こえないように『波長』で弄ったからな。すると藍莉が聴いてきた。
「そういえば、あたし達にもその、スキル? とやらがあるのか?」
「んー、勇者召喚に巻き込まれたとはいえ全員に言語翻訳機能がついてるし、あるんじゃね?」
「その事に関してはじゃの」
ブライアンが会話に入ってきた。
「まずは勇者が誰かを特定させておきたいのじゃ。昔の資料によると、勇者とは面倒事に巻き込まれるものらしいからの。アンセル」
「はっ、ここに」
さっきまでブライアンの後ろで待機していた筆頭騎士ことアンセルが勇者しか抜けない聖なる武器を持ってきた。でも七人とも笑いを堪えている。まあ気持ちはわかる。だって見た目、完全にアイスバーだもの。
聖なる武器は勇者しか真価を発揮出来ない。なぜなら普段は闇に包まれていて、勇者しか闇を払えないからだ。
ガリガ○君のアイスを黒くして、大きくしたようなものでも聖なる武器である。多分、きっと、おそらく、メイビー。
俺はニヤニヤと笑いながら声を掛けた。
「ヒナタン、やってみれば?」
「いや、僕こういうキャラじゃないから」
「む、某も勇者はやりたくないぞ」
「私、非力な乙女ですから」
「え、えと……あたしは、殴る方が得意だし?」
「本音言ってみ?」
「「「「面倒くさい」」」」
ヒナタン、大和、委員長、藍莉はやろうともしない。なんて奴らだ。俺もやりたくないけど。
「武と葵は?」
「大輝の方が合ってると思う」
「勇者なんざ面倒だからやりたくないわ」
騒がなそうだから大……大輝? の『拒絶』を解除しておく。そして大輝が聖なる武器に触れた途端、闇が払われていった。
――唐突だが、皆は『勇者しか扱えない聖なる武器』と聴いて何を思い浮かべるだろう? 十中八九は剣だろう。しかしこの世界の『聖なる武器』は剣ではない。
じゃあ槍?――いいや、違う。
二対一振りの双剣?――それも違う。
王道ではない、弓?――外れ。
実は銃が存在していた?――あるけど違う。
『聖なる武器』の正体、それは……
「ば……番傘?」
そう、ツッコミが入りそうな武器、番傘である。そしてすかさずヒナタンが叫ぶ。
「番傘が武器な訳あるか!」