……斬りかかってこないのを祈るしかないね。
あの後、二人に土下座を止めさせ事情を聴いてみることになった。
「自己紹介がまだだったね、俺はバート・クレメンツだ。このアホの幼馴染みだ」
「うー、バート痛いよ。私はアイリーン・マジストレッティ、神様の声を聴けるのは『神託』を持つ私だけだよ! ……多分」
バートは赤紫色の瞳に緋色の髪、アイリーンは天色の瞳に紺色の髪か。
流石に全員の名前を覚えるのは大変だろうし、軽くでいいかな? そう思い玲奈を見てみると小さく頷
く。じゃあ後の事は事情を聴いてから決めればいいか。
「俺は西園寺 大輝。よろしく」
「俺は五十嵐 武だ! よろしくな!」
大輝は大和曰く「小説でいう主人公ポジション」……これには同意見だが、思い込みが激しいし頭がお花畑だし話したくない奴だ。武は熱血バカ。はっきりわかるんだね。
「私は早乙女 葵よ。こっちは神崎 蓮華」
葵は苦労人であり、二人のストッパー役だ。大和曰く「男装の麗人」との事。……確かによく女子に告白されて、毎回微妙な顔をしていた。
「…………」
バートとアイリーンに目もくれず、何故か明後日の方向を向いている蓮華。こいつは……後でわかる。
こいつらは四人でグループを組んでいて、正直関わりたく無かったんだが……アイツが蓮華の幼馴染
み、なのは良かったんだが……実は蓮華はヤンデレで、アイツにストーカーしてる。そして大輝は蓮華を好きでアイツを敵対視してる。そんなこんなで関わりを持ってしまったわけだ。
まあ葵とは馬が合うし、武は熱血バカだが、悪い奴じゃない。蓮華は……正直ウザイ。ただし大輝、てめーは駄目だ。自分にとって都合の悪いことは難聴系主人公の如く無視するからな、こいつ。いっぺん死ねばいいと思うのは僕だけじゃないはず。
僕達も軽い自己紹介をして移動する。何やら王様に会ってほしいとか。三馬鹿トリオは魔王が現れたとか考えてるが……でもそうすると土下座して謝る意味が分からない。魔王は関係ないような気がする。葵と玲奈も僕と同意見みたいだ。
悩んでいると着いたようだ。煌びやかな大広間で玉座には王様と思われる男性が座っている。金糸雀色の瞳に金髪、如何にも王様の様な風格がある。その後ろには騎士が立っており、剣の柄に手を添えている。……斬りかかってこないのを祈るしかないね。
「ふむ……其方らが異世界から来た者たちか?」
「はい、その通りでございます」
事前に打ち合わせておいた為、玲奈が答える。寧ろよく答えられるな。
「すまなかった」
王様が頭を下げる。騎士の人も軽く下げている。
「いえ、特に気にしてません」
玲奈が驚きつつも返す。すると王様は顔を緩ませ、言葉を発した。
「はは、気を使わんでもよいぞ。リーンは悪気は無かったが、悪気がない事が悪い事ではないとは言えんからの」
一拍おき、続ける。
「さて、まずは事情を説明せねばならんの。……まず、儂はブライアン・マジストレッティ。ここ、王都で王様なんかやっている一介の親父じゃ」
なんか急にフランクになったぞこの王様……そんなのでいいのか。ん? マジストレッティ……てことはアイリーンは王族か……あれが?
ちらりとアイリーンを見てみると、舟をこいでい
る。……いや君王族だよね、しっかりしようよ。その事を知ってか知らずかブライアン様は続ける。
「事情を説明するのはあの人にしてもらうかの。其方らも迷い人の類だしの」