死者多数
私は街を歩くのが苦手だ。街を歩くと嫌なものを目にしてしまう。
私が嫌なもの、それは人間だ。ただ人間自体が嫌いなわけではない。私に与えられた特異な能力。人の死を判別することが出来る。これから死ぬ人間が分かるのだ。これから死ぬ人間は、顔が黒く塗りつぶされ顔を見ることができなくなる。街を歩くとそれを多く目撃する。これから死ぬ人が分かるのだ。
実際に人が死ぬ現場に遭遇したことも何度もある。だから街を歩きたくない。とは言っても私は独り身だ。食べ物がなければ死んでしまうし、生活に必要なものを買出しにもいかなければならない。嫌でも外にでなくてはならない。だから、私は、外に出て顔を黒く塗りつぶされているこれから死ぬ人間を見ても、見て見ぬ振りをする。大抵の人間は私とは関係のないひとだし、関わるのもごめんだ。
私がこの能力で辛かったのは仲の良かった友達の顔が、黒く塗りつぶされていたことだ。でもだからってあなたはこれから死ぬよなんて言えるはずがない。私は顔が黒く塗りつぶされていることを伝えずに友達と別れた。その帰り道友達は事故に遭って死んだ。
なぜ私がこんな能力を持っているのかは分からない。こんな能力役に立つことなんてないのに。ただ私に恐怖を与えるだけ。いくつになっても決して慣れることがない。これから死ぬ人間はまさか自分が死ぬなんて思ってはいない。だから、みんな普通に生活している。
私も同じ、普通に生活をしている。ただ、出来る限り必要最低限でしか外を出歩かない。一人でいる時は、この能力を決して見ることがないからだ。
そんな私は、今日も何気なくテレビを見ている。テレビと言っても映画とかドラマだが。こういう録画番組の場合リアルタイムではないため、見ても顔が黒く塗りつぶされていることはないから安心して見れるのだ。そんな私だが、ふと偶然テレビのニュースを見てしまった。その画面を見た瞬間私は凍りついた。レポーターの顔が黒く塗りつぶされている。私は動揺しながらもテレビを消した。
テレビの内容まで見る余裕はなかった。ただもうすぐあのレポーターは死ぬそれだけは確実だった。テレビを見て動揺してしまった私だが、買い物にいかなくてはならない。私は、玄関を出て、車を出して外にでた。
さすがに外に出る時は黒い顔を見るのを我慢するしかない。目を背けることぐらいしか私に出来ることはないのだけど。
今日は人が多いせいかやけに黒い顔を目撃する。みんなどんな死に方をするのかは知らないけれど。私は黒い顔から必死に目を逸らし、買い物をしている。
買い物をしている時に偶然目撃した親子、親子共々黒い顔をしている。二人とももうすぐ死ぬのだ。子供のほうはまだ幼いのに。かわいそう。
買い物を終えた私は再び車に乗る、そこに先ほどの親子が現れた。二人とも、車に乗り、私の前を走行する。もしかしてこの親子はこれから事故にあって死ぬのではないか。そんなことが私の頭を過ぎった。
そして、それは目の前で現実になった。目の前で対面事故が起こったのだ。親子の乗った車はそのまま弾き飛ばされ、私の車の側面に衝突した。これでは関わらないわけにはいかない。私は仕方がなく車を降りた。すると、車の中から、泣き声がする。親は死んでいるようだったが、子供はまだ生きているようだ。
この時、私は始めて動いた。必死になって子供を車の中から救出する。幸いなことに子供のほうは大した外傷もなく、車の隙間に挟まれていたため容易に救出することが出来た。
そして、私はこの時悟った。
私の能力は人を助けるためにあるのだと、もしあのまま、私が助けにいかなければ、子供は死んでいただろう。私の特異な能力は人の死を判別する、これから死ぬ人が分かる。そんな私 だからできること、それは死ぬ前に助け出すこと。私のこの能力は決して私に恐怖を与えるのが目的ではなかった。人を助けるために幸せにするためのもの。偶然とはいえ実際に私はこの能力により子供を助けだすことに成功した。子供の顔も普通に戻っているはずだ。そして、私は、子供の顔を見た。
子供の顔は黒く塗りつぶされたままだった。その光景が信じられなかった。実際に子供は生きている。外傷も目立ったところにはない。泣いてはいるものの、死ぬようなことは特に見受けれらない。
周りに事故を目撃して人が集まってくる。私は泣いている子供の手をギュッと握りながら、周りを見渡した。全員が、顔を黒く塗りつぶされている。誰一人、普通の顔の人はいない。みんな顔を塗りつぶされている。
そういや、今日はやけに黒い顔の人間を見た。そして、外にいる人も凄く多かった。よく考えれば今、目の前で事故にあった車ももの凄く急いでいたような。
私はふと、車の窓に映る自分の顔を見た。私は、その瞬間震えが止まらなかった。
私の顔は黒く塗りつぶされていた。私も含め、ここにいる人全員が、黒い顔をしている。周りはざわついている。野次馬の声が耳に入ってくる。なにやら、意味のないこととか、仕方がないとかそんなことが聴こえてくる。周りの言っている言葉の意味が理解できない。すると私の手を握っている子供が泣きながら叫んだ。
「ママァ、どこにも逃げられないよー!」
逃げる。意味が分からない。どこに。なぜ。この親子も逃げていたのか。なにから。
そんな時私の耳に全ての真実を告げる言葉が飛んできた。それは事故を起こした車からのラジオだった。
『本日8月15日。核は、全世界に放たれました。日本に着弾する核の数は1000を超えており、逃げ場はありません。これが最後の放送となります。みなさまのご冥福をお祈り致します』
その放送を聞いて全てを理解した。あのレポーターが黒い顔だったのも、やけに黒い顔を見るのも、子供を助けても黒い顔だったのも、私が黒い顔をしてたのも。そういうことだったんだ。
そして私は空を見た。空には一面を覆いつくすほどのミサイルが飛び交っている。こんな終焉なら、私の能力が役に立つことはない。死ぬということを知っていようと知らなかろうと同じこと。
そして、地球の生物は紅い閃光と共に滅亡の時を……迎えた。
――死者67億5823万2328人。
了
いかがでしたでしょうか。ありきたりな話かも知れませんが感想などいただけると幸いです。




