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42.誘い込み大作戦



私と羽継、文ちゃんと流鏑馬の四人は以前のように美術室でお弁当を食べることにした。


ちなみに今日は私もお弁当で、お父さんが作ってくれた。わくわくしながら中を見てみるとキャラ弁……朝のあのやりきったような顔はこういうことだったのか父さん……。ていうか、あんなクールなイケメン父が…ニャンコ先生のキャラ弁……。



「はい、国光くんの」

「おー!」


対して文ちゃんのはきっちり栄養バランスが整っていそうなお弁当だ。

けれど二つ一緒に作ったのだろう流鏑馬のお弁当には文ちゃんと同じおかず以外にも唐揚げとかが投入されていたり、全体的に多く盛られている。……まあ、お弁当自体が男の子らしく大きいサイズだしな。


羽継はなんかちょっぴり可愛いお弁当で、腹を好かせた悪食の手鞠を片手で押さえつけつつ食べようとしている。


「文のご飯は美味しいなあ…はぁー……もう2限目から楽しみでしょうがなかった」

「…楽しみすぎて偉人に落書きしてたのがバレて田沼に怒られてたもんな」

「……国光くん……」

「だっ、だって!俺は座学嫌いなんだ…」

「あ、その肉団子とこれ交換しない?」

「えっ、ダメダメ!」


美味しそうな肉団子に箸を伸ばそうとしたら流鏑馬が全力でガードし始めた。…チッ。


「それ、手作りか?」

「うん。市販のものだと小さいって国光くんが…だから不揃いだけど、私が作ったの」

「へー…ってお前、弁当作ってもらっておきながら文句言ったのかよ」

「ちげーし!ただ食品コーナーで見かけたときに思わずポソッて言ったのを文が…っていつの間にか肉団子が一つ減ったぁ!?――安居院!」

「は?」


諦めてウィンナー食べてたら流鏑馬に怒鳴られたけど、君の大好きな肉団子を食べたのは私じゃないよ。

流鏑馬もそのことにすぐ気づいたようで、「誰が俺の肉団子食べたんだよぉぉぉ!」と泣き叫んだ。なにも叫ばなくても…。

案外、無意識のうちに食ってたんじゃないのー?



……ん?

手鞠、あんたなんか耳の先っぽに甘酢だれっぽいのが……おいなんで口モゴモゴしてんの!?


「……!?」


あ、羽継も気づいた?どうすればいいのこれ!?とりあえず私のお弁当を分けて誤魔化せばいい?


「や、流鏑馬……私のお弁当あげるからさ、元気だしなよ」

「あ、安居院ぃぃ…」

「ほら、このニャンコ先生の柄の部分あげるよ」

「安居院ぃぃぃ!」


そっと流鏑馬のお弁当箱の中に入れると、流鏑馬は「お前、良いやつだなあ…」と言いながら食べ始めた。


「あ、美味しいなこれ!」

「…制作おじさん?」

「正解」

「………彩羽さん」

「ん?」


卵を取ろうとしたら名前を呼ばれて、顔を上げた。

呼ぶ声が少し硬かったから一瞬気構えたけど、文ちゃんは少し頬を染め、もじもじとしながら「……私も食べたいな」と小さな声でお願いをしてきた。……かっわええええええ!!


「いいよいいよー!たんとお食べ文ちゃん!」

「ごめんなさい…じゃあ彩羽さんも私の、どうぞ」

「よっしゃー!」


仲良くおかずを交換すると、文ちゃんは「…ああ、こういう味なんだね」と唇に手を当てて言った。

美味しいと微笑んだ文ちゃんはどうも前からキャラ弁を作ってみたいと思ってたらしく、熱心に私のお弁当を覗き込んでは「すごいね」と呟く。


その言葉に気を良くした私は、今までお父さんに作ってもらったキャラ弁たちの写メを文ちゃんに見せ、きゃっきゃっと笑い合っていた―――その隣で。


羽継と流鏑馬は、安心したような顔で私たち二人を見つめていた。












◆◇Das Herz von Alice◆◇





「―――ね、文ちゃん。放課後このあとのことなんだけど…」

「なあに?」



何事もなく午後の授業を終え、放課後がやってきました。

彼女はできるだけゆっくりとカバンに荷物を入れていた手を止めて、隣の席の少女に顔を向けます。


「その…しばらくさ、付いててあげようか?」

「え?」


心配そうに彼女を見つめる彩羽は、どうやら昨日の放課後の事が気にかかっているようで、またあの男子生徒が押しかけてくるのではないかと考えているようです。

正直、彼女自身も少し不安でしたが――昨日のように無防備に一人で行動するなんて隙を見せず、部室に篭っていれば人目もあるでしょうし……強引に交際を迫られるようなこともないだろうと思っていました。


「……大丈夫、今日は国光くんが迎えに来てくれるまで、部室の外には出ないから」

「遠慮しなくてもいいんだよ?」

「本当に大丈夫…それと、昨日のこと…国光くんに言わないでくれて、ありがとう」


じりじりと嫌な目つきで迫ってきた男子生徒の件。

その手の事には過剰に反応する国光にもしバレてしまったら――そう思うと不安でしょうがなかった彼女は、心配そうな顔で自分を見つめる彩羽の手を握りました。


「大丈夫だよ」


そう微笑んだ彼女に、彩羽は「…何かあったら、私とか穂乃花たちに連絡してね。放課後残ってるからさ」と言って手を握り返しました。

握り返された手は暖かくて、胸の中は熱い――その事が、とても嬉しく。


そして部活に向かう穂乃花たちに「また明日ね!」と声をかけられ、国光が来るまでずっと傍にいてくれる彩羽の、みんなの優しさに、思わず今、夢を見てるんじゃないかと疑ってしまう。


疑ってしまうほど、とても幸せでした。




「―――文ィー!ごめんごめん、先生に捕まって遅れたぁ!」

「二人共、何事もなかったか?」


ガラリ、と教室の扉を開けたのは羽継で、すぐに彩羽の傍に寄ります。

対して国光は跳ねた髪を撫で付けながら彼女の前に近寄りました。


そこで少しだけ四人でお喋りした後、名残惜しくも二組に分かれて教室を去りました。

彩羽たちは「頼まれごと」、彼女と国光はそれぞれの部活へと―――そうして美術室に辿りつき、自分が入るのを見守ってから剣道場に向かった国光の足音に寂しさを少し感じながら、彼女はいつもの席に座り、スケッチブックと筆記用具を取り出しました。


「………」


教室には、彼女以外に三人だけ居ます。

三人は机を寄せており、一人はゲームに夢中で二人は落書きをしながらお喋りに夢中のよう。

かつては和やかにお喋りしている姿が羨ましくて、あの輪に入りたくて――勇気を出して声をかけてみたこともありましたが、返ってきたのは愛想笑いか、鬱陶しそうな目。

何度か諦めずに声をかけてみたけれど、結局ダメだった……思い出すたびに胸に不快なものが渦巻いていたけれど、今では平気です。


(……人物画の練習しなきゃ)


最近は他人との交流も増えて、少しずつ昔のように感情が表に出てしまうことが増えたせいか、彼女の絵にも変化が出てきました。


そして描いている途中でふと思い出し笑いをしてしまったりして、何度か絵をダメにしてしまったことがあります。



(―――そういえば、今日の…あの子、可愛かったなあ)


思い出すのは水饅頭みたいな頭…いや体?…にピンと尖った長い耳。麦の穂のような尻尾の謎の生物。

どうやら誰にも見えていないようで、授業中に教卓の上で跳ねていたり教室中を駆け回ったり不思議な鳴き声を発していたりしていて――そして毎度毎度、彩羽に踏まれていました。


なんだか嬉しそうに踏まれにいくあの子は何なのだろう――昔から他人には見えないものが見えていた彼女は、驚き怖がるどころか「いつか抱きしめたい…撫でたい…」と欲望を抱くあまり人間の絵のはずが水饅頭生物のスケッチに変わっていました。


(今度挑戦するきゃ…きゃら、弁とかいうの。あの子をモデルにしようかなあ)


上手くできたら彩羽に見せよう。―――そう決めた時でした。



「御巫さん、先生が呼んでるよ」


思わず一瞬固まった――けれど、扉から自分を手招く女生徒は真面目そうな、キツそうな雰囲気のない、至って普通の女の子のようでしたので、彼女は「はい」と応えると席を立ちました。


女生徒が言うには、どうやら国語の授業で提出したプリントが彼女の分だけ見つからないとのことで、もし手元に渡し忘れたプリントがあるなら提出、なければプリントを渡すので再提出してくれないか、とのことでした。


先生の居場所を伝えるとさっさと去っていった女生徒をしばらく見送ると、彼女は念の為にカバンの中にあるプリント類を探し、「やはりないか」と溜息を吐くと恐る恐る美術室を出ました。


(……心細いな…)


一人で歩いていて、良かったことなんて一度もない。

特に記憶に新しい昨日の件を思うと――何度も何度もしつこく、傲慢に上から目線で交際を求めてきたあの男子生徒から嫌がらせを受けたりはしないかと不安になります。


でも、こんなことで彩羽たちに連絡を入れる訳にもいきませんし――しょうがない、早く終わらせようと急ぎ足で目当ての場所を目指しました。



階段を上がり、角を曲がり――そして目当ての場所を目前にして、思わず立ち止まりました。


「……なんか…嫌な、予感がする…」


どうして、こんなにも人通りがないのか――不安になって、彼女は一歩後ずさります。

それに、この廊下の先にある教材置き場で待っているという教師は正直嫌いな分類に入る人でもあるせいか、余計に行くのが嫌になる―――。


「……受け取るだけだし…大丈夫、」


ここで逃げて、後に成績や素行の評価にケチをつけたくない。――そう考えた彼女は深呼吸してから廊下を用心深く渡ります。


通る途中、とくに空き教室に引きずり込まれる…なんてこともなく教材部屋の前まで辿り着くと、ホッとした彼女はノックをして「御巫です」と声をかけました。


するとくぐもった声が「どうぞ」と言うのが聞こえて、「失礼します」と告げてから扉を開け、部屋に入りました。


「先生、プリントですが―――」



彼女は、目を見開きました。


奥の方で作業をしている先生が――――










―――先生だと思っていたのが、昨日の、あの男子生徒で。



物陰に数人の男子がいて。


逃げる前に捕まって、押し倒されて。


そして






.




※次回からブラック入ります。

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