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22.発言にご注意なさって!



羽継には、色々な私を見られてきた。


バカをやる私、大ポカする私、ヒッキ―な私、吐いちゃう私、やけくそ起こす私、ドヤ顔する私―――様々な自分を、知られている。


なのに。

羽継の目の前で嘔吐する様を見られるよりも、あのツンデレった自分を見られたことの方がすごく恥ずかしくて、「どうしよう」と焦ってしまうのは――何故なのか。




「………あの…二人とも…美術室、入ろう?」

「そ……だね、文ちゃん。―――ね、羽継」

「……え?」



なんて、言った?――そう尋ねる羽継に私は内心叫びたくなったが、ぐっと堪えて営業用スマイルを浮かべる。

ここで私まで変な行動を取ったら、きっと収拾がつかない。


「美術室、入ろうよ」


三秒後に、やっと頷く羽継。

足下に落ちているお菓子とお茶のペットボトルを拾おうと駆け寄るも、羽継はその前にバッと拾い上げて雑にポケットや弁当袋の中に隠してしまう。


「…………」


二人して、沈黙。…………。


気まずさに死にたくなっていると、いつの間にか姿を消していた文ちゃんが私の手を引く。


「美術室、開けたから。行こうよ――…ここじゃ、目立つよ」


ぼそ、と最後の方は囁いた文ちゃんは、珍しく強引に私を引っ張っていき、硬直している羽継も回収してランチ場所に連れて行く。

その途中、何度もこちらを気にする視線やこそこそと私たちのことを噂する声に気付いて、あのまま見せ物状態を続けてなくてよかったと、心底思った。



「―――あ、着いたね……羽継、座ろ」

「ああ……」


―――え、ちょっ、何もそんな汚い席を選ばなくても。

絵の具がぶちまけられた椅子に座ろうとする羽継――は自分が何してるのかまだ分かってない様子だったもんだから、私はとりあえずあの子と椅子の合間にハンカチを投げつけた。


流石に羽継みたいな大きい男の子の動きを制して違う席に誘導するのはできないから、苦肉の策だ。……まあ、絵の具も乾いてるみたいだから汚れないだろうけど…。


「…………」


―――私の優しさに気付かず、机に両肘を付き、頭を抱えて黙り込む羽継。

声は、かけない方がよさそうだ………。




「……はぁ…」


溜息を吐き、とりあえず羽継の隣に私の弁当箱を置いておくと、目の前の席に文ちゃんが座った。

かけるべき言葉が分からない様子の文ちゃんに申し訳なくて、取り繕った明るい声でお喋りをしようと頑張ったのだけど――結局続かなくて、三人して黙り込んだ。


まさにお通夜状態です、ありがとうございます……。あれ、「ありがとうございます」なのか?あれ……。




―――ま、まあ、とにもかくにもお通夜状態で"待ち続けている"と。





「ただいまー!勝ったぞ!圧勝したんだ――って、暗っ!?」



圧勝……ええっと、あの後輩君は無事ですかね。無駄に爽やかな笑顔をしてるのが不安なんですが。


……まあいいか。とにかく空気が変わったし。ご飯にありつけるし。羽継もちょっと落ち着いてきてるし。変なとこ突くのはよそう。


「おかえりなさい、国光くん。……ご飯食べよう?」

「ああ!嘉神も悪いな、待たせちゃって」

「……いや、いい。食べようか――彩羽、」


あ、やっと目線が合った。

羽継は私の名前を呼ぶと、そぉーっと、弁当袋に入れていた二人分のお茶に手を伸ばし、もう片方の手を懐に隠していたお菓子に、



「―――あ、そうそう。"彩羽"。さっきのお菓子ありがとうなー!アレのおかげで助かったよ。

んでコレ、丁度帰りに自販機寄ったら当たりが出たからさ…お裾分けっ」



羽継の行動は、無邪気な"流鏑馬"の声で動きを止め、終いにはそっと腕を下ろしてしまった。


もうどんな反応をすればいいのか悩んだ私はとりあえず「お裾分け」を頂いたが、両の手のひらの上で持て余してしまう。


だって偶然にもそれは、あのとき羽継に「買ってこいよ!」と言った――私のお気に入りの、林檎ジュースだったのだ。


気持ちは嬉しいけど流石に羽継の隣では飲めないから、笑顔でお礼するだけでやりすごそうと思う。



「―――ありがとう」

「いえいえ。…っと、これは文な」

「ありがと…」

「で、嘉神にはお見舞いにお菓子――って、なんでお茶二本も買ってんだ?」


ちゃんと羽継の分も見繕って来た流鏑馬よ。君は優しいが無邪気すぎて残酷だな。


私は(ないとは思うけど)羽継が殴りかかるんじゃないかと不安になって、この子の服をこっそり掴もうとした。


が、



「…―――喉が、渇いてて」


羽継は低い声で説明するや、お茶を掴んで一気に飲む。

その際に、この子の腕に触れかかった私の指先は離れてしまう。まるで―――


(拒絶された、みたい)




「………国光くん」

「ん?」

「空気、読めるようになってね……」

「!?」















【×××の初恋】





あの日貰った飴玉を、ずっと肌身離さず持っている。


眠る時は枕の傍に、学校に行くときは胸ポケットの中に。――これがあるだけで、私の心は温かい。



「あっ、見て見て、流鏑馬やぶさめくん!」

「袴姿だぁー!!格好良いー!」



―――私に微笑んでくれた王子様の名前は、「流鏑馬」くん。

気さくで、明るくて、人懐っこく笑うのが可愛いけど、とても紳士で格好良い男の子。


クラスは1-A。身長は165cm。一月九日生まれの山羊座でO型。

成績は基本的に平均よりは上。でも体育は得意。そして音楽と美術は平均以下。

授業態度はそれなりに真面目で、使用している筆記用具は使いやすいと評判の物を使っていた。

そして風紀委員を担当していて、剣道部に所属している。


(ここまで調べるの、大変だったよぉ……)


さらに今日知ったのは――流鏑馬君のお祖父さんは剣道の道場を持っている先生で、流鏑馬君は昔からそこに通ってる。だから休日はお祖父さんの道場で鍛錬してるのだとか。

礼儀にうるさい剣道を幼い頃からやっているから、流鏑馬くんはそこらの男子と違って大人っぽい男の子なのかもしれない。


「どうしよ、見に行っちゃう?」

「行っちゃおうかー!ふふ、高道先輩もいるかなー?」


―――剣道部には、流鏑馬くん以外にもモテる人が何人かいる。

正直、それでたくさんの女子が入部したらしい――まあ、即何人も辞めてったそうだけど。

今では彼らの様子を覗き見してキャーキャー言っているのが剣道部のいつもの光景となっている。



(……今日こそは、タオル、渡せるかな…)



休憩中や部活動終了後は、女の子の戦争が始まる。

今の所、争いが最もひどいのは高道先輩のところだ。流鏑馬くんは三番目くらい。

……でも、私はみんなに虐められてる存在だから、ちょっと近づいて覗くだけでも嫌味を言われたり小突かれたり、そもそも近づくことすらさせてもらえなかったり。


これを攻略して接触を図るのは、かなり難しい。



―――でも、今日は「立派な盾」がある。


実は昨日、道場前でうろうろしてたら「吉野さん」という同級生と知り合って、話の流れから今日は一緒に道場を見に行こうという話になったのだ。だから現在、私の隣に吉野さんはいる。


吉野さんは珍しく私に悪意なく接してくれた人で、ハキハキと物を言う。スタイルも良いし顔も良いから、「一学年の三大美少女」に数えられてるくらい。

…ただ、吉野さんはしっかりメイクして流行に敏感な「今時の女の子」なものだから、地味な私としては隣に居たくない…。


でも、吉野さんとだったら最前列まで無理矢理行けそうだし、今の吉野さんは何故か薄いメイク状態だから華やか過ぎて怖い雰囲気はない。

どちらかというと、今のままの吉野さんのままでいてほしいな。



(―――それより。…やっぱり、吉野さんも、流鏑馬くんが好きなんだろうなあ)


その吉野さんの手には、温くなっているスポーツドリンクがある。

やたらと手で温めていたそれは、渡す相手が飲みやすいようにという気遣いが込められている。


複雑な気持ちで吉野さんの持つペットボトルを見ながら歩いていると、すぐに道場に辿り着いた。

そして私の狙い通り、最前列で「王子様やぶさめくん」を見ることができたのだった。







――――でも、タオルを渡すどころかお話しすることもできなかった。


落ち込んでいるうちに、私は激しい争いを繰り返す女子の波によって吉野さんと別れてしまい、今は自販機の前にいる。


流鏑馬くんは優しい人だけど、ファンサービスには応えてくれないのだ。いっつも早々に着替えに行っちゃって、いつの間にか帰宅している。

……というのも、吉野さん曰く女子剣道部員に頼んで――彼女たちに上手く紛れて静かに去るのだとか。

押しかけてきた女の子たちはひっそりと出て行く彼女たちや地味な男子たちには見向きもしないで(一応通れるスペースくらいは開けてるけど)イケメンさんたちにキャーキャー言ってるから出来るんだろうな。


そう教えてもらった私は必死に忍者のように帰ろうとする流鏑馬くんを探したけど、見つからなかった……どういうことだろう。



「……まあ、いいか」



今日は、あんなに近くで流鏑馬くんを見れたもの。

ああ、本当に格好良かったなあ……人懐っこそうに笑う流鏑馬くんもイイけど、凛とした表情の流鏑馬くんもステキ……はぅぅ……。


「吉野さんにはあとでお礼言っとかないと―――ん?」



あれ。

家の鍵、財布の近くにしまってたはずなのに。あれ―――?


「落としちゃったかな……あっ、そういえば、美術室の近くで鞄いじってたっけ」


もしかして、渡せなかったタオルを綺麗にしまおうとしてゴソゴソと中身を漁ってたときにやっちゃったかな?

薄暗くなってきてるのに、あんなとこまで戻るのやだなあ……。


はぁ……―――しょうがない、さっさと取りに行こうっと。







「―――あれ、美術室、明かり点いてたんだ」



おかげで廊下も明るいし、人がいると思うと真っ暗な色にオバケの顔が浮かんでいそうな窓も怖くない。

私は予想通り美術室前に落ちていた鍵を拾い上げると、さっさと立ち去ろうと踵を返した。





「―――冷えてるね、国光くん」



けれど―――少女の呼ぶ「名前」に、私の体は動きを止めた。


(………今の……えっ?)


振り向く。

可能な限り「音」を殺して、美術室の扉に近づいた。



「…今日はどんなルートで帰ってきたの?」

「刺激たっぷりの道だったよ――途中、何度も教師に見つかって……結局遠回りになっちまった…」

「国光くん……」



呆れた声の少女――ああ、とても綺麗な声のひとだ。


「ま、まあ気にするなよ。……それより、待たせちゃってごめんな?」

「いいの。用事無いし…」

「でもさ――こんな寒い中帰すの、婆さんたちに申し訳ないわ」


優しい流鏑馬くんの声。

私なんて、姿を見るだけでも幸運なことなのに、この少女は―――この女は―――。



「じゃ、あの"見学の女子たち"が来ちゃう前に行こうぜ」

「うん……あ、国光くん。釦掛け違えてるよ」

「えっ……だから寒かったのか!」

「国光くん……」



そんな――の―――だなんて、



「…決めた、今日の晩御飯はお鍋にしよう」

「いいなあ鍋。鶏鍋がいいな!」

「牛肉もあるよ?」

「………流石に…余所様の家ですき焼きは―――それにお前の家の牛肉ってみんな高級肉じゃんか!」

「鶏もだけど……別に、毎日高いお肉を食べてる訳じゃないよ?」

「嘘だな、毎日良い肉を食ってるからこんなに髪がキレーなんだろっ」

「ひゃっ…もう、お肉と髪は関係ないでしょ?」

「じゃあこの頬っぺたか?とりゃー!」

「ちょ、国み――あ、そろそろ戸締りしないと怒られちゃう」

「え?…あ、やっべ。怒られる前に帰らないとな」

「もう扉閉めるだけだから、先に玄関で待ってて」

「いや―――、一緒に渡しに行こうぜ」

「でも……」

「待ってるよりも、一緒に歩いていたいんだよ」

「…。…そっか」





―――こんなの、

          絶         

         

          

               対

                   う


            そ



                      よ







「―――あ、あんた此処に居たの?」

「……っ……、吉野さん」

「どうしたの、そんな息切らして走って来て…」

「…――なんでもないよ」



―――ゆめだ。


さっき私が見たのは、タチの悪い夢だ。



「…吉野さん、飲み物――流鏑馬くんに渡せたんだね」

「はっ!?ちが……会えなかったから、他の奴にあげちゃったの!」



悪夢から覚めたばかりの、私の無神経な一言に怒って先を歩いていく吉野さん。


(…………ああ、安心した)


「この綺麗なひとも、私と一緒なんだな」と思うと、少しだけ苛立ちが和らいだ。


「さっさと帰りましょ」


―――誰かと一緒に帰るのは、久しぶりだ。


私は明日も一緒に帰ってもいいかと尋ねようと思って、隣の吉野さんを見ると―――怒っていたはずの吉野さんは、どうしてかちょっぴり満足げな顔で、ドリンクを持っていた手のひらを見つめていた。












*吉野さんは第三話の「出会い」で文ちゃんにビンタしてた女生徒です。

あと二話後に吉野さんがビンタした理由が判明しますよ!



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