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12.反則だ(※マジで)



―――ふと目を開けると、暗闇が広がっている。


あの野郎、電気消しやがったな。……私はね!明かりが無いと寝れない派なの!豆電球点けろよ!いや点けてください!


しかし電気は点かぬ――こうなったら、と嫌がらせに私のベッド真横で布団を敷いて寝ているだろう羽継の髪に手を伸ばす。

へへ、何本か髪の毛引っこ抜いてやんよ……!


「………ん。」


私の指先が羽継の髪に触れると、もぞもぞと羽継が私の指先に触れてきた。どうやら思ったより浅い眠りの中だったようだ。……どうしよう、起こしちゃった。



「ご、ごめん…はね、」

「―――…大丈夫だ」


私の声を遮ったその声音は、優しいものだった。

「ここに、いるよ」―――そう呟いて、羽継はそっと私の手を握った。


………普段はこんな握り方しないくせに。

というか基本的に私に優しく触れて来ないくせに。

私が落ち込んでたって、疲れてたって、慰めるように触ったりしないくせに―――なんだよ。


なんだよ。


なんだよ……なんで、こんなときだけ。



あんたは。いっつも、私が泣いたり、怯えてる時だけ、態度をガラッと変えてさ。




こんなの、反則じゃんか。



「そばにいる」



………反則だ。















「……おいバカ起きろ。…起きろ!何で俺の布団全部奪ってんだ。何で俺の枕カ○バラさんになってんだ!」

「うっせーばぁーかぁ……」

「お前な、男の布団に潜りこむなんて嫁入り前の娘がはしたないと思わな……起きろってば!」

「うきゃー!」



―――お小言がうっさいので布団に潜りこんだら、引っ張り出された。

こちとら怪我人なのになんて冷たいのか。怒るのならあの後私の手を握りながら爆睡し始めた己を恨むがいい。


「まったく……ほら、ベッドに移れ。もしくは飯食いに下に降りるぞ」

「えー、めんどーい」

「面倒臭がらない!」


叱りつける羽継は、「いつものように」私を引きずりながら居間に向かう。


文句を言うその口からは、「例の名前」は出てこなかった。















◆◇Das Herz von Alice◆◇





「……朝に、なっちゃった」



―――彼女は掠れた声で、抱きしめていた猫のぬいぐるみに呟きましたが、返事は当然ありません。

彼女はそれでもいいとぬいぐるみに頬擦りすると、「頑張らなきゃ」とベッドから体を起こしました。


慎重にベッドから降りようとしては小さく悲鳴を上げて――その背中はひどく儚げに消えてしまいそうなのを、ぬいぐるみの黒い瞳はじっと見つめていました。



「―――まあ文ちゃん、今日は無理しないでお休みしましょう?」

「大丈夫です、…転んでしまっただけだもの」


心配そうな祖母の言葉に、彼女は微笑んで首を横に振ります。


―――寄り添い合う二人の影に、そろりと猫の影が纏わりついたけれど、誰も気づきませんでした。







御巫みかなぎさん、おはよう!」

「…おはよう、穂乃花さん」


―――教室に入ろうとする彼女の肩を叩いて挨拶する穂乃花は、彼女の隣を歩いていた国光がさっと一瞥してから去って行くのを見て、首を傾げました。


「……流鏑馬やぶさめくん、なんか機嫌悪いね……というかあの人って朝練――あれ、御巫さん顔色悪いけど大丈夫?」

「うん。ちょっと――昨日、足を挫いてしまって。……だから今日、彩羽さんの家には行けそうになくて…」

「ありゃりゃ、それは災難だったねえ…」


視力の悪い穂乃花が「お大事にね」チラリと足を見ながら労わるのに、彼女は苦笑しながら「ありがとう」と言いました。


彼女が席に着く頃には穂乃花は友人たちに朝の挨拶をしに行きます―――。



(……なんだか寂しいな……)



良いことなのか悪いことなのか、彩羽と仲良くなってそう日は経っていないのに、久しく感じたそれに――彼女は、目を伏せました。



「―――ねー、知ってる?明後日さあ、水族館が……」


「……で、阿賀野がさー、」


「漫画読み終わったよ!ありがとー」


「そういえば、夏休みが近いね……」




「―――ねえ、御巫さん?」



ぼんやりとクラスメイトたちの会話を聞いていた彼女は、突然自分に話をふられて固まりました。


「え…?」


各々の会話に夢中になる教室。その中に浮かない程度の声と表情で彼女に近づいた女生徒は、机に手をついてさも「仲良くお喋り中」を装って――彼女の、挫いた足をぐりぐりと己の足で抉りました。


「いっ――」

「御巫さん今日も可愛いねえ。階段であんなにはしゃいでる姿も超可愛かったよ」

「ちゃんとお礼して欲しいなー?御巫さんのためにわざわざ先生も連れてきてあげたんだよ?国語の松下先生だけど」

「あんな汚いのでごめんね?でも男の先生の方が力もあって丁度いいかなーって」

「無理せずもっと密着すればよかったのにぃー……ぷっ、」


足の痛みのせいか、それとも「昨日」の屈辱のせいか、彼女の目がじわじわと熱くなります。

女子生徒を見る目が厭らしいと評判の教師に助けられた時の、あの無遠慮に無意味に触れてくる手を思い出して、吐き気もしてきました。



「御巫さん顔色悪いねえ?もっと体力つけなきゃ駄目だよ?」

「そうそう。だって御巫さんのお祖父さんもお祖母さんももう歳でしょう?"一人でも生きていけるくらい"逞しくならなきゃ」

「もしかしたら次に養ってくれる所では財産全部盗られちゃうかもしれないものねえ。そういうの、よくあるらしいわよ?」

「しかも御巫さん可愛いし!……"色々気を付けなきゃ"いけないね」

「ああ本当、美人さんって大変よねえ」

「でも"就職先に困らない"容姿って、羨ましいわ」



この「遠回しな悪意」に満ちた言葉を吐く女生徒たちを、恐る恐る――見上げてみます。


悪意に挑もうとしたのか、それとも懇願の為に顔を上げたのか分からずに視線を上げた彼女は、思わず悲鳴をあげそうになりました。



(ばけもの……!)



まるで―――子供が絵の具で「人」を描こうとして気まぐれをおこしたような、人の形をした異形。

その異常なほど大きな目は彼女の弱みを探ろうとするようにギョロギョロと蠢いています。


思わず周囲を見渡す彼女に、「異形」どもは助けを求めようとしているのだと嘲笑い、大きな口を歪ませていました。


(あれ?え?…この人たちだけ?あれ?なんで、なんでなんでなんで……!?)


―――異常事態。

けれども相変わらず圧迫され続けて足が痛い。そして威圧感を与えてくる異形の女生徒たちが怖い――また目と目が合って、思わず「ひっ」と小さく喉を鳴らします。


(他の人は気づかないの?私が変なの…?国光くん、国光くん…!)


―――たすけて。



思わず口にしてしまいそうだったその願いを聞いてくれた人なんて、誰もいませんでした。







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