第四話 廃ゲーマーは敗北した
遅くなりました。すいません。
やっぱり、バトルは難しいですね。
それに、一から書くと前のやつに印象が引っ張られちゃって・・・
・・・・・・パチ・・・
「ふむ・・・なかなかやりますね・・・これでどうでしょう」
・・・パチ・・・・・・
「甘いな。俺ならこうする」
パチ・・・・・・・・・
「ひっかりましたね!これでどうですか!」
パチッ!
「しまった!俺の角と飛車が!くそっ・・・」
「へっへん!これで飛車もらい!やった―――じゃないですよ!」
アテナそう叫ぶと、プラスチック製の薄い板―――将棋盤をひっくり返した。
駒は盤に磁石でくっついているので落ちることはないが、駒の位置は滑るようにずれてしまった。
「てめえ!なんてことしてやがるんだ!勝負は最後までやり通しやがれ!」
「あっ・・・はいすいません―――じゃなくて!なんで私たち将棋なんかやってるんですか!?ちょっと前にカッコつけてなんか名乗りをあげたばかりでしょうが!」
「馬鹿野郎!勝てるかもどうかわからん相手に肉弾戦なんかするわけないだろ!」
「正論だ!?」
俺は嘆息しながら立ち上がり、飛ばされてしまった将棋盤を拾う。
駒は幸い一つもなくなってはいないが配置はもうバラバラ、あっちらこっちらと見当違いな方向に向いている駒もある。再開は不可能だろう。
しょうがない、諦めてもう一戦か・・・。
「ほら、さっさと駒を並べろ。再戦だ」
「わ、わかりました。それでは先ほどの事を入れてハンデとして私は飛車落ち―――じゃなくて!」
「・・・なんだよ。さっさと決着つけさせろ。俺は早く自分の世界に帰りたいんだ」
「既に勝気!?いやいや、そうではなく!あそこまで武器を構えて突撃したのにこれはないんじゃないですか!?仮にも男なら、剣で決着をつけないましょうよ!」
「・・・ちっ、しょうがねえな・・・」
心底嫌そうな顔をして、膝の埃を払って立ち上がる。
将棋盤をポケットにしまい、別の獲物を手で握り締める。
それをみてアテナは、嬉しそうに唇を釣り上げる。
「・・・私、実はかなりの実力を持っていまして、本気を出すことは滅多にないんですよ。あなたなら、大丈夫でしょうか?」
「ほざけ、自分の実力を過信する奴は足元を掬われるぞ。知らないか?『信じるものは足元を掬われる』って」
「正当な評価です。それを自負できるだけの実績は積み上げてきましたからね」
アテナはそう言うと同時に、再び光の剣を出現させる。
細かな装飾が施された両刃の細身の剣は光り輝き、照らされるはずのない暗闇をまるで塗りつぶしていくようである。
「さあ、決着をつけましょう」
そして、アテナはその剣を振り下ろした。
*
「これで、終わりです」
・・・・・・・・・カチャ・・・
「ふん、知恵の神ともあろうものが情けない・・・ほら、チェックだ」
・・・・・・カチャ・・・・・・
「ぐっ!そうきましたか・・・これで」
・・・カチャ・・・・・・・・・
「はっは!引っかかったな!チェックメイトだ!」
カチャッ!
「しまった!でも、まだ私は諦めません!戦場には常に伏兵が―――て、ちがーーーーう!」
アテナが再び盤をひっくり返すのを冷めた目で見つめる。
まあ、なんとなくわかってたしな。
「なんで、私たちは、チェスなんか、やってるんですか!?」
「蹴るな、殴るな、剣を振り回すな。お前が剣で決着をつけろっていったから、わざわざ洋風のやつを選んでやったんだろう」
「そういうことじゃないんですよ!というか、なんで当たらないんですか!?」
マグネット式ではないので周りに飛び散ってしまった駒を、アテナの攻撃をよけながら拾い集めていく。
鼻先や髪を微妙に擦るぐらいの距離で避けるのは、なかなかにスリルがあるものだ。
すすんでやろうとは微塵も思わないが。
「お前、剣筋が正直すぎるだろう。フェイントぐらい使ったらどうだ」
「普通はフェイントなんて人間には必要ないんですよ。それに、あなたも少しはできるみたいですが必要無さそうですからね!」
「・・・へえ・・・・・・」
今の言葉には、少しカチンときた。
アテナの顔を見るかぎり、本気では言っていないようだが舐められるのは俺にとっても面白くない。
確かに、アテナのノリがよかったから遊んでしまったが、大事なことも忘れてしまっていた。
ゲームには本気で全力、そして己の名と魂と誇りをかけてやること。
まあ、このゲームにかかっているのはそれだけではなく、今後の人生もかかっているんだけどな。
袖に仕込んであるナイフを一息で抜刀し、アテナに突きつける。
タイミングは剣を振りかぶった瞬間、本来なら一番最悪のタイミング。それは、アテナの笑顔が語っている。
しかし、俺はそこを逆手に取る。
アテナは腕ごとナイフを叩き落とそうと、剣を振り下ろす。
普通ならば、腕は剣に切断され、血を噴出しながら飛んでいくはずだ。
そう―――相手がもしも普通の人間ならばの話だが。
「・・・はあっ!?」
とっさの変化に対応し、アテナが後ろへとぶ。その顔には驚愕の表情が見て取れる。
まあ、そうだろう。なにせ、腕から剣が飛び出たのだから。
「どうなってんですかそれ?」
「詳しく言うと、仕込み刃ってやつだな。腕に沿う形で固定して、金具を外せば刃が手首を支点に飛び出るってわけだ。さらに言えば、相手が切りつけてきた時もこれで防げる。装備としてはなかなか良いものだろ?」
「もろ首狙ってきたくせに、何を言うかと思えば・・・」
額に青筋を浮かべながらの笑顔は、大層怖いものだ。これは、かなり切れかけてるな。
俺が更に警戒を強める中、アテナは再び剣を振りかぶり突撃の体勢をとる。大上段からの一撃で沈めるつもりであろう。先ほどとはまるで違う、殺気とでもいうべきものが周りを凍りつかせていく。
「そんなもの・・・腕ごとたたっきってやりますよ!」
「できるものならやってみ」
やってみろ、その言葉は最後まで言えなかった。
何故なら、光の矢が眼前に差し迫っていたから。
全力で首を横に振り体勢を崩しながらもよけることに成功する。しかし、それはすでにアテナの術中であった。
よけたその先に、光の剣を振りかぶるアテナがいたのだから。
「―――っ!?」
「奇襲はアリですよね?なにせ、自分がもう使ったんですから」
光の剣は、闇を切り裂きながら迫る。
この体勢で避けることはできない。他に用意してある暗器も、この状態で使うことは不可能。
あ、終わった。
そう諦めがついた瞬間、光の剣は振り下ろされた。―――俺のすぐ横に。
「・・・へっ?」
アテナがすっとんきょうな声を上げる。俺自身もびっくりだが、あいつにとってもまさかの出来事だったらしい。
突然のアクシデントにアテナは固まってしまっている。今が、絶好のチャンス。
何が起きたのかよくわからないが、今日ほどの神様の嬉しいサービスはない。これは、今日はカツ丼でも供えておくか。
そう内心歓喜しながら、ポケットから予備のナイフを取り出そうと後ろを向き・・・絶望した。
まさか・・・
「まさか・・・嘘だろ・・・?」
そこにあったのは、全ての駒が一つを除いて全て倒れている光景であった。未だ立ち続けている駒は白のキングだけ・・・そして白は、アテナが使っていた色であった。
先ほど俺が集めた駒は、襲撃をかけられながらも頑張って全部並べて置いた。
配置は完ぺきだ。間違っておかしな置き方はしていない。
そして、現在の配置に変わっているのは俺のせいではない。
原因として考えられるのは一つだ。先ほどアテナが外した光の剣。
まさか、斬撃を飛ばしてあの駒だけを一切動かさず吹き飛ばしたのだというのだろうか?
いや、そんなまさかこれはまさか・・・?
―――俺の、負けなのではないだろうか。
「・・・俺の・・・負けだぁっ!ちくしょう・・・!」
こうして、史上初の俺と神とのゲームは、神の勝利に終わったのであった。
「えっ?なに?なんで負けを認めてくれたんですか?いや、それよりいったい何がどうなってるんですか!?」
勝者はしばらく混乱していたが。
言いわけじゃないです。弁明です。
そして、そろそろアテナ編決着。
次回、『廃ゲーマーと旅立ち』
やっと旅立てる・・・。