第三話 廃ゲーマーは宣戦布告した
遅くなりました、すいません。
後、あけましておめでとうございます。
今年も、よろしくお願いします。
「で、天使だが女神だが知らんが俺に何の用だ?」
面と向かい合う誘拐犯に話しかける。
はっきり言えばこいつが女神なんて全くもって信じてないが、うかつなことを言って機嫌を損ねてはいけない。
こういう頭がちょっとイカれてる奴は、自分の演技中にキャラを否定されるととんでもなくキレる。それはもう、ドン引きするほど。
手の打ちようがない今、ここで機嫌を損ねられると一生ここから出れずに帰れなくなる可能性がある。下手すれば餓死。
ここは色々我慢して、話に乗ってやるとしよう。
「すごい失礼なこと考えてますね」
「・・・気のせいじゃないのか?」
「あさっての方向を見ながら言っても、説得力は微塵もないですよ」
ジト目で睨まれているが、しらを切る。切れているっと言ったら切れている。
完璧なはずの俺のごまかしに頭がイカれてる自称女神が気づけるはずがない。
誘拐犯は、しばらく俺の方を睨んでいたが、ため息をついて姿勢を直した。
「まあいいです、それであなたをここに呼んだのはとても簡単―――異世界に行って世界を救って欲しいんですよ」
また頭の痛いことを言いだした。
確かにRPGは好きだが、自分の妄想を語るのは脳内だけにしてほしいな。
「・・・・・・聞こえてますよ」
こめかみの部分に青筋をたてながら、誘拐犯はニコリと笑っている。
どうやら、考えていたことが口に出てしまっていたようだ。
誘拐犯は無理矢理怒りを押さえ込もうとしたのか、笑顔に殺意が混じっている。やばい、これは命の危機を感じるレベルのにっこり笑顔だ。
「すまんな。どうにも信じられなくて・・・」
こんな頭の痛いことを言い出す奴が、俺の誘拐犯なんて。
「『こんな頭の痛いことを言い出す奴が、俺の誘拐犯なんて』・・・って、思ってますね?」
その瞬間、背筋が凍った。
誘拐犯の口から放たれたその言葉は、俺の考えていたことと寸分違わず同じであったからだ。
驚きその顔を見るとそこにあったのは余裕の表情、その目には確信が浮かんでいる。
これは、ただのカマかけではない。明らかに、自分の発言に確信を持っている。
もしかしてこいつ人の考えが読めるんじゃ・・・?
「ビンゴです」
「心の中の質問に答えるんじゃねえ!」
「心の中を読まれたくなかったら、悟りでも開くことですね」
にっこり笑顔で無茶言いやがる、さっき俺が言っていた・・・いや考えていたことを根に持ってるなこいつ。
「当たり前ですよ。それで話を続けますが、あなたには異世界に行ってもらって我らが世界の異分子―――魔王を討伐して欲しいのです」
「・・・心の声に返答したことは聞かなかったことにしてやる。なんで俺が選ばれた?」
「選考基準ですか?それはもちろん世界から消しても大して問題が起きなさそ―――魔王を倒すだけの才能を持っている人物ですね」
「隠しきれてねえよ!この世界にとって、俺は消えても問題ないのか!?いらない子なのか!?」
人に嫌われることはあっても、まさか世界から嫌われているとは思わなかった。
なに?何が悪かったの?
地球温暖化が騒がれているのにレジ袋使ってたこと?でも、電気はこまめに消してたぞ。
というか、どうすれば回避できるんだよ。
どんな糞恋愛ゲームでも、ここまで鬼畜じゃねえぞ。
「そんなことはいいじゃないですか。それで、だいぶ手遅れですがどうします?いきます?」
「なにが!?俺はいかないぞ!いくらゲームが好きでも、そんな糞ゲーはやりたかないんだよ!女神だか天使だか知らんが、異世界の人間を巻き込んだりせず自分で対処しろ!」
「それは無理ですね。魔王の固有能力が少し厄介でして、神が出向くと逆に魔王のほうが弱体化どころか強化されてしまうんです。その点、別世界の人間には効果はないようですからこうして誘か―――頼んでいるというわけです」
「頼んでねえよ!結局誘拐じゃねえか!さっさと俺を元の世界に帰せ!」
「あなたの存在はもう世界から消去してしまったので無理ですね。戸籍からレンタルビデオ会員証まであなたが存在していた証拠は完璧に消してあるので、世間からも世界からも異物として認識されてしまいますよ?」
その言葉に、俺は絶句した。
もう、自分の世界には帰ることはできない。そう告げられたからだ。
そしてそれは、おそらくいままで積み重ねられてきた完全クリアのゲームデータも・・・。
―――全部、消えているだろう。
その時、俺の中の何かが切れた。
「―――ざけてんじゃねえぞクソ女神ィィィィィィィィ!」
「く、くそ!?なんてことを言うんですか!仮にも神に向かってその暴言、今ならまだ許してあげますから撤回しなさい!」
「なわけねえだろ!だったら、今すぐ全てを元通りにした上で俺を元の世界に帰しやがれ!そして今後一切関わるな!」
「できるわけないから、こうやって頼んでいるんじゃないですか!」
「頼んでねえ!これは脅迫って言うんだ!少しは人間の常識でも学べ絶壁まな板!」
プチンッ、そう切れた俺の耳元まで聞こえて来た気がした。
「・・・・・・もう、前言撤回はできませんよ?」
「上等だ。後、この戦いで、もし俺がお前に勝利した場合、俺の要求を飲め」
「・・・いいでしょう。ただし、負けた場合は私の言うとおりにしてもらいます。まあ、私が負ける可能性など微塵もありませんがね」
誘拐犯―――女神はそう言い、いつの間にか出現していた光の剣を構える。
俺が勝つ可能性はないか・・・確かに、この距離で伝わってくる『気』からして俺に勝ち目は薄いだろう。
だが・・・
「その自信がいつまで続くかが見ものだな」
これが勝負と決まった今、俺が負けることはなくなった。
ポケットに忍ばせてあるバタフライナイフを手に持ち、いつでも始められるよう構えをとる。
「ルールは、どちらかが降参するか、気絶するまで。武装は自由。殺しは無しだ」
「派手に啖呵きったわりには、随分と甘いルールですね」
「俺は普通の人間だからな。名乗れよ女神、俺の名前は朝葉竜地だ」
「ふん、【断罪の戦女神】アテナ・・・神に喧嘩を売るものが普通ですか?」
「ああ、至極真っ当な人間だ。
さあ、法をもって剣となし、法をもって盾となす。
此度の戦い、己の誇りと魂をかけ、いざ尋常に―――」
「―――勝負です」
俺は大きく息を吸う。
これは戦いの前の儀式。己の意思をかため、意識を戦闘のためだけのものへと変えるもの。
そして俺の視界―――世界から色は失われた。
「さあ、決闘・・・スタートォォォォォ!!!」
極力姿勢を低くし、這うように女神へと向かっていく。
片や争い無き平和な島の国の学生。
片やあらゆる魔を断罪せし女神。
戦力差は、あまりにも圧倒的。
しかし竜地は蛮勇にもただただ拳をにぎりしめ、神へと挑戦する。
この戦いで己が運命が決まると、本能に近い部分で理解していたから。
―――そして戦いが始まった。
―――世界初、神と人との戦いが・・・
最後の方は、前の奴を流用。
そのまんまだけど、いいよね?
1/1 ちょっと修正