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植物とキスをする。新鮮空気あります。  作者: 湊 俊介


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初回は特別サービスの3000円

「リフレッシュしてどうなるんですか」


「体内に入っている汚れた空気を植物からの、獲れたての空気に入れ替えることでまず血中のヘモグロビンが活発に活動をして血流が良くなります。体がだんだんと暖かくなってきて眠たくなります。効果としましては肺機能の改善と病気の予防、肌質の改善等があります。ですので海外のセレブ達の間では美容法として話題になっているんですよ。女性のお客様が多いのですが、男性の方でも大丈夫です。通常一回の施術8980円ですが初回半額の4490円、男性のお客様は少ないので特別サービスで今回は3000円で大丈夫ですよ」


財布の中を確認すると千円札が二枚と小銭がじゃらじゃら、500円玉が1枚は見えたから3000円はありそうだった。ここまで来たら引き返せない。僕はお願いしますと言った。


店内はそんなに広くない。かえでさんは準備しますと言って部屋の奥からストレッチャーのような折り畳み式の台を運んできた。それを植物で挟まれた通路の真ん中で組み立てる。机ができてタオルをかけた。頭を置くのか小さな枕を置いた。


「それでは奥に脱衣所があるので衣服をすべて脱いでください。貴重品はロッカーがあるのでそちらにお入れください。ダイヤルの暗証番号をお好きな数字にしてから扉を閉めて、ダイヤルを回してください。数字は忘れないようにお願いします」


「え、全部ですか」僕はさすがに、女性の前で素っ裸になる気持ちの準備はできていなかった。僕が戸惑っているとかえでさんは言った。


「体中の毛穴が呼吸をしていて。そのすべてから植物の空気を直接取り入れるんです」


答えになっているのか分からなかったけれど僕は奥の脱衣所に不承不承入った。アパレルショップの試着室みたいなもので簡素な脱衣所だった。羽織るローブもタオルも無い。あるのは椅子とかご、小さな金庫だけだった。金庫は床に直置きで財布しか入らないサイズだ。その上そのまま運べてしまえるような重さだった。僕は金庫を使わずにかごの一番下に財布を置いて、着ていたパーカーと、ジーパン、セーターを脱いだ。靴下、パンツも脱いで軽く畳んだ。カーテンをめくるのに躊躇したけれど、僕は勢いよくめくって、気にしていないそぶりでかえでさんの元まで歩いた。一応手で局部は隠した。こんな紫色の空間で僕は素っ裸になって何をしているのだろう。恥ずかしさで顔が赤くなっているのがバレないだけ、よかったと思えた。


それではこちらを頭に仰向けになってください、これから手術が始まるみたいにかえでさんは机の真ん中に立って言った。僕は反対側から机に横たわる。かえでさんは机の高さを上げた。足でペダルのようなものを踏んであげているようだ。僕の景色は少しずつ天井に近づいていく。


それでは体を清めます、かえでさんはガーゼのようなものに何かスプレーをかけて僕の首筋に当てた。ハーブのような香りのするスプレーだった。首筋から腕、体全部をかえでさんは拭いた。彼女は無言で、僕も無言だった。ガーゼが乾燥するとスプレーをかけて、そのたびに香りが強まった。かえでさんの手はだんだんと下に移動して、介護のように躊躇いもなく僕のペニスを左手で支えながら拭いた。


「それ、何のスプレーですか」


ペニスに触れられる直前に僕の方が気まず過ぎて聞いた。ローズマリーとカモマイルを合わせて度数の低いアルコールに付け込んだものです、とかえでさんは答える。僕はいい匂いですねと返した。


「香りでのリラックス効果もあるのでとても人気なんです、ご購入もいただけますよ」


 彼女は僕のペニスを丁寧に拭きながら笑顔でそう言った。特に特別なことはしていませんと言うような表情で、舞い上がっているのは僕だけだと恥ずかしくなった。そのおかげか僕のペニスは完全に大きくならずにすんだ。人に触れられること自体、いつぶりか分からない。


かえでさんは僕の体を拭き終わると、左右にある植物の台を近づけてきた。かえでさんがその間を一人歩けるくらいの幅だけ開いている。僕の心臓は静かに、そして速く鼓動する。それでははじめて行きます、とかえでさんは淡々と進めた。


かえでさんはまず僕の右側にある植物を手に取った。植物は独立した短い苗のようなものだと思っていたけれど、長いつる性の植物だった。葉の1枚がとても大きく、それが細いつるで繋がっている。


「この植物はアフリカ南部の山奥原産アルモンドカズラと言います。葉が大きくて吸い込む二酸化炭素の量も膨大で排出される酸素もそれに比例します。輸入が制限されていてちゃんとした手続きを踏まないと手に入らないんです。生育も一定以上の湿度と温度と日照力を必要とします。それがこの部屋では保たれているのです」


かえでさんはそういいながら、植物の葉を僕の体に張り付けていく。部屋の湿度があるせいか、自分の肌が汗ばんでいるせいか、この植物の性質か、アルモンドカズラの葉は僕の肌に不思議と吸着する。アルモンドカズラの葉が隙間なく僕の体に張り付けられていく。机に触れている部分以外のすべて、ペニスも葉で包まれる。体中が包まれて葉の冷たさがひんやりと、体に染みこんでくる。首から下に貼り終わると、動かないでくださいねとかえでさんが言う。そして葉が目を覆って耳も覆って、唇だけが僕のままだった。


葉っぱ越しにかえでさんの声が聞こえてきて、舌を出してくださいと言う。僕は唇を閉じたまま隙間からぬるりと舌を出した。するとアルモンドカズラの葉が僕の舌に乗せられた。


「これで完成です。しばらくこのまま全身で呼吸をしてリフレッシュしてください。電気を消すと植物たちは活性化します。この子たちは深夜行動が大好きなんです。それでは」


閉じた瞼越しに感じていた紫の光は暗く落とされた。


舌から感じるアルモンドカズラの独特な甘み、食パンを咀嚼した後に感じる甘みに似ている。体で感じるのはその甘みと葉の冷たさ、それと僕の呼吸だけだった。


しばらくその状態が続くと僕の呼吸に合わさって明らかに、別の誰かの呼吸が聞こえてきた。僕のすぐ隣で寝息をかいているようなそんな呼吸がはっきり聞こえる。それも一人じゃない。だんだんと呼吸音が増えていく。それにともなって葉の冷たさも暖かさに変わってきた。ホッカイロが温まっていくように熱を帯びていく。血の巡りも早くなっていくのが分かる。呼吸音に混ざって自身の心臓音も時計の針が鳴るように聞こえる。すべてが耳元でなっている。体は熱くなって血流が回る。かえでさんが見ているかもしれない。不思議と恥ずかしさは感じなかった。


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