第6話 入学編Ⅵ
サスカ教官が教室を出ていくと、ざわつきが広がった。
周囲では同期たちが互いに順位や神素量の話を交わしている。小声で数字を確認し合い、誰がどれだけ優秀かを探り合う。セダンはその声をぼんやりと聞きながら、自分の力について整理していた。
自分には神素値がほぼない。
実質、最下位であること。
マナと比べてしまい、情けなさで胸が痛む。
今後、自分はどうすれば強くなれるのか。目標は何か――その答えを考えようと、セダンは静かに頭の中で問いかけた。
すると右隣から声がかかった。
「お前の神素量は10らしいな」
スンズ・ナイレンが、いつの間にか隣に座り、じっとこちらを見ていた。セダンは否定することもできず、ただ「うん」と答える。
スンズは軽く肩をすくめて言った。
「俺も結構低かった。俺は神素量は120だった。この学園での評価だと、一応お前と同じくらいだ。それでも34位になれた。第二試験の時、俺は人形の急所を狙って攻撃していた。ああ、人形の急所っていうのはちょっと違うな。人間の急所、いわゆる頭や心臓とか、戦場で動けなくするために足の関節とかを狙ったんだ」
セダンは驚きを隠せず、つい大きめに声を出した。
「えっ……すごいね! 本当にすごい!」
周囲のいくつかの視線がこちらに向いたが、セダンは気づいていなかった。
スンズは人差し指を口に当て、軽く制した。
それを見たとき、セダンは自分が少し興奮していたことに気づく。
後ろを振り向くと、マナが微笑んでいた。愛おしそうな、少しだけ優しい笑み。
セダンは思わず心の奥が温かくなるのを感じた。
「お前は第二試験、どんな感じだったんだ?」
スンズに向き直る。質問は続く。
セダンは正直に答えた。人形の攻撃を避け続け、最後に一発だけ顔面を殴ったこと、結果は25点だったことを話す。
スンズは少し眉をひそめ、聞き返す。
「なんで人形を一切攻撃しなかったのに、最後にかましたんだ?」
セダンは少し前に読んだ漫画のことを話した。
「手下に囲まれたヒーローが、手下に一撃も喰らわず、奥にいるボスだけを倒すシーンがあって……それを真似したかった」
スンズはすぐに察したように笑った。
「それってもしかして『ドッジヒーロー』?」
「知ってるの?」セダンは目を見開く。
「ああ、そういうことか」スンズは軽く肩をすくめる。「確かにあのシーンはかっこよかったよな。20人くらいの手下に囲まれても、全部避けて、奥のボスだけ倒すやつだろ? あれは戦術としても面白いよな」
セダンは聞いているだけで嬉しくなる。
だがスンズは少し顔を曇らせ、続ける。
「でも、今回の試験には当てはまってなかったな」
その言葉で、セダンはパパに言われたことを思い出す。アピールの方法を間違えていた。戦場では「かっこよく見せること」よりも、効率的に敵を排除することが重要なのだ。
スンズは続ける。
「あくまで俺の予想だけど……おそらく、戦闘で大切なのはどれだけ効率よく敵を排除できるかだと思う。セダン、お前のやり方も悪くない。無傷でいるのは本当にすごい。敵からしても厄介だろう」
セダンの表情が少し引き締まる。
「でも、倒せなかった敵は、お前が見てない間に大切な人を攻撃するかもしれない。『一人くらい大丈夫』っていう油断が、命取りになる」
「その結果が25点。フィジカル的には問題ないだろう。でも戦術的にはよろしくない」
セダンは胸の奥から、悔しさと反省の感情が湧き上がるのを感じた。
自分のやり方では、また大切な人を守れないかもしれない。
その思いに心底打たれ、彼は真剣にスンズに感謝を述べた。
「ありがとう。スンズ、君のおかげで僕の進むべき道が見えた気がする」
スンズは肩をすくめ、軽く笑う。
「さんはいらない。スンズって呼べ。これからもよろしく」
「うん、スンズ!」
その瞬間、セダンに初めて友達ができた実感があった。
*
しばらくすると、スンズが少し不思議そうに話す。
「そういえば、さっきのあれはどうやったの?」
「え? あれって?」セダンは首を傾げる。
「いや、さっき、カナッツ家の七光りが吹っ飛んでいったじゃん」
「七光り? ああ、ロウリーのこと? いやあれは僕じゃなくて……」
セダンは三つ隣、窓際の机を見た。だが、そこにはもう少女はいなかった。
「あそこに座ってた人が……」と言いかけると、スンズが口を挟む。
「少し早いけど、先にホールの方行っとくか?」
セダンは少し考え、マナを見た。
「そうだね、ちょっとマナちゃんに聞いてから行くよ」
その後、なぜかマナもついてきて、3人でホールへ向かうことになった。
教室のざわつき、同期たちの小声、緊張感――
そのすべてを背に、セダンは初めての友達と、初めての本格的な訓練の場所へと向かっていった。




