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守衛士戦線―守衛士となり家族と国を守る少年―  作者: 銀河猿


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第5話 入学編Ⅴ

沈黙を横切るように、気の抜けた声が落ちた。

「サスカ・インビジブル。年は27。一応、お前らの担任だ」

教壇に寄りかかる男は、眠たげな目で教室を見渡し、小さく欠伸を噛み殺す。

銀髪は肩まで伸び、無造作に揺れている。

制服の襟はわずかに折れ、袖も片方だけが捲られている。

顔立ちは整っている。

だがその整いは、やる気のなさに完全に相殺されていた。

「一応言っとくけど、俺は強いぞ〜?」

誰も笑わない。

だが、笑えない理由は別にあった。

この男から、薄く、だが確実に漂う圧。

気の抜けた態度とは裏腹の、底知れない何か。

サスカは気にした様子もなく、視線をゆっくり巡らせる。

「30期生、1組。今期の当たりクラスだな」

ざわり、と空気が揺れる。

「神素値の平均が妙に高い。素質だけは揃ってる。……面倒くさそうだ」

リュウノは腕を組んだまま微動だにしない。

マナは背筋を伸ばし、静かに前を見据えている。

「まず今後の予定な」

黒板に力の抜けた字が並ぶ。

・歴史

・戦術

・体力増強

・合宿

・実践経験

「一年で叩き込む。その後、成績と順位を基準に部隊配属だ」

教室が静まり返る。

「守衛士はエリート職だ。だがな」

サスカの声が、ほんのわずかに低くなる。

「エリートってのは“選ばれた者”じゃない。“残った者”だ」

空気が重く沈む。

「途中で消えるやつもいる。辞めるやつもいる。潰れるやつもいる」

淡々と。

だからこそ、重い。

「去年は、半分しか残らなかった」

息を呑む音。

「昇華できなかったやつから消えていった」

「折れた。壊れた。死んだやつもいる」

誰も動かない。

「ここは実力主義だ。才能でも家柄でもない。結果だけが残る」

セダンは拳を握る。

98位。

その数字が、焼き付いて離れない。

「で、お前らが一番気にしてるであろう“順位制度”だ」

黒板に大きく刻まれる。

【ランキング】

「全生徒に順位がつく。30期生も例外じゃない」

「上げる方法は単純。上位を倒すか、公式イベントで成果を出すこと」

「負ければ落ちる。分かりやすいだろ?」

否定できる者はいない。

「で、順位で“差”が出るものがある」

わずかに口元が歪む。

「食事」

ざわり。

「一位は金貨十枚級。国賓待遇」

「二位から四位は金貨一枚級」

「五位から二十位は銀貨五十枚級」

「それ以下は銀貨十枚級」

空気が、露骨に変わる。

飢えではない。

欲望だ。

「五月から始まる学寮も同じだ。装備支給、特別訓練、部隊選択権——全部順位次第」

視線が交差する。

もう“同期”ではない。

敵。

「いい顔になったな」

サスカが笑う。

「競え。潰し合え。だが死ぬな」

軽い。

だが、絶対に冗談ではない。

「ちなみに」

黒板を指で叩く。

「順位を決めてるのは俺じゃない」

ガラッ。

勢いよく扉が開く。

「はーいはいはいっ! 30期生の未来を握る女、参上~っ!」

空気が一瞬で乱される。

オレンジ色のツイン三つ編みを揺らす少女。

丸縁眼鏡がきらりと光る。

制服にやけにポップなリボン。

場違いなほど明るい。

「メアリー・クロムウェルでーす! 30期生のみなさん、よろしくお願いしまーす!」

ぺこり、と大きなお辞儀。

三つ編みがぶん、と揺れる。

教室が困惑する。

「……静かに入れないのか」

「え〜、皆さん初対面ですよ〜?第一印象は大事です!」

ぱちん、と指が鳴る。

空中に光の板。

名前と順位が並ぶ。

98位。

視界がわずかに滲む。

「私の加護は“解析”! 能力を数値化できまーす! しかも空間表示つき!」

「私情ゼロ! 忖度ゼロ!」

にこっと笑う。

「数字は、優しい顔しませんよ〜?」

メアリーはさらに続ける。

「1位の方〜! おめでとうございまーす! 豪華な食事に学寮最上階!ん〜たまりませんなぁ〜♪」

くるりと回る。

「98位の方〜! 伸びしろしかありませんね! これ以上下がりようがないって素敵!」

セダンの喉がひくりと鳴る。

「ちなみにサスカ教官の神素値は——」

ぐい。

顔を掴まれる。

「余計なことは言わなくてよろしい」

「ふぁい」

笑いは起きない。

だが緊張は、少しだけ緩んだ。

「死なないでくださいねー? データ処理が面倒なので!」

「あと、数字は嘘をつきませんからね〜」

嵐のように去っていった。

教室に残ったのは、ざらつく沈黙だけだった。

サスカが鼻で笑った。

「……嫌な役だな、あいつも」

「さて」

サスカの指先に青い光が灯る。

神素。

「体内を巡る神の素だ」

数秒で霧散。

【加護=神素循環】

「体外に出せるが、定着しない」

再び光が消える。

「だが、その上がある」

【神力=神素の定着】

静寂が教室を覆う。

「体外でも霧散しない。形を持つ」

「加護は砕ける。神力は残る」

「昇華条件は様々だ。だが共通点がある」

サスカは、すぐには続けなかった。

ほんの一瞬、教室を見渡す。

「限界を超えることだ」

誰も息をしない。

「死ぬ一歩手前。絶望。覚悟。積み重ね」

「それを越えた瞬間、神素は変質する」

言葉が沈む。

「このクラスにも何人かいる」

サスカが教壇に手をつく。

「マナ。前に出ろ」

「お前の神力を見せてくれ」

一拍。

「分かりました。キリマロ、来て」

——召喚。

床に光が走る。

円が描かれ、空気が歪む。

次の瞬間。

召喚陣から、キリマロが現れた。

重い。

床が軋む。

空気が沈む。

影が、はっきりと落ちる。

揺らがない。

透けない。

ぼやけない。

——存在している。

「マナ、昔の召喚はどんな感じだった?」

「……衝撃で消えていました。維持も数秒が限界でした」

「それが神力だ」

再び、沈黙が落ちた。

セダンは拳を握る。

神素は巡る。

だが、定着しない。

「この一年で必ず昇華してもらう」

「焦るな」

「量が多くても腐るやつは腐る」

「少なくても越えるやつはいる」

その言葉が、胸に刺さる。

ざわめきが広がる。

格上の敵。

競争相手。

神力という、超えなければならない壁。

「よ〜し、1時間後、入学式したホールに集合な。神素の訓練をしようと思う」

「遅れんなよ〜、じゃあ解散〜」

サスカが手をひらひらさせながら教室を出ていく。

扉が閉まる。

次の瞬間、空気が弾けた。

「お前何位?」

「試験の時、神素いくつだ?」

「さっきの召喚、やばくなかったか?」

視線が飛び交う。

笑い声の奥に、焦りが混ざる。

もう、探り合いが始まっている。

セダンは席に立ったまま、拳を握った。

一時間。

長いようで、短い。

その間に、何かを掴めなければ――

置いていかれる。

胸の奥の熱が、わずかに強くなる。

その熱は、数字では測れない。


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