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守衛士戦線―守衛士となり家族と国を守る少年―  作者: 銀河猿


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第3話 入学編Ⅲ

入学式当日。

守衛士学院の正門前は、朝から異様な熱気に包まれていた。

新入生たちが身に纏うのは、守衛士学院の制服。

一見すると一般的な学園のブレザーに近いが、その色合いや細部に、普通の学生服とは違う緊張感が宿っていた。

上着は深い暗緑色。光を受けても派手に反射せず、落ち着いた艶だけを残す。ブレザーは腰にかけて緩やかに絞られ、学生服としての整ったシルエットを保っている。しかし襟元はわずかに高く、肩には装飾を削ぎ落とした軍装の名残が見えた。胸元には銀灰色と緑色で統一された国章が縫い付けられている。中央には左右対称のオリーブの花が描かれ、葉は鋭さを抑えた楕円形、実は描かれていない。実りよりも、続くことを象徴するためだ。全体は盾の形に収められ、金や宝石の装飾は一切ない。誇示のための紋章ではなく、国境を守る覚悟を示す標識――守るための服。戦うことを前提とした、学生の正装。そして胸元には、学ぶ者ではなく、国に属する者である証がある。

その列に、セダンもいた。

「レイさん、少し離れてよ」

「嫌、セダンにはあたしが必要なんだからっ」

右からマナ、左からレイ。両腕をがっちりと固定され、逃げ場はない。しかし、セダンも兄のクリスも、特に気にしていなかった。こういうことは日常茶飯事だからだ。

入学式会場の前で、学園長がこの前と変わらないサングラスをつけて立っていた。

「おう、やはり勢揃いできたのう」

「また、その格好か……」

「はーーっはっはっは!」

リザルドは学園長の服装に呆れ顔だ。

「少し、ワシの部屋に来てくれんか?ヘルスも来てくれぃ」

笑顔を崩さず、少し声のトーンを落として言う。

「わかった。クリス、少しの間頼むぞ」

「ああ、わかったよ、父さん」

父はそう言うと、母ヘルスを連れて学園長について行った。

時間になり、会場への誘導が始まる。

レイは名残惜しそうにセダンにしがみついた。

「一緒に座れないの?」

「式典だから、いいから行け」

クリスの手が強く引っ張る。レイは最後まで抵抗し、地面に足を踏ん張るが、無理やり上の観覧席へ連れて行かれた。

セダンは、クリスに連れていかれるレイに手を振り返す。レイが何か言っていたが、内容は聞き取れなかった。

周囲の好奇な視線が背中を突き刺す。

(――周囲から見たら、僕たちの家族は少し変なのだろうか)

そんなことを思いながら、セダンはマナと共に会場内へ入った。

会場内には整然と椅子が並んでいた。横十席、縦十列。前列から成績上位者、そして最後列が91位〜100位――容赦のない配置だった。

「……順位がバレるみたいだね」

「うん。気にしないで行こう」

マナと別れ、セダンが席に向かおうとすると、背後から足音が近づく。

「おー、ここにいたか」

ロウリーだった。数人の取り巻きを引き連れ、ニヤリとした顔で近づいてくる。

「おや、君たちの座る場所はどこかな?」

まず声をかけたのはマナだった。

マナはセダンの声かけを無視して、前方の8位の席にすっと腰を下ろす。

取り巻きは一瞬肩をすくめ、マナに近づきにくそうに距離を取った。笑い声はなく、押し黙ったまま。周囲の囁きや指差しの波だけが、静かにセダンに向かって押し寄せる。

――視線が痛い。

セダンは深く息をつき、最後列の自分の席――中央、98位に向かって重い足を運んだ。プレートを確認し、腰を下ろす。

その瞬間、空気が一変した。

「98位だってよ!」

「笑かしてくれるなあ!」

「片方は8位なのに、もう片方は98位!?」

取り巻きも、マナの前では押さえていた嘲笑をためらわずに放つ。指差し、囁き、視線がセダンに集中する。体が硬直し、呼吸が止まりそうになった。

セダンは肩をすくめ、手のひらの汗を握りしめたまま、視線を床に落とすしかなかった。98位という順位が悔しいわけではない。自分が実力を発揮できなかったから、そう納得している。しかし、今は視線のほとんどが自分に向けられている――その圧に耐えられないのだ。

やがて、会場が少し落ち着き、観覧席や来賓席も埋まり始めた。最後に、ロウリーが見せつけるように20位の席に腰を下ろした。

ずっと下を向いていると、右隣の席から声がかかる。

「ねえ、君、本当に98位?」

オレンジ色のツイン三つ編みの少女がこちらを凝視していた。

「……そうだけど」

「ほんとなの?成績、聞いてもいいかな?」

「第一試験が1点で、第二試験が25点、筆記は20点だった」

少女は何かに納得したように頷き、メモ帳に何かを書き留めた。

「なるほどね〜。うんうん、ありがとう」

何を書いてるの?」

「これは情報を記録しているんです」

「情報?何の?」

「おい、お前やめとけっ」

さらに右隣――背の高い男子が口を挟む。

少女はちらりと睨む。

「ベッカム、余計なこと言わないで」

「いや、メアリー殿、初対面ですぞ」

「聞かれたら、答えるのが世の常なのよ!」

「またこれですか……すいませんな、セダン・ロード君」

妙に息の合った二人のやり取りを見て、セダンは少し眉を寄せた。

「……家族?」

「幼馴染」「腐れ縁」

同時に異なる言い方で名乗る二人に、セダンは少し、マナやレイ姉とのやり取りを思い出す。

その後、会場が暗くなり開式の合図が鳴る。

「それでは、第30期入学式を開式いたします」

少女は残念そうに前に向き直り、男子もそれに合わせて前を向く。

セダンも、仕方なく視線を前へやった。

その後、式は静かに続き、会場内の空気が少し張り詰めたまま、エアロス国王の登壇を迎えた。

ゆっくりと立ち上がる国王。年齢より若々しく、青緑の渦巻き天然パーマの長髪を持ち、優しい目つきで会場を見渡す。

その立ち姿には威厳がありながら、温かみも感じられ、自然と視線を集めた。

「第4代エアロス国王、フウライ・ジン・エアロスである」

低く落ち着いた声が会場に響く。

「本日は、我が国の王子が世話になる学園の入学式に立ち会えることを、光栄に思う」

視線は王子リュウノに向けられる。その奥にある隠しきれない熱を、セダンは感じた。

「この学園は実力主義と聞く。ならば、王の子であろうと、特別扱いは不要だ」

王族席の空気がわずかに張り詰める。微かにざわつく声を飲み込むように、国王はさらに続けた。

「結果のみで評価される場に、我が子を預けられることを、私は誇りに思う」

深く一礼し、静かな威厳を残して王席に座った。

その後、学園長が壇上に上がった。

いつもの軽い口調で会場を和ませるように話し始める。

「いやあ〜若人諸君、入学おめでとう!今期も将来を期待できそうな人材が来てくれて、わしは嬉しいわい。ほんと、今回は粒揃いじゃな〜」

会場にわずかに柔らかい空気が流れる。しかし次の瞬間、学園長の表情がぴたりと変わった。目が鋭く開かれ、全員を見渡す。

「今、君たちは成績順に座っておる。歓喜した者も、落胆した者もいるじゃろう。入学したばかりで、自分の順位をさらされることに戸惑う者もいるはずじゃ」

そして、声がさらに強まる。

「しかし!」

会場に響き渡るその声に、周囲の空気は緊張に引き締まった。

「これは君たちを奮い立たせるためのものだ。この学園は実力主義。順位に応じて、この学園での扱いも変わる」

一拍置き、ゆっくりと学園長は語る。

「だが――今の順位は、決して永遠ではない」

「落胆している者よ、諦めるな。君たちの限界は、そこではない」

「そして歓喜している者よ、奢るな。奢れる者は、必ず破滅する」

言い切ると、肩の力を抜き、いつもの柔らかな笑顔に戻った。

「こんなところじゃな〜。んじゃ、頑張っておくれ〜」

壇上を降りる学園長の後ろ姿を、セダンは無意識に目で追った。空気は少しずつ落ち着きを取り戻し、視線の圧が少し和らいでいくのを感じた。

次に、主席挨拶。

リュウノ・エアロス――エアロス王国第三王子。青よりの緑の髪は天然の渦を描くように巻き、肩まで届く長さ。鋭い緑の瞳が会場を見渡し、細身だが筋肉質の体つきからは、王子としての威厳と若々しい力強さが滲む。

ゆっくりと一礼する。

「エアロス王国第三王子、リュウノ・エアロスだ」

「父王の名において、本学園への入学を許可されたことを光栄に思う」

観覧席に置かれた王族席に一瞬視線を向けるが、それ以上は何もない。

そして、低く硬質な声が会場に響く。

「俺は、誰も信用しない」

小さなざわめきが席の間を走る。

「信用できるのは、己自身のみだ」

「地位も、血筋も、俺には関係ない」

最後に一礼。王子の威厳は、静かで揺るぎないものだった。

「以上」

王席側から拍手が起こり、それに呼応して会場全体に拍手が広がる。セダンの胸にも、緊張とともに少しの期待感が流れ込んだ。

「いやぁ、さっきはうちのアホがすいませんな」

「このバカが止めなければ、もっと面白い話ができたのにな〜」

二人は言い合いながらも、互いに軽く睨み合う。セダンは少しぼんやりしながらも、そのやり取りを眺めた。

「本当に仲がいいね……」

「どこが?」

二人は同時に言い、声がハモった。

「ほら」

「……」

「それで?」

とセダンが促すと、少女が微笑んで続ける。

「さっきは自己紹介できなかったな〜って思って」

「うちはメアリー・ショージ。今度あったらまたよろしくね」

手を差し出され、セダンも握手を返す。

「拙者はベッカム・ミミラーンでござる。君とはまた会う機会がありそうですな」

二人は軽く会釈し、会場の人混みに消えていった。

その後、マナが至近距離に立ち、少し不機嫌そうに話しかけてきた。

「さっきの子は何?」

「横に座ってた人たち」

「ふーん、さっき手、握ってなかった?」

「握手ってやつだと思う」

「そうなんだ〜、ふ〜ん」

そう言うと、マナは握手した方の手を強く握ってきた。

「じゃあ帰ろう」

「……?うん」

「もう女の子と仲良くなって……ブツブツ」

「マナちゃん?なんか言った?」

「何もっ!」

セダンには、マナが怒る理由は最後まで分からなかった。

その後、家族と合流し、不機嫌なレイにもう片方の手を強く握られるのはまた別のお話である。


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