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守衛士戦線―守衛士となり家族と国を守る少年―  作者: 銀河猿


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第2.5話 入学判定試験

入学判定試験前日。

学園本館の最上階にある会議室には、長い楕円形の卓が据えられていた。

重厚な木製の扉が閉まると同時に、室内の空気が切り替わる。

集まっているのは16名。学園長を含め、全員が、守衛士養成学園の教官であり、

今期入学判定試験の試験官を務める者たちだった。

ざわつきはあるが、緊張はない。

むしろ――どこか祭り前のような、高揚が漂っている。

「いやぁー、とうとう明日じゃのう」

卓の上座に座る男が、豪快に笑った。

学園長。サングラス越しの目は見えないが、その声だけで場が和む。

「今期はどんな若人たちが入ってくるか、楽しみで仕方ないわい!」

「はーい! 私もです、学園長っ!」

即座に元気な声が返る。

水色の長い髪を揺らしながら手を挙げたのは、ジニー・リュウトウだった。

22歳。教官職。

1級精鋭守衛士にして、今期試験官。

「……お前は、自分好みの男を探したいだけやろ?」

隣の席から、関西弁が飛ぶ。

黒髪のアフロに顎髭を蓄えた男――ナンヤデナン・マッカが、呆れたように肩をすくめた。

「ちょっとぉ〜! 失礼じゃないですかぁ。試験はちゃんと真面目にしますよ〜?」

「この子、試験官にしない方がいいですよ」

間髪入れず、冷静な声が入る。

紫の長いポニーテイルに眼鏡をかけた女性――アリア・オーストラだった。

「ちょっとアリア先輩! それどういう意味ですかぁ!」

「言葉通りよ。公平性の観点から」

「ぐぬぬ……」

「はっはっはっは!」

学園長が大きく笑う。

「問題ないじゃろう。ジニーの“目”は信用しておる」

「ありがとうございますぅ!」

「……確かにな」

「ハァ……」

同意とため息が、あちこちから漏れる。

このやり取りは、もはや様式美だった。

やがて雑談が一段落すると、学園長は軽く咳払いをした。

「さて。どうじゃ?

資料はもう目を通しておると思うが……気になる受験者はおったか?」

その一言で、空気が変わる。

遊びの時間は終わりだ。

「やはり……エアロス国王のご子息でしょうか……」

誰かがそう言うと、周囲の教官たちが静かに頷いた。

「ああ、最高傑作らしいな」

「兄弟の中でも、特に濃い加護を受け継いでいる」

「いや……神力の域に届いている可能性もあるそうだ」

「確かに……」

王族。

それだけで、注目しない理由がない。

その話題が続こうとした時――

会議室の一角から、控えめな声が上がった。

「……私は、この子に興味がありますね」

全員の視線が、そちらに集まる。

発言したのは、アリアだった。

「へぇ? どの子?」

ジニーが、身を乗り出す。

「この白髪の子です。名前は――セダン・ロード」

一瞬。

空気が、わずかに揺れた。

「ほぅ。その子に目をつけたか」

「……ロード?」

学園長が、資料に目を落とす。

「ああ。リザルド・ロードの息子じゃ」

どよめきが走った。

「あの……英雄の……?」

「冗談やろ……」

「えっ、なにそれ! すごいじゃ〜ん!」

ジニーが声を弾ませる。

「しかもこの子、顔いいじゃない! 可愛い! 完全に私好み!」

「ジニー、近いわ」

「え〜見せて見せて〜!」

「……少し、離れてくれないかしら?」

アリアはため息をつきながらも、資料を守るように手で押さえた。

「ちなみにもう一人」

学園長が続ける。

「同じくロード家の子。マナ・ロードも、明日試験を受ける」

「それは……」

「面白い組み合わせですね……」

「これは本当に楽しみやなぁ」

ナンヤが、にやりと笑う。

その時だった。

「学園長」

アリアが、まっすぐに言う。

「このセダン・ロードが受けるグループの試験官を、私に任せていただけませんか?」

一瞬、沈黙。

「ん? ああ、構わんよ」

「えええええ!? ずるいですよ先輩!」

ジニーが声を上げる。

「私にもやらせてください!」

「それならワイも!」

「俺にも」

「私も」

一斉に声が重なり、空気がひりつく。

「おお……そんなに見たいんか」

学園長は、困ったように頭をかいた。

「悪いが、全員は無理じゃな」

少し間を置き、続ける。

「アリア。お主はもう決めた。他の者は――そうじゃな」

視線が卓を一巡する。

「ジャンケンでもなんでもいい。公平に決めるがよい」

さらに空気が張りつめた。

「ジャン・ケン・ポン!」

拳が一斉に上がり、勝者と敗者が分かれる。

一部が歓声を上げ、他は肩を落とした。

学園長は満足そうに頷いた。

「では決まりじゃ。各自、担当グループを確認しておくように。明日は長い一日になるぞ」

椅子が軋み、資料が閉じられる音が重なる。

会議は終わった。

入学判定試験当日。

朝の澄んだ空気の中、学園第一試験場には、規則正しく並んだ受験生たちの列が伸びていた。

中央には、淡く光を放つ巨大な水晶柱。

守衛士としての資質――神素量を測定するための装置だ。

アリア・オーストラは、その水晶の傍に立ち、記録用の端末に視線を落としていた。

第一試験、神素量測定。

最も単純で、最も残酷な試験。

今期受験生の平均値は、およそ350。

例年と比べれば、やや高い。

粒ぞろい、と言っていい。

(今年は当たり年かもしれないわね)

淡々と数値を書き留めながら、アリアは列の先頭を見た。

その時だった。

ざわ、と空気が揺れる。

受験生たちの視線が、一点に集まっていた。

現れたのは、堂々とした佇まいの少年。

緑色の髪。

隠しようもない気品。

――エアロス国王の子息。

「次の方、水晶に触れてください」

アリアの声に、少年は無言で頷き、手を伸ばした。

水晶が強く輝く。

浮かび上がった数値は、880。

「……880」

抑えた声でも、その異常値は隠しきれない。

(これが……エアロス国王の最高傑作……)

今期受験生の中でも、群を抜いている。

周囲から、どよめきが起きた。

称賛、羨望、畏怖。

視線が少年に集中する。

だが、彼はそれを当然のように受け流し、静かに次の試験場へと向かっていった。

その後も測定は続く。

カナッツ家の次男。

優秀だが、先ほどの数値には及ばない。

アリアが記録を終えた、その時。

列の中から、一人の少年が前に出た。

白髪。

落ち着いた表情。

(……この子が、リザルド・ロードの次男)

写真で見た印象とは、少し違う。

派手な威圧感も、王族のような気配もない。

だが、妙な静けさがあった。

まるで、周囲の空気だけが一段低くなったような――そんな感覚。

「次の方、水晶に触れてください」

セダン・ロードは、無言で水晶に手を置いた。

次の瞬間。

水晶が、異様な輝きを放つ。

表示された数値。

999。

アリアの目が、わずかに見開かれた。

(……っ!?)

だが、その数字は一瞬で掻き消え――

次に浮かび上がったのは、

10。

「……10、ですか」

思わず、声が漏れた。

見間違いであってほしい。

「もう一度、触れてみてください」

冷静を装いながらも、内心では焦りが走る。

自分の目が間違っていなければ、確かに今、999と表示された。

セダンは言われた通り、再び水晶に触れた。

だが今度は――

10。

変化はない。

(……低すぎる。こんなことが、ある?)

周囲が、ざわつき始める。

囁き声。

失望。

嘲笑。

困惑。

そのすべてが、少年に向けられていた。

「私語を慎んでください」

アリアは、声を強めた。

「測定は終了です。次の試験場へ向かってください」

これ以上の混乱を防ぐための判断だった。

受験生たちは、なおも視線を残しながら、その場を離れていく。

やがて、試験場に残ったのはアリア一人。

静寂が戻る。

アリアは、水晶を見つめた。

今まで、数え切れないほどの測定をしてきた。

だが、あのような現象は一度もない。

この水晶は、定期的に整備されている以上、誤作動は考えにくい。

(となると……原因は、彼自身)

セダン・ロードの神素量。

そこに、何か秘密がある。

可能性は二つ。

神素を制御できていない。

あるいは――意図的に数値を下げている。

だが、この学園は実力主義。

わざわざ弱く見せる意味はない。

それでも、あの一瞬の999。

見間違いだとは、どうしても思えなかった。

小さな違和感を胸に残したまま、アリアは資料を閉じる。

「……続きは、次の試験で、ね」

そう呟き、彼女は次の試験場へと歩き出した。

第二試験会場。

アリアが到着すると、すでに昨日ジャンケンで勝利した三人の試験官が揃っていた。

アリアがその横に並ぶと、ソン試験官が一歩前に出る。

「では、第二試験の説明を行う」

簡潔な説明だった。

円形広間の中央に設置された自動戦闘人形と五分間戦闘し、その間の行動を評価する。

人形は最初は一体のみ起動し、一定時間ごとに増加する段階制。

評価項目は、判断力・制圧力・制御力・表現力。

説明が終わると、四人は会場を見下ろす少し高い位置に設置された席へ移動した。

ジニーが、アリアの顔を覗き込む。

「遅かったですね〜先輩。何してたんですか〜」

「少し、気になることがあって……また後で話すわ」

「ふーん?」

ソンが短く告げる。

「では、始め」

試験は淡々と進んでいった。

受験生たちは、それぞれの戦い方で人形に挑む。

多少の怪我はあるが、大きな事故はない。

そして、会場の空気が変わった。

「きたよ、きたよ〜。国王の息子〜。でもやっぱり好みじゃなーい」

「はいはい。それで、数値はどうや?」

「880。最高傑作よ」

さすがに全員が息を呑んだ。

普段ほとんど表情を変えないソンでさえ、わずかに目を細める。

「加護の域を超えているな」

「神力に達しててもおかしないで」

「ありえますね」

高台から見下ろす円形広間では、自動戦闘人形が起動する暇もなく破壊されていった。

床には残骸が散らばり、壁には衝撃の痕が深く刻まれている。

「……王族の結果は、想定通りだな」

ソンが静かに言う。

「出力、範囲、制御。どれも規格外です」

「神力に昇華しとったな......」

記録官が淡々と記す。

五分間、王子は一歩も動かず、ただ圧倒的な力で制圧し続けた。

「次、55番」

ロウリー・カナッツが前に出る。

「力押し型ですね」

「粗いが、悪くない。若者らしい」

剣を振るい、正面から人形に突っ込んでいく。

被弾は多い。回避も洗練されていない。

それでも、倒れない。

「……気力と耐久は十分だ」

「評価は高めでいいでしょう」

「ああ、あの戦い方、ワイは嫌いちゃうで」

「全然好みじゃなーい」

終了の合図とともに、ロウリーは大きく息を吐いた。

傷だらけだが、その顔には満足げな色が浮かんでいた。

そして――

「次、80番」

その番号が告げられた瞬間、高台の空気がわずかに張り詰める。

「……あれが例の?」

「はい。セダン・ロードです」

「やーん、やっぱり私の好み〜。専属教官やりたーい」

「それは無理やろ……」

「……第一試験の結果は?」

アリアは少し間を置いて答えた。

「10です」

「は?」「嘘でしょう」「……」

白髪の少年が、静かに中央へ進む。

武器はない。構えもしない。

「……始め!」

起動音。

最初の一体だけが、ゆっくりと動き出す。

「さて、どんな戦法を見せてくれるのか……」

「加護なしだと、さすがにきついかもね〜」

セダンは攻撃しない。

人形の攻撃を、最小限の動きでかわし続ける。

「攻撃しないね」

「これじゃ点が付けにくいで」

一定時間が経過し、二体目が起動する。

さらに時間が経ち、三体目、四体目と増えていく。

「避けるだけ……」

「攻撃、全くせぇへんな……」

アリアとナンヤが眉をひそめた。

その時、ジニーが言った。

「違います。よく見てください。彼、ほとんど初期位置から動いてません。それに――被弾ゼロです」

「……確かに」

ソンが低く続ける。

「距離管理が異常だ」

「半歩……いや、重心移動だけで避けている」

「踏み込みなし」

「迎撃なし」

人形は五体。

完全な包囲。

「……普通なら、ここで一発はもらう」

だが、当たらない。

風切り音だけが空間に残る。

「……残り10秒」

「来るな」

ソンが呟いた。

セダンの動きが止まる。

一歩、踏み込む。

拳が振るわれた。

衝撃音。

最初に起動した一体目の人形の頭部が、粉砕された。

「……は?」

試験終了の合図。

「……終了」

少し遅れて、アリアが告げる。

「次の試験会場に向かってください」

全員が去った後。

「……評価は?」

「難しい」

ソンは即答した。

「戦闘力は測れない。加護も測れない。だが――」

「“無傷”です」

「せや。あの最後の一撃も含めてや」

結論はすぐに出た。

制度上、これ以上の点は付けられない。

突出している。

だが、それを示す“数字”が存在しない。

「結果は、低評価にせざるを得ない」

誰も反論しなかった。

ただ、その場に残った違和感だけが、静かに燻っていた。

入学判定試験の翌日。

学園屋上に設けられた会議室には、今期の試験を担当した15名の教官と、学園長が集まっていた。

窓の外には澄んだ空が広がっているが、室内の空気は引き締まっている。

すでに雑談は終わり、会議は最終確認の段階に入っていた。

「……ということで、今期の受験生の成績は以上となります」

アリアが資料を閉じ、簡潔に締めくくる。

「エアロス王子は、やはり1位か」

「驚異的な神素量に、第二試験の戦闘内容を見せられたらね」

「私も見てみたかったのですが……あそこでチョキを出していれば……」

赤紫の髪を揺らしながら、ルカが小さく呟く。

「今さら後悔しても遅いよ〜、ルカっち」

「でも、三組の担任にはしてもらいました〜」

ルカが少し得意げに胸を張る。

「いいな〜。可愛い子いたら紹介してね〜」

「……懲りないですね、ジニーさん」

淡々とした声が飛んだ。

チュリナ・ナタリーグだった。

長身を椅子に預け、腕を組んだまま、表情は変えない。

「ふふん。女の子は恋してなんぼですよ。チュリナ先輩」

「ジニー。話が逸れてる。今は会議」

一言。

それだけで、ジニーは肩をすくめた。

「あっちゃー、チュリナ先輩に怒られちゃった〜」

「怒ってない。ただ指摘してるだけよ」

「はーい、気をつけまーす」

場に小さな笑いが起きるが、すぐに静まる。

「それで、各クラスの担当教官は?」

「一組はサスカ・インビジブル。二組はテトリクス・ルー。三組はルカ・ラルカス。四組はナンヤデナン・マッカ。主任教官はソン・パクです」

「一組はサスカか」

「王子に、英雄の子が揃っている。あいつが一番適任じゃな」

「ええ。あの人なら、大きな問題は起こさないでしょう」

チュリナが静かに頷く。

「でも……」

そこで、ジニーが手を挙げた。

「セダン君は、本当に98位でいいんですか? もっと上でも……」

一瞬、空気が止まる。

「これもルールです」

チュリナが即座に答えた。

「評価項目に沿えば、あの順位になる。例外は作れないから」

「……ですよね」

「てか、もう“君”呼びしてるんか?」

「全く、この子は……」

会議はそこで一区切りとなった。

会議終了後。

アリアは一人、学園長室を訪れていた。

「学園長。急に訪ねてしまい、申し訳ございません」

「いやいや、構わんよ。それで?」

アリアは一瞬だけ言葉を選び、そして覚悟を決めた。

「耳に挟んでほしいことがあります。セダン・ロード君についてです」

「数値の件か?」

学園長の視線が、真っ直ぐに向けられる。

「……はい」

「10は、ありえないと?」

「はい。私の見間違いでなければ、一瞬だけ……999と表示されました」

学園長は目を細めた。

「ほう。それは、実に興味深いのぅ」

「結果は制度通りですが……私は、どうしても引っかかっていて」

沈黙。

そして、学園長はゆっくりと立ち上がった。

「あやつの結果表、ワシが直接持っていこう」

「学園長自ら、ですか?」

「うむ。報告を聞いて、余計に興味が湧いたわい」

結果表は静かに封をされ、「全く、制度の変更が必要じゃな……」という学園長の呟きだけが、室内に残った。


この話は第2話 入学編Ⅱの別視点、裏話、幕間のシーンとなっております。

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