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守衛士戦線―守衛士となり家族と国を守る少年―  作者: 銀河猿


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第9.5話 温もりと野心

学園での訓練を終え、屋敷へ戻る頃には、空はすっかり夕焼けに染まっていた。

身体は疲れているはずなのに、心の奥はどこか温かい。

玄関の扉を開けた瞬間――

「セダンおかえりぃぃ!!はい、おかえりのチュウしよう!」

勢いよく飛びついてきたのはレイだった。

両腕を広げ、そのまま顔を近づけてくる。

「ちょ、ちょっとダメですレイ姉さん!」

間に割って入ったのはマナ。

ぴたりとレイの肩を掴み、ぬっと立ちはだかる。

「今帰ってきたばかりよ?汗もかいてるし……」

「そんなの関係ないもん!」

騒がしい二人を、リビングから見ていた父――リザルドは穏やかに微笑んだ。

「おかえり、セダン」

母ヘルスも柔らかく微笑んだ。

「今日もお疲れさま」

その一言だけで、胸の奥がじんわりと温かくなる。

「ただいま……」

自然と頬が緩んだ。

夜になり、兄クリスも帰宅すると、食卓はいつもの賑やかさに包まれた。

長いテーブルの中央には温かな料理が並び、湯気と香りが漂う。

そして――席順は決まっている。

セダンの右にレイ。

左にマナ。

絶対にそこは譲られない。

以前、一度だけセダンが「今日は父さんの横で食べたい」と言ったことがある。

その時のマナは頬を膨らませ、レイは本気で泣いた。

それ以来、席替えは行われていない。

今日も当然のように挟まれたまま、食事が始まった。

しばらくして、マナが胸を張るように口を開く。

「そういえば、今日セダンが今週末にあるクラス対抗の大会に私と一緒に出ることに決まったの!」

一瞬の静寂のあと、家族の顔が一斉に明るくなる。

「やるな……さすが俺の息子だ」

リザルドが誇らしげに言う。

「まあおめでとう。ママも嬉しいわ」

ヘルスも目を細めた。

「すげーじゃん!セダン!やっぱ俺の弟だな!」

「違うでしょ?私の弟よ!お姉ちゃんも嬉しいわ!セダン!」

レイまで乗っかる。

一斉に向けられた祝福の言葉に、セダンの視界が滲んだ。

「ふえ、あ、ありがとう。僕、絶対いい結果残すからね!」

思わず涙が零れる。

「私もセダンと一緒に頑張る」

マナが静かに続けた。

温かい空気がテーブルを包み込む。

――だが。

マナがスプーンを置き、少しだけ視線を逸らした。

「最近セダンの周りに友達が増えたの……」

「いいことじゃないか」

リザルドが穏やかに返す。

「それがね、同じクラスの男子、一緒に訓練してたの。セダンも楽しそうだった」

「そうなのか?セダン」

「うん、人形との戦い方を教えてくれたんだ」

「それはね、いいんだけど……」

「どうかした?」

マナが小さく息を吸う。

「周りに女性が増えてきたの……」

「えええええええ!?」

レイが立ち上がる。

「その話か……」

リザルドとクリスは揃って呆れた顔をした。

「最初はみんなセダンのことを下に見ていたのに……」

マナは続ける。

「セダンが少しかっこいいところを見せると、寄ってきて、質問攻めしたり、今日なんて補佐教官の人に結婚しようなんて言われてたんだよ!」

カシャン、と音が鳴る。

レイのフォークが床に落ちた。

「セダン!どういうこと!?誰に?誰に言われたの?ちゃんと断ったよね?ね?」

肩を揺さぶられ、セダンは目を回しながら答える。

「断ったっていうかマナちゃんが断ったっていうか」

「マナよくやったわ!」

「うん!」

なぜか握手を交わす二人。

クリスが苦笑する。

「で?誰に言われたんだ?」

「え〜っと……ジニーさんていう人」

「ああ〜その人か〜」

「クリス兄さん、知ってるの?」

「ああ、その人はな、自分が学園生の時にいい恋愛ができなかったらしくてな、今は年下に絞っているってのを聞いたことがあるな」

「ぐぅぅぅ!ショタコンめぇ!」

「お前がいうなブラコン」

「ねぇねぇクリス兄、聞きたいことがあるんだけど?」

「ん?よし!お兄ちゃんに任せとけ」

胸を張るクリス。

「あんたもブラコンね……」

「お前ほどじゃねえよ」

セダンが真剣な顔で尋ねる。

「結婚って何?オムコサンってのもわからない。どういう意味なの?」

「えっ?」

マナ以外の全員が首を傾げた。

「マナ……あなた……」

マナはぷいっとそっぽを向く。

「セダンにはまだ早いもん」

「ええ……」

結局、その意味を教えてもらうことはなかった。

食卓には再び笑い声が広がる。

そんな騒がしいやり取りを、ヘルスは最初から最後まで、ただ静かに、優しい笑顔で見守っていた。

温かな灯りの下、穏やかな夜がゆっくりと更けていく。

同じ頃。

ロウリーの屋敷では、重苦しい空気が漂っていた。

使用人に乱暴な言葉を浴びせ、母の声にも耳を貸さず、彼は自室へ閉じこもる。

(俺があいつより下なわけがない)

拳を握り締める。

(俺こそがこの国のトップとなるべき男だ)

窓の外には王都の灯りが揺れている。

(今度こそ公衆の面前であいつに恥をかかせてやる)

唇がゆっくりと歪む。

「ああ……明日がとても楽しみだ……」

薄闇の中で、不敵な笑みだけが浮かんでいた。

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