私、貴方の婚約者だったわね…
私、アーリア公爵家が長女マリアベル・アーリアと申します。
ただいま、いつもお父様からルビーより綺麗だよと褒めて頂いているその瞳は細く冷めた目となっています。
…というのも婚約者であるこの国の第一王子が絶賛浮気中だからです。
「それにしてもお盛んねぇ…」
「お母様、こちら追加証拠です。」
「あらぁ〜…いつもながら多いのねぇ…」
次から次へと集まる証拠は一週間毎に私から両親、それから国王陛下、王妃様が確認する流れです。
隣国だと一夫多妻制が取り入れられていますが我がルートルーツ王国では一夫一妻制であり、浮気は厳禁。
ちなみに同性婚は認められているけどほぼいない。
また、婚約期間中も浮気をしないのが基本なので毎週報告時に国王陛下と王妃様の項垂れる様子が見れて内心申し訳なく思いつつもちょっと面白いです。
……というのも私は彼に恋したことがなければ結婚したいと思ったこともないし、本来の婚約者は私じゃなくて友人である別の公爵令嬢だから変なプライドも起きないからなのですが。
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時を遡ること7年前、お母様のお茶会で保護者と一緒にやって来た彼女達と仲良くなった私達は揃いも揃ってルートルーツ王国の第一王子エンクロス・ルートルーツの婚約者候補として名が上がったのである。
当時の私達は恋に恋するお年頃。
第一王子に会えることになってキャッキャしてたんだけど、当日は散々な顔合わせだったわ…
私の友人達に向かって「こんなのがこんやくしゃこうほ??ぶすはいやだからこいつはいやだ!」「すげぇじみだな…」「わらうこともできないのか?おもしろみのないやつ!!」と罵詈雑言。
公爵令嬢の私ともう一人の公爵令嬢には何も暴言を吐かなかったことがさらに私はイラっと来た。
馬鹿にされたいわけじゃないし、もう一人の友人を傷つけないわけじゃない。
ただ公爵家より下は自由に罵倒して良いと思っていることに頭の筋がブチっと切れた音がした。
それが前世を思い出すきっかけでこのクソ王子の婚約者になろうと決めた理由である。
わぁわぁ泣いているお友達の皆はまだ10歳。
蝶よ花よと育てられている高位貴族令嬢達がこれ以上酷いことを言われる前に私は先手を打ったのだ。
「初めまして。私はアーリア公爵家が長女、マリアベル・アーリアと申します。良ければ私と一緒に中庭を散歩しませんか?」
前世で培った作り笑いを浮かべ、今世で学んだカーテシーを披露すれば見惚れたクソ王子がニヨニヨと私に手を差し伸べてくる。
正直言えばその手を捻り潰したい。
ただ、今のこのフニフニな手ではそんな握力はないし、今捕まるわけにもいかない私は内心舌打ちしつつ、にこやかにクソ王子と手を繋ぐ。
流石はイラストだけは良いと言われているクソゲー。
ドヤ顔は腹立つが王子の顔だけは良い。
顔だけは良いんだけど…私は王子より悪役令嬢が大好きだったから憎い相手であっていくら顔が良くてもときめかない。
それでも私の周りの令嬢は違う。
私達の様子にさっきのことを忘れたのかケロッと泣き止んでちょっとウットリする令嬢達が目に入ったからね。
まあそんな彼女達に呆れつつ、令嬢達の赤らんだ目元を冷やすようもう一人の公爵令嬢、つまり推し…ゲーム内では悪役令嬢だった彼女に視線で伝えた。
この時近くにいたメイドも護衛も本当に役に立たなかったから公爵令嬢に頼んだんだけど、視線に直ぐ気付いて対応してくれて嬉しかったよね。
まあ、えー…まじかぁ〜…って嫌そうな顔していたから同じ気持ちだったんだと思うけど。
それでも私は彼女がこれから悪役令嬢に仕立て上げられないように婚約者の座は私が狙う。
彼女とはもっと仲良くなれたら良いなと機嫌良くあちこちを自慢する王子に愛想笑いを浮かべながら歩みを進めるのだった。
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「それにしてもリリアーナ様は本当に情報収集が得意なんですね。」
「これくらいお茶の子さいさいよ!それより、二人っきりなんだからいつも通りに接してよ!!」
「あはは…先程国王様達に王子の一週間の浮気証拠を提出しに王城に出向いてたからつい。」
「ようやく来週末あのヤリチン王子から解放されるのよ!もっと喜びなさいよ!」
「多額の慰謝料と王子有責の婚約破棄はほぼ確定だけど、まだ終わってないんだから気が抜けないじゃない。」
「来週、マリアンヌ・テロール男爵令嬢を連れて現れた王子が高らかに婚約破棄叩き付けた所で婚約破棄はその前にほぼ確定しているし、浮気の証拠は新聞社にも渡して来週流すようにしたし…あとは何が心配?」
「頑張ってリリアーナ様をあのクソ王子達に極力関わらせなかったとはいえ強制力とかあったら怖いじゃない。」
「心配性ねぇ。大丈夫よ。」
「……うん。」
リリアーナ様が私を子どもの頃のように抱きしめ宥める。
それは彼女が私と同じ前世の記憶を持っていることを知って、私が彼女に抱き付いて泣いた時みたいに。
私はゲームの推しがいかに悪役令嬢にならないか心配で絶対私が貴女を守るからね!って安心させる為に言ったのにポジティブな彼女はプロポーズだと受け取ってたっけ。
彼女から強く抱きしめられて逆に慰められてしまったし、あの時はどっちが守られる側か考える前に抱きしめられたのが温かくて腕の中で寝ちゃったのよね…
「貴女のゲームの推しみたいにならないわ!だって貴女がいるんだもの。その為に今まで頑張って来たのよ!だから貴女が婚約破棄されたら即結婚届出して新居に行くわよ!!」
王子の最初の浮気発覚からリリアーナ様は着々と外堀を埋め始め、国王陛下と王妃様、私と彼女の両親に頭を下げて『王子の浮気が卒業パーティーまで続いたら私が彼女を幸せな妻にします!』と断言し、山積みの浮気の証拠を机いっぱいに並べていたのが昨日のことのように思う。
当時は本当に推しとして好きで恋愛感情はなかったはずなんだけど胸がほかほか暖かくなって幸せな気分になったの。
「それでね、結婚式のドレスは再来週に観に行きましょう!ここだと和装がないのが残念だわ…きっと貴女の和装も素敵だと思うのに。」
「まあ…ないものは仕方ないんじゃない?」
「あとね、寝具はダブルにしたわ!ふわふわの綿をふんだんに使った寝具よ!一緒に寝るのが楽しみだわ!!」
「え、あ…うん。楽しみね。」
どんどん決まっていく婚約破棄後の予定に満更でもない私はもしかすると…恋愛感情もあるかもしれない。
だってただの友人とのシェアハウスって考えるには私の頬は林檎並みに熱ってるんですもの。
「リリアーナ様、まずは来週にある卒業パーティーでの婚約破棄から片付けましょう。」
「そうね。その方がマリアベルも安心して私との将来設計が出来ますよね?」
「うん…」
そっと小指を絡めて微笑んだリリアーナ様は何処から取り出したのか王子を廃嫡出来そうな量の資料を机の傍に置いて少し冷めた紅茶を一口飲んで微笑む。
その小指がたまに私の小指を撫でるように動くから私の身体はピクッと反応してしまう。
「マリアベル?」
「ん?」
「私と幸せになってくださいね?」
「……はい。」
ねぇ…貴女の甘い瞳に溶かされてしまいそうな私も王子の浮気のことをとやかく言えない気がするのだけど?
だって今ですら私は王子の婚約者って事実を忘れ、リリアーナ様から愛されるだけの存在になってしまうのだから。
『私、王子よりリリアーナ様を気をつけるべきだったかも。』
小さな呟きを心の中で呟いて私も冷めた紅茶を一口、喉を潤す為だけに嚥下した。
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良いお年をお迎えください(*´ω`*)
追記
短編なので表示されませんがエピソードタイトルは『私、貴女の婚約者になりたいわ…』だったりします。
ではまた来年もよろしくお願いします٩( 'ω' )و




