アイドル論
ガストに、ハゲかかった朽木のような男、板垣泰三と、太った子豚のような男、私が向かい合う。なお、私のイラストをここに載せておこう。
私は、唐揚げ和膳、板垣は、目玉焼き和膳(……違うかもしれない)を頼んだのだった。二人の座ったのは窓際の席であった。道路の向こうは住宅街になっている。そのすぐ先には大学になっていた。だから、学生客が多い。
「ありがとう」
「いえいえ……。ところで、板垣君に聞きたいのだが、あなたの人生でアイドルにハマった時期ってある?」
「うーん。西村知美にハマったことはあるよ。とろりん、とか言っていたね。彼女はギリ、アイドルでしょ」
「バラドルって分類かもしれないが、今や、アイドルも平気でバラエティーに出演するから、区別する必要もないか」
「彼女の上品っぽさと、天然ボケな感じに、キュンと来たんだよね」
「まさに、アイドルの効用ってやつだね」
「それって、なんなん」
「つまり、クソみたいな現実をアイドルが美しくボヤかしてくれて、『生きてても満更じゃねえかもな』と思わせる幻想のことでしょう」
「二つあるかもな。一つ目はそれで、二つ目は、現代的なものと、最新なもの、若いものに対する信仰だよね」
「日本は無信仰だとは言うけど、常にそういう新しいものには開かれている国だからなあ。まあ、こういうのは世界的な兆候だけどさ」
「若い人達はこういう新しい、とんがったものの方向に行きたがるんだよね。ま、大体、歳取ったらついてゆけなくなるんだけど。その時代にしかないものを求めに行くんだよ」
「そんなものなかなかないけどな。いや、逆に言えば『その時代にしかないものしかない』けどな。とにかく、色褪せた現実を普遍化させようとしているね」
「まあ、現実というものはそういうものなんだろうけど、だからこそ、奴らは反現実に憧れるわけなんだよ」
「幻想の世界。酒とバラの日々。いつの世にも、どこの世界にも、こういう反現実世界に引きこもって、目が極まっちゃっている人たちがいるものさ」
「それが彼らにとっての異世界ってことか」
「くだらねえ」
板垣は吐き捨てるように、サクランボのタネを白い皿の上に飛ばした。頭をクシャクシャ掻いて、フケを撒き散らしながら私は、この種を割ったら、梅干しみたいに果肉が出てくるのか、暫し考えた。




