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09.魔獣達の報告

「さっきまで、ここに魔物の気配はなかったはずだ。どこから現れた?」

 周囲を見回し、問題がないか確認するアルケス。安全だと思っていたのに、と疑問に思っているようだ。

 退治班の報告では「魔物はいない」ということだった。魔獣達も、この島からは魔物の気配を感じ取っていなかったはず。俺達も、その報告や魔獣達の判断を信じていたんだ。

 それが突然……だったから、彼らも驚いたに違いない。

「魔法道具に封じられていたものが、道具が壊れたことで現れたのよ」

 いくら魔獣でも、封じられている魔物の気配までは感じ取れないよな。封じられた魔物の力や、封じてある道具によってはわかる場合もあるだろうけど。

「そうか」

 納得したように小さくうなずいてから、アルケスはエストレに何やら耳打ちした。

 さっきは、エストレがアルケスに耳打ちしてたよな。こんな所で聞かれて困ることを言う、とは思えないんだけど。

 この家の外でロイオンとアルケスがずっと行動を共にしていたのかはわからないが、俺も一応ロイオンに確認してみた。

「何か見付けたのか?」

「うん。小舟」

 ロイオンの言葉を聞いてバンシュがびくっとするのが、俺の視界の端に映った。

☆☆☆

 バンシュが落としたイヤリングを見ると、赤い魔石が真っ二つに割れていた。そのためか、魔石特有の空気が消えている。

 ひびが入ってそこから煙が……と言おうか、魔物が出て来たが、たぶんその時に魔石は完全にいかれてしまったんだろう。

 エストレはそちらへ行くと、その割れたイヤリングを拾う。

 俺は魔法道具や素材を回収した後、今の騒ぎで床に放っておかれていた巾着を拾った。

 どの袋に何を入れたか、袋の表面に魔法で文字を入れる。今日の作業は、とりあえずこれで終了だ。

 バンシュが散らかしていたし、ほこりだらけの現場。でも、一つの部屋に全てがまとまっていたおかげで、思ったよりも早く集められ、分類ができた。そういう点では楽で、助かったよ。

 で、あとはさっさと帰るだけ……なんだけど。

 エストレの様子がおかしい。帰りましょう、という言葉がすぐに出て来るとは思えない雰囲気だ。

 そりゃ、たった今あんなことがあったからなぁ。

 破棄する物に分類される、壊れたイヤリング。

 それを手のひらに乗せ、エストレは青ざめたバンシュの前へ突き出した。どうしてこれを持っていたのか、の追求だ。

 バンシュは腰が抜けたのか、ずっとひざを抱えてイスに座ったまま。逃げようとしたって魔獣達が逃がすはずはないけど、その状態だと歩くのも怪しそうだな。

「バンシュ、あなたはこれを自分の物だと言いましたが、これはまず間違いなくここにあった物でしょう」

「……」

 ほぼ断言され、自分の物だと言い張る度胸はないらしい。

 でも、すぐに認めたくないのか、バンシュは何も言わないし、うなずくこともしなかった。

「魔が差したって奴か?」

 バンシュが黙ったままなので、助け船のつもりではないけど、俺はそう尋ねた。

「きれいだと思って……」

 バンシュがぼそっと答える。

「そういうレベルではありませんね」

 エストレの口調が妙に厳しい。

「え? だけど、イヤリング一つですし」

 見た目は、ルビーのイヤリングだ。きれいだと思って、ポケットに入れてしまっても……ほめられたことではないけど、その気持ちはわからなくもない。廃屋だし、持ち主がいるとも思えないもんな。

「そいつ、他にもやっているぞ」

 エストレではなく、アルケスが答えた。でも、俺にはその意味がすぐにわからない。

「他にも?」

 どうしてここにいなかったアルケスが、そんなことを言うんだ? エストレからもらった物を食べる時はこの家の外にいたけど、この家の周囲にバンシュが持ち出せそうな物はなかったと思う。

 実はよく調べたら外にも何かしらの物品があって、俺達が家の中を調査している間にバンシュはそれをちょろまかし……ってことだろうか。

「バンシュ、あなたは船が難破してここへ来た、と話していましたね」

 それで助けと食料を求めてこの家へ入り込んでいた……んだろ? あれ、エストレがそう言うってことは、違うのか?

「アルケスに頼み、近くにいる海の妖精達に話を聞いてもらいました。この半月、嵐のような天気の崩れはなかったそうです。少なくとも、この一週間は快晴だった、と。あなたはどこで難破したのですか」

 アルケスとロイオンが外へ出る前、エストレがアルケスに何か耳打ちしてた。もしかして、それを聞いてくるようにって言ってたのか。だけど、どうしてだ?

 エストレが尋ねても、バンシュはうつむいて黙ったままだ。

 なので、俺が代わりに質問した。

「バンシュは、難破してここへ来た訳じゃない。どうして、それがわかったんですか?」

「私達がここへ来る少し前に来た、ということをバンシュは話していました。さっき、という言葉がどれくらいの時間経過を示すかは、人それぞれでしょう。仮にそれが一、二時間くらいだとして、その時の彼は、髪も服も全く濡れていませんでした」

 ああ、そう言えばそうかも。いたって普通だった。

「あ、ロイオン。さっき、小舟を見付けたって言ったよな」

「うん、見付けたよ」

「じゃ、その小舟に乗ってたんじゃないですか? それなら、濡れることもないし」

 単に時間が経ったことで、ここへ来た時にはもう乾いていただけ、じゃないのかな。

「そうですね。ですが、小舟があるのなら、人がいるかもわからないこんな小島より、もう少しがんばれば陸があります。イセルの村がこの部屋からも見えますから、海にいればもっとはっきり見えるでしょう。そちらへ向かう方が、食料も助けも確実に得られます」

「ここまで来るのが限界だったんじゃ」

 そう言いながら、確かに陸が見えればこんな小さな島は目に入らないよな、と思い直す。陸が見えないならともかく、この島が見えるなら陸も必ず見えるんだ。人がいるかの確認はできなくても、島よりは陸に上がる方が安心できる。

 俺は改めてバンシュを見た。

 さっきエストレからもらった物を食べたから落ち着いたかも知れないが、それにしてもやつれたり疲れ切った様子は……あまりないな。

 二日前に難破。それが朝か夜かはともかく、少なくとも丸一日は食べずに海を漂っていたってことだよな。難破した時に乗った小舟に、都合よく食料があるとは思えないし。

 今はエストレに問い詰められてるから青ざめてるけど、顔色はそんなに悪くない。……おいおい、どういうことだよ、これ。

 座礁したとかなら天気は関係ないけど、バンシュは確かに「嵐で難破した」と言っていた。嵐が来てないなら、難破するのはおかしい。

「考えすぎ、疑いすぎかと思いましたが、すっきりしないのでアルケスに嵐の有無を尋ねてもらいました。私達が住む街では、海から少し離れているので情報が遅れます。私が嵐のことを知らないだけならそれで済む話ですが、そうでなかったら、と思ったので確認のために」

 エストレがアルケスに耳打ちしてたのは、俺に聞かれたくないんじゃなく、バンシュに聞かれたくなかったんだ。あの時、もう外へ出てたはずだけど、どこで聞かれているかわからないから。

 本当に難破したのなら疑うのは失礼になるし、嘘ならどういう行動に出るかわからない。

 バンシュがここへ来た本当の理由が、あの時点では推測できなかったからだ。

「さっきロイオンの話した小舟については、アルケスからも聞きました。そこに装飾品の入った袋があったそうです」

「はぁ?」

 それを聞き、改めて俺はバンシュを見た。難破した奴が、どうして装飾品の入った袋なんて持ってるんだよ。

「おい、バンシュ。ちゃんと説明しろ。お前はどうしてここにいたんだ」

 エストレだけでなく、俺にまで問い詰められて観念したのか。抱えるように頭をかきながら、バンシュはわざとらしくため息をついた。

「俺は盗みで生計を立ててるんだよ」

 こいつ、一人称は「俺」なんだな。その幼さが残りまくってる顔に、その口調はあまり似合わないんだけど。開き直ってるのか、突っ張ってるのか。

「よそで盗みをやって、追い掛けられたから小舟を盗んで逃げた。言われた通り、陸へ向かうこともできたけど、それは暗くなってから行くつもりだったんだ。ここへ来たのは、それまでの時間つぶしだよ」

 実際に海を漂っていたのは、せいぜい半日程度。古くて誰もいないこの家を見付けたので、それまで隠れるつもりだったらしい。

 案外、こういう所に忘れられた貴重品があったりするから、ついでによさげな物があればいただくつもりで。

 こんなボロ家だから、持ち主が「盗まれた」と騒ぐこともないだろう、という読みもあった。

 腹が減って何かないかとキッチンをあさったが、そこでは何も見付けられず。仕方なくめぼしい物がないかを探すつもりで、このリビングへ入った。

 檻があったり、普通の家とは違う物があったが、そんなことでちゅうちょなんてしていられない。もらえる物はもらっておかねば。

 ほこりだらけの床にたくさんの足跡があることは気付いていたが、家のどこからも人の気配は全くない。自分と同じようにここを家探ししていた人間がいたのだろうが、何か見落としていないかと思って棚や箱類を開けまくった。

 そうして見付けたのが、さっきのイヤリングだ。

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