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07.バンシュが持っていた物

「こぇ~。魔法道具っての、危ないものなんだな」

 目の前のできごとに、バンシュが青くなってつぶやく。

 鏡から人骨が出て来たら、怖くて危ない物だと思えても当然だよな。でも、一概にそうとは言えない。

「今の場合はともかく、魔法道具だって使い方次第だぞ。普通のナイフだって、物を切ったりするとかで便利に使えるけど、一歩間違えれば人や動物の命を奪ったりするだろ」

「まぁ……そう言われてみれば……そうかも」

 俺の言葉に、バンシュが納得している。……よかった、変なこと言いやがって、とか思われなくて。

「スペルオはわかっているのですね」

 その言葉にエストレの方を見ると……え、口元が緩んでる? もしかして、それって笑顔? 微笑って言うか、ほほえみ? あ、同じ意味か。とにかく、ほんの少しだけどにっこりしてるんだよな?

 何だよ、ずっと無表情だったから、ずっとそのままかと思ってたのに。ちゃんと笑えるんじゃないか。

 美人が笑うとやっぱりきれい、と言うか、かわいい。ずっとそのままの顔でいてくれればいいのに。

 女性に笑いかけられるってあんまりないから、ちょっとどきどきする。

 いや、それよりも。

「あの、わかってるって?」

「あなたより前に、回収係へ入った人がいました。ですが、使い方のわからない道具は怖い、と言って……魔法生物課へ転属しました。未知の魔物の方が動き回る分、余程怖いのではないか、と私は思うのですが」

「それ、同感です」

 自分の力が通じるかどうかもわからない奴を、命をかけて相手にしなきゃならない。そんなの、怖すぎる。未知の相手に挑むことで燃えるって奴もいるけど、俺は平和主義なんだ。

 今の話で初めて知ったけど、エストレの後輩は俺が初めてじゃなかったんだな。

 それはそうか。五つ違うエストレとの年の差を考えれば、彼女と俺の間の年齢の人がいてもおかしくないし。

「道具と呼ばれる物は、全て人間が作り出しています。それを危険なものにしてしまうかは、人間次第です。スペルオはその点を理解しているようなので、安心しました」

「えっと、ありがとうございます……で合ってるのかな」

 こういう場合、どう言えば正解なんだ? 今のは、ほめられた……と思っていいのかな。

「気にしないでください。私の感想ですから」

 そう言って、エストレはまた無表情になった。ああ、もったいない……。

「なぁ、その人骨、どうするんだ?」

「彼に親類はいない、と聞いています。そういった方達が眠る墓地へ埋葬する、ということになりますね」

「じゃ、この道具と一緒に持って帰るの?」

 バンシュがいやそうな表情をする。

 俺達に連れて帰られることになっているから、知らない人間の骨と同行することに抵抗があるんだろう。俺も全然ない、とは言えないけど。

「今回はここに置いて帰ります。埋葬するにしてもどんな事情があったかなど、ちゃんと状況を把握してからでなければできませんから。彼の物らしいベッドが、あちらの部屋にありましたね。そこへ運んでおきましょう」

 エストレはヴェネルの骨を浮かせ、さっき確認した寝室へと向かう。バンシュがそれを見て、声にならない悲鳴を上げていた。

 状況を知らなければ、女性が歩いている横で骨がふわふわ浮いて移動してるんだもんな。そりゃ、普通の人には怖いよ。わかってても、俺だって気味悪いと感じるから。

 俺はエストレから、残った魔物らしき骨の始末をするように言われた。

 この状況から見て素材として集められた骨ではないだろうから、そのままにしておいたら何が起きるかわからない。早めに処分って訳だ。

 魔物の骨を小さな結界の球体に閉じ込め、その中で高温の炎を出す。これでしっかり炭化させ、粉砕して確実に処分ってことになる。

 バンシュが、その火の玉をじっと見ていた。こいつにすれば、初めての光景ばかりだろう。

「……あんた達、いつもこんなこと、やってんの?」

 安心しきってるのか、素が出て来たのか。バンシュの言葉遣いが、さっきからかなりくだけたものになってきてるな。

 エストレも、もうちょーっとだけでいいから、くだけた言葉遣いをしてくれたらいいのになぁ。もっと話がはずむと思うんだけど。

「俺は、今回が初めての仕事。エストレは何度やってるか知らないけど、かなり優秀だって聞いてるよ」

「そ、そっか……」

 気のせいか、バンシュが何か言いたそうな顔をしているような。

 でも、俺がどうかしたのかを聞こうとした時、ちょうどエストレが戻って来たので聞きそびれてしまった。

☆☆☆

 ざっくりながら、再利用できるか否かを分類した魔法道具や素材を、俺達は順次片付け始めた。片付けるって言うか、持ち帰れるように準備するって感じだな。

「え、そんなのに入るのか?」

 バンシュが目を丸くして見ている。

 俺達が取り出したのは、一見薄茶色の革でできた小さな巾着。俺の手のひらより大きいくらいで、今は何も入っていないのでぺったんこだ。

 しかし、これも立派な魔法道具。中は異空間みたいになっていて、一応の上限はあるが、どんな大きな物でも入れられるという便利なものだ。

 これがあれば、この家にある部屋全てにとんでもない量の道具が詰め込まれてない限り、俺達二人で楽々持ち帰れる。

 ちなみに、形や大小にかかわらず、一つでも何か入れば袋は少しふくらむ仕様。これで、袋が空かどうかすぐわかる、という寸法だ。

「これ、すっごく便利なんだぜ」

 俺が作った訳でもないのに、自慢げに聞こえたかな。

 今回、どんな物があるかわからないので、エストレに言われてこの巾着袋を五枚用意していた。でも、再利用分、再利用確認分、破棄分の三枚でいけそうだ。

 ここに並んでいる程度の物なら、一枚でも十分に入る。けど、全部を一枚に入れると、帰ってからまた分類しなきゃならなくなる。

 残念ながら、袋の中は棚みたいに整理できないんだ。全部入れると、出した時にあれこれ混ざってしまう。

 この辺り、改善の余地があるってことで、魔法道具研究班・研究係で改良が続けられている。

 俺達のこういう業務の都合上、早急にしてもらいたいもんだ。ほこりが舞い上がる中でむせながら振り分けたのに、帰ってから同じことはしたくないからな。

 ってことで、三枚の袋にそれぞれ入れていく。入れてと言っても、袋の口をかざせば勝手に入ってくれるから楽だ。

 その様子を、バンシュがじっと見ている。

「残念ながら、普通の人にこれは扱えませんよ」

 バンシュが物欲しそうに見ている、とでも思ったのか、エストレがそんなことを言う。珍しいだけ、だと思うけど。

「え、いや、その……不思議だなって」

 俺の思ったことと同じようなことを感じ取ったのか、バンシュが慌てて否定するように両手を振った。

 その動きのせいか、イスの上にひざを抱えて座っていたから服が妙な折れ方をしていたのか。

 ズボンのポケットから、何か落ちた。

 床にかちんと音をたてて落ちたそれは、イヤリングのようだ。赤いしずく型の石に留め金が付いた、シンプルな形の物。

 だが、それを見た瞬間、エストレの目が光ったように見え、それに気付いたバンシュは青ざめた。

「バンシュ、それはあなたの物ですか」

「え……」

 抑揚の少ない、でもやけにはっきりした口調で尋ねるエストレ。

 本人にその気がなくても、聞かれたバンシュの方は問い詰められてるように感じるであろう声。……いや、案外問い詰めてるのかも。

 そのイヤリングの石は、魔石だ。魔法道具にもよく使われる、魔法を吸収したり放出したりする性質を持つ石。

 どうしてそれが魔石だとわかったかと言えば、石の色だ。

 魔法使いには魔石を覆うと言うか、まとわりついている空気みたいなものが見える。オーラって奴かな。

 世間に流通する宝石とは違い、その石と同じ色の空気が石の周りに漂っているのがわかるんだ。普通の人の中にもたまに見える目を持っていたりするけど、魔石のことを知らないでそれを見てびっくりする、というのはよく聞く話。

 もちろん、普通に扱えば何もないけど、今はイヤリングになってる。つまり、何かしらの細工がされている可能性が高いってことだ。

 例えば、装着するだけで防御力が上がるとか、魔力がいつもより強くなるとか。

 ただ、作った奴の腕によっては、すっごく危険だったりする。普通の人間が持っていても、何かしらの作用が起きたりするんだ。

 ない魔力が上がることはないし、防御力が上がるとかならいいんだけど。体調に不具合が出るとか、混乱状態になるってこともある。

 本人はもちろん、周囲に迷惑がかかる状況になるってことも多いんだ。

 なので、落ちていた物を拾うか、闇ルートなんかで意識して手に入れない限り、一般人が持つことはない。

 そんな物を、バンシュが持っている。一般人のバンシュが持っているのを見て、エストレはもちろん、俺だってそのまま見過ごすことはできない。

「う……うん、そうだけど」

 お前、うそつくのが下手だな。目が泳ぎまくってるじゃないか。その顔を見てたら、絶対違うってばればれだぞ。

 バンシュは言いながら、床に落ちたイヤリングを拾おうとした。

「触らないでくださいっ」

 エストレの声が飛ぶ。

 今までにない強い口調に、バンシュの手がびくっとして止まった。

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