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05.内部調査

「どれもこれも、傷みまくってますね」

「人が住まない家はすぐに傷む、と聞きますから」

 他にも似たような部屋が数部屋あったが、そちらの方はがらんとして何もない。

 窓が見事に壊れ、そこから入ったほこりで床が真っ白だ。足跡があるのは、エントランスと同じで退治班のものだろう。

 一応、壁なども何か隠されていないか調べたが、何もない。この建物に家具がほとんどないのは、元の持ち主の貴族が引き上げたからだろう。置いて行く義理はないもんな。

 もしくは、ここまで運ぶのが大変だから、元々家具の(たぐい)はあまりなかったのかも知れない。ヴェネルは一人暮らしだから、そんなにいらないだろうし。

 エントランスを通り抜け、次にキッチンへ向かう。

 普通の家のキッチンより広く造られているのは、やっぱりお貴族様仕様だからか。ここで食事する訳でもないだろうに。

 広い場所にこうも物が少ないと、ひどくがらんとしているように感じる。

 わずかな数の食器が入った小さな棚。汚くなった鍋が一つ。もちろん、ほこりだらけだ。

 皿やカップは、普通の木でできていた。カトラリーも、驚く程少ない。

 俺は実家暮らしだけど、一人暮らしになったらこれだけ物がないものなんだろうか。生活感がなさすぎる。

 もしくは、貧乏で……いや、ヴェネルはこの家を買ってるんだ。いくら二束三文状態だったとしても、貧乏な人間が家を買えるはずがない。本当に必要最低限の物だけしかない、ということだろう。

 調味料が入っていたらしい小さな瓶がいくつかあるが、ほこりの跡を見ると位置が変わっているのがわかる。たぶん、バンシュがここへ入り込んだ時に食料を探して、あちこち物を動かしたんだろう。

 床に二つのざるが置かれていたが、中にある物が見事に黒い。炭化したような物体が、いくつか転がっている。

 元が何かなんてさっぱりだが、たぶん食料だった物、だろう。野菜か果物か。

 腹を空かせてこのキッチンを見たら、怒りか落胆の感情しか出て来ないよな。

 キッチンの隣には、リビングと同じくらい広い部屋がある。たぶん、ダイニングルームなんだろうけど、ここも何もない。狭いダンスホールって感じかな。

 一応、中へ入って確認。隠し扉や、地下への隠し階段なんかがないかなー、と見て回ったけど、ほこり以外に何もなかった。

「やはりあのリビング以外に、これといって気になる物は残っていないようですね」

「んー、そうみたいですね。エントランスからこっち側は、キッチンにしか物がなかったけど……さすがに、魔法道具をキッチンには置かないでしょうし」

「スペルオ、リビングへ戻りましょう」

 エストレに(うなが)され、俺達はリビングへ戻った。バンシュの姿はないので、外で待っているんだろう。

「あいつに昼飯を渡してしまって、よかったんですか?」

「ええ、まだありますから。仕事が長引いた時のために、余分を持って来ています」

 ちょっと、それ言っといてよ。俺、昼飯しか持って来てないのに。てっきりバンシュに気を遣わせないために「まだある」って言ったんだとばかり思ってた。だから、俺の分を半分こにして……って。

 あ、でも、今のエストレも一食分しかない訳だから、今日長引くのはなしだな。

 一人で焦って、一人で落ち着いた。

 とにかく、次からは予備の食料を持って来るようにしよう。一つ、学習した。

 さて、改めてリビングを見回すと……本当に散らかってるな。特に、棚や長机の周辺。

「私達が来る前に、バンシュが触っていたかも知れませんね」

 もしかして、バンシュが食料を求めて棚にあった物を取り出して放り……を繰り返したのかも。

 この散らかりようは侵入者の仕業か、と思ったけど、バンシュがやらかしたのかも知れない。現在わかってる侵入者は、あいつだけだもんな。

「後で、あいつには事情聴取ですね」

「特に彼が興味を覚える物はなさそうですが、聞く必要はあります」

 窓が壊れてそこから風が入り、机の上にあったであろう軽い物なんかは床へ放り出された状態だ。たぶん、バンシュが放り出したものと混ざっているだろう。

 ほこりの状態から見て、重い物は動いてない。見ただけで、食い物じゃないってわかるもんな。だから、バンシュも手を出していないんだ。

 そもそも、その重い物は、おだやかならぬ用途の物だった。

「これ……檻ですよね、やっぱり」

 俺くらいの人間が、座れば何とか入れるような大きさ。そんな檻が、三点ばかり。壁に沿って並んでいる。

 そのうちの一つには、何かよくわからない骨が残っていた。全体像が残っていないのでどれくらいの大きさかははっきりしないが、頭の骨が残っている。

 その骨には、一本の角が伸びていた。

 これって魔物、だよな。退治班からの報告にもあったし。本当に魔物を捕まえて、何かしらの実験をしてたのか。

 もちろん、そういう実験や検証をして新しい物、役に立つ物ができていくんだ。魔物ではあるけど、生き物には違いない。貴重な犠牲と言うべきだろう。

 来る前にディーセム係長から話は聞いていたけど、こうして目の前にあると、やっぱり不気味だよなぁ。

「かなり頑丈ですね。少し鉄格子が曲がっている部分がありますから、相当力の強い魔物を閉じ込めていた、と考えられます」

「一人でやってたなら、すごいですね。危ない時もあっただろうなぁ」

 残念ながら何の骨なのか、俺にはさっぱりだ。角がある魔物なんて、たくさんいるからな。どこから連れて来たかにもよるし。

 この骨の主は、必死に出ようとしたんだろう。鉄格子の一部がぐにゃっと曲がっている。こういうことができるなら、身体が大きい奴だったのかな。

 ただ残念なことに、曲がって空間ができても、ねこが一匹通れる程度だ。出せても、手か足が一本ってところだな。

 でも、鉄格子を曲げるくらいの魔物が近くにいるって、相当怖いぞ。まして、ヴェネルは一人で研究していたようだし、何かあれば襲われるか喰われるかの危険度がかなり高くなる。

 何をしようとしていたかは不明だけど、そういう点ではすごい魔法使いだな。メンタルが強いって言うか。

「では、この部屋にある物を一カ所に集めましょう」

「はい」

 エストレの号令で、まずはここにある全ての物の確認から始まった。

☆☆☆

 エストレと二人で部屋にある物を順次集めていると、バンシュが戻って来た。

「ん? どうした?」

「あの、外にいても退屈だし」

 確かに、ひまつぶしになりそうな物も場所もないからなぁ。食う物食ったら、することがなくなったってところか。

「ですが、ここにいてもほこりにまみれるだけですよ」

 中にある物を動かすと、長年積もったほこりがいやでも宙を舞う。

 窓が開いている……と言うか、壊れているので風が入り放題なだけなんだけど。こんな環境だから、どっちにしろ窓を開けることにはなっただろう。今の季節が真冬でなくてよかった。

 仕事でなければ、あまりいたい場所じゃない。わざわざこんな部屋にいなくてもいいぞ。

「うん。でも……。あ、何か手伝えないですか」

 何かしていた方が気が紛れる、という気持ちはわかる。時間をあまり感じずにいられるもんな。

 だが、エストレはバンシュの申し出を断った。

「ありがたいのですが、ここにあるのは恐らくほとんどが魔法道具と思われる物です。長い時間の経過で力を失っている物もありますが、逆に残っていた力によって誤作動を起こす危険もあります。魔法使いではないあなたに、お手伝いをお願いすることはできません」

「そ、そうなんだ……」

「気を悪くしないでくれよな。古くても、絶対に安全だって言えないんだ。俺達なら何かあっても対処できるけど、お前には無理なことも多いからさ」

「うん。わかりました」

 少しがっかりしているようだが、バンシュはそれ以上無理は言わなかった。安全じゃないって言われたら、引き下がるしかないよな。誰だって、自分がかわいいし。

「でも、ここにいるくらいならいい……ですよね? 俺達の作業を見る分には」

 俺の一存では決められないので、先輩にお伺いを立てる。

「こんな場所でよければ、構いません。ただし、ここにある物には触れないでください」

 出て行かなくていいとわかったからか、バンシュの表情が少し明るくなった。遭難したってことだから、誰かと一緒にいるだけで安心できるのかも知れない。

 一方で、エストレは自分の言葉で思い出したようにバンシュを見る。

「バンシュ、この部屋にあった物に、どれだけ触れましたか?」

「え? えっと……その棚の辺りとか」

「持ったりしただけですか? いじったりはしていませんか」

「ほこりをかぶって汚いから、そんなことはしてないですよ。食べられそうな物がないかって思ったけど、全然なかったし」

 やっぱり、ここを散らかしたのはバンシュだったんだな。最初にキッチンへも行っていたらしい。で、リビングを探し回っているうちに、俺達が来た、と。

「わかりました」

 バンシュへの事情聴取は、ここで終わりだ。

 魔獣達の判断でバンシュが魔法使いではないことはわかってるし、どれが価値のある物かなんて一般人にはわからないだろう。これ以上尋ねても、収穫はないってことだ。

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