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02.回収の初仕事

 回収班に入って、今日で三日目。

 道具って持つ人によってずいぶん変わるんだな、というのがよくわかった。使い方がていねいか粗雑かで、傷み方が全然違うんだ。

 例えば、同じ厚さの魔法書があったとして。

 どのページも汚れているから、この人は相当読み込んだんだろうなってもの。

 ページはどれもきれいだけど革表紙がぼろぼろだから、この人は片付ける時に放り投げてたんだろうなってもの。

 そういった想像ができるくらい、違いが結構明白なんだ。今まで考えたこともなかったけど、こんなところで性格が出るんだなぁ。

 そんな部分を比較して、会ったこともない魔法使いの顔を想像しながら、楽しく仕事ができている。

「スペルオ、少しは慣れたかな」

 ほこりをかぶった水晶玉を磨いている俺に、ディーセム係長が声をかけてきた。

 長身の俺とそんなに変わらないけど、細いからちょっと突き飛ばしただけで倒れそうな気がする。

 でも、実は魔法の腕がすごい……らしい。失礼ながら、そんな感じには見えないんだけどな。

 だけど、長と付くくらいだから、それなりの腕はあるんだろう。

「はい。面白そうな道具が並んでいて、楽しいです」

 一応、本音だ。

 ちょっとほこり臭い、というきらいはあるけど。これはどう使うんだろう、修学部ではこんなの見たことないぞって道具もあるから、想像していたよりずっと面白い。

「それはよかった。少し早いかも知れないけれど、明日にでも回収に行ってみるかい?」

 三日や四日で回収へ行くのが早いのか、俺にはわからない。でも、この回収係へ来た以上、いつかは行く日が来るだろうとは思っていた。

 どういう所から、どんな魔法道具を引き取って来るのか、すっごく興味がある。珍しい物が出たらいいなぁ。

「はい。行きます」

「初回としては、少し遠出にはなるんだけれどね」

 そう言ってディーセム係長が出したのは、サンザという島の名前だった。

「サンザ……聞いたことがない名前ですね」

「地元の人だけが知っているような、沖にある小島と聞いている。イセルという漁村が一番近いらしい」

「はあ」

 島の名前もだけど、俺はイセルなんて村は知らない。ディーセム係長に見せられた地図では、確かにゼルエンの国にあるようだ。

 ゼルエンは大国ではないけど、国と呼ばれるからにはそれなりに広い。地理は苦手じゃないつもりだけど。街ならともかく、辺境の村までは把握してないからな。

 沖にある小島って言うくらいだから、当然海へ向かう必要がある。オスクの街からだと、一番近い海岸でも馬で半日はかかる距離だ。

 このイセルって村は、地図上から推測する限り、一日近くかかるだろう。確かに遠出だな。

 でも……ふふん、俺達は魔法使いだ。近場ならともかく、こういった遠距離の移動は魔獣に頼るのが定石(じょうせき)

 修学部では魔獣と契約する授業があり、俺も魔獣と契約した。魔法使いとして仕事をするなら、どういう職種であれ必要となる時がある。

 まぁ、本当に全ての職種で必要になるかは知らないけど、頼りになる魔獣との結びつきがあれば、何かと心強い。

 どうやら、今回の回収場所へは魔獣の力を借りることになりそうだ。

「その小島に、魔法使いがいたってことですか」

 言ってから、何をわかりきったことを聞いたんだろう、と反省した。

 魔法使いの存在がなければ魔法道具があるはずもないし、俺達回収係が向かう必要なんてないんだから。

「うん、そうらしいんだ」

 あれ? らしいって、どういうこと?

 ディーセム係長の言葉に、俺はわずかに首をかしげた。ずいぶん自信のない言い方だな。

「退治班がざっくり見ただけのようでね。それらしい物が散らばっていたから、ということでこちらへ話が回って来たんだ」

 ディーセム係長の話では、こういうことらしい。

 イセルの村の人間が「最近何度か、サンザの島で夜に光が見える」とシャングへ通報してきた。

 現在のサンザの島に人はいないはずで、光が見えるのはおかしい。人間が住んでいないのをいいことに、魔物が居着いているのではないか。魔法使いに調べてもらいたい。

 ということで、魔物のいる可能性があるなら、まず向かうのは魔法生物課の魔物退治班。つまり、魔物退治の専門家だ。俺が一番やりたくなかった仕事。

 こういう魔物が出るって前もってわかっていても怖いのに、どんな奴が何匹出るかわからない所へ行くなんてすごい。心の底から尊敬するよ、本当に。

 で、結果として、魔物の気配はなかった。意気込んで行った退治班にすれば、肩透かしだったろうなぁ。

 村の人間が知らないだけで、実はよその人間がこっそり入り込んでいた、ということも考えられたが、そういう痕跡はなかったらしい。

 光る原因とやらについては結局わからなかったらしいが、魔物ではない、と結論づけたようだ。

 島にはかなり傷んだ一軒の建物があり、現地調査の後で調べたところ、八十年以上昔に貴族が建てたものだとわかった。

 誰も来ない島でくつろうごうってことで、別荘として建てたんだろう。

 でも、飛行可能な魔獣に乗らない限り、そこへは船でしか行けない。沖にある島なんだから、当然だな。

 街から馬車で海へ、そこから船に乗って……となる訳だ。が、それが面倒になってあまり使われることがなかったって……何だよ、それ。ぜいたくだぞ。

 金持ちのやることって、庶民にはわからないよな。そういうルートになるってこと、最初から納得して建てたんじゃないのかよ。目の前にいないからはっきり言うけど、頭が悪いとしか思えないぞ。

 で、その別荘をヴェネルという魔法使いが買った。協会からは早々に脱退し、一人で魔法道具の研究をしていたようだ。

 退治班によると、建物の中には色々と魔法道具らしき物が散見された。光っていたのはそれらではないか、という可能性を考えたようだ。

 魔物の物らしい骨が残った檻もあって、道具の効果を試していたと推測される。

 ヴェネルが現在生きていたとして、およそ百二十五歳になるそうだ。建物の中や周辺に彼の骨は見付からなかったそうだが、さすがにその年齢で今も生きているとは思えない。

 ものすごーく高位の魔法使いだと二百歳以上生きることもあると聞くけど、名を残した訳ではない魔法使いの彼には当てはまらないだろう。知らない人なのに、失礼だけど。

 仮にヴェネルが生きていたとしても、その建物にはもう住んでいない。人が生活している痕跡がなかったそうだから。

 とにかく、魔物がいない、魔法道具がある……となれば、これは魔法道具課へ回される案件だ。で、研究班・回収係に話が来た。

 ヴェネルの生死に関わらず、魔法道具が長年放置された状態を確認された訳だから、それらを処分しなければならない。

「あの、俺一人で行くんですか?」

 マニュアルがあるとしても、いきなりの単独はちょっと不安なんだけど。傷んだ建物って、要するに廃屋だろ。中へ入って崩れたら、とか考えると、違う意味で怖いんだけど。

 そんなことを思っていたら、ディーセム係長は笑って否定した。

「まさか。何か突発的なことが起きたりしたら、大変だからね。必ず二人以上で行く、という規則があるんだ。今回は、エストレと一緒に行ってもらうよ」

 エストレは、俺と一番歳が近い女性の先輩だ。五つ違い、だったかな?

 回収係の中では一番年下だから、彼女にとっては俺が初の後輩ってことになる。

 たぶん真っ直ぐと思われる金髪をいつも高く結い上げ、大きな緑の瞳をした美人。俺より少し低いくらいだから、女性としては背が高い方じゃないかな。姿勢がいいから、余計長身に見えるのかも。スタイルはいうことなし。

 静かな口調で、年下の俺にも敬語を使ってくれる。ていねいに対応してくれてるだけかなって最初はそう思ってたんだけど、どうやら誰に対してもそうらしい。そういう話し方が身についてるってことかな。

「エストレはベテラン勢に負けず、魔法道具の知識がとても豊富だからね。今回の目的地は平屋建ての廃屋で、周囲に話しかけてくるような人もいないから。きみにとって、いい勉強になるはずだよ」

 回収する場には、持ち主やその遺族が同席する場合もある。その時「その道具を使ってどうこうしていた」なんて思い出話が出たりすることもあるそうで。

 持ち主や遺族にとっては色々と思い出深い物だったりするだろうから、引き取られることに思うところがあるのはわかる。回収する方も、そういった話を完全スルーはしにくい。

 かと言って、ずっとそんな話に耳をかたむけていたら、速やかに作業できない、なんてことにもなる。

 今回はそういうのがないから、勉強しながらゆっくり仕事ができるってことだ。

「移動も含めて、明日は一日仕事になるからね。簡単な昼食は用意しておくように。島の近くにはイセルの村しかないし、そこに食堂があるかはわからないからね」

「はい」

「話は終わりましたか」

 横から声をかけられた。明日の同行者エストレだ。

「ああ。だいたいのことは話しておいたから」

「そうですか。では、スペルオ。明日の準備をしておきましょう」

「は、はい」

 美人に敬語で話されてると、ちょっと緊張する。とっつきにくいって訳じゃないけど、これは慣れるしかないのかな。

 美人と仕事ができるなら、それはそれでいっか。

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