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01.魔法道具課

「うわああっ」

 廃屋の一室で、少年の悲鳴が響く。イヤリング型に加工された魔法道具から黒い煙が吹き出し、あっという間に少年を囲んだ。

 時間を置かず、さらに立ち上って煙は天井まで届く。まるで意思を持っているかのように。

 やがて、巨大化した魔物に姿を変えて。

 少年は完全に煙の中に取り込まれた。って事は、受肉した……みたいな感じなのか?

「いやな展開っぽい……」

 ぽい、じゃないよな、絶対。よくない予想に限って、腹立つくらいに当たるもんなんだから。

 もう、こんなよくわからない奴が出て来るのって、これで何回目なんだよ。まだ半日も経ってないってのに。いつもこうなのか?

 いい加減、勘弁してくれ。俺の初仕事、どうしてこんなどうしようもないことになってるんだよっ。

☆☆☆

 もし魔法使いになりたければ、俺達が住むこの世界では「魔法使い協会」へ入るのが一番確実だ。

 魔法使いの、魔法使いによる、魔法使いのための組織。

 んー、ここまでで何回「魔法使い」って言ってるんだろ。でも、まぁ、この言葉なしには説明ができないしな。

 どの国にも、それがどんな小国でも、最低二カ所はある。つまり、この世界で認められている、信用のあるちゃんとした組織って訳だ。

 俺が住んでいるゼルエンの国には、三カ所の魔法使い協会がある。いわゆる、支部ってやつ。

 そのうちの一つである「シャング」がオスクの街にあり、俺はここへ入った。

 いくつも支部がある訳だから、わかりやすいようにそれぞれ名前がある。どうせなら街の名前にすれば、もっとわかりやすいと思うんだけど。うちの場合で言えば「魔法使い協会オスク」みたいにさ。

 最初にできた支部が適当(じゃないかも知れないけど)に付けたもんだから、その後でできた支部にも、街の名前以外の名称が付けられるようになったらしい。

 最初が肝心、とはよく言うよな。

 どこの魔法使い協会へ入るのも自由だけど、幸い俺はオスクの街の住人なんだ。なので、一番近いシャングを選んで入った。

 もちろん、その街の住人でなくても構わない。協会が用意した寮や自分で探した下宿に入り、自分で選んだ協会へ入ることができる。

 この魔法使い協会って所は、魔法使いを育成してくれる学校であり、晴れて一人前になった時は魔法使いとしての仕事を紹介してくれる仲介所であり、職場でもある。

 学校は修学部と呼ばれ、最短で三年の修行をして認定試験に合格すれば魔法使いになれるんだけど……そういう天才はそうそういない。認定されるまでの平均は、五年から六年ってところだ。

 修行の途中で挫折し、去って行く奴も少なくない。魔法という特殊な技術を自分のものにするのは、本当に大変なんだ。

 そんな厳しい修行を、俺は五年半で終わらせることができた。

 しんどくて、何を思って魔法使いになろうとしたんだろう、なんてことを修行中に何度も考えたけど、魔法使い認定試験をパスしたらこっちのものだ。

 ……こっちのものっていうのは、ちょっと言い方が悪いかな。

 で、修学部を出たら、今度は所属が職務部という仕事をもらう場に変わる。

 修学部はひたすら魔法使いになるための勉強をする所なので、レベルによって教室はその時々で変わるけど、言ってみれば一つの部署しかない。

 一方、職務部はかなり細かく部署が分かれている。

 一般の人間は「魔法使いはみんな、魔物退治をするもの」と思っているらしい。俺も子どもの頃はそんなふうに思っていたから、あまり偉そうなことは言えないんだけど。

 しかし、現実にはその仕事は多岐にわたる。修学部に入ってから知ったけど、その数の多さに驚いた。

 何となくでも方向性はある程度考えておくように、なんて言われたけど、最初は呪文を覚えるのに必死で、それどころじゃなかったなぁ。

 ざっくり言えば、魔物退治をする課や魔法道具に関わる課、魔物によって負傷した人を治療する課なんかがある。

 それだって、さらに細分化されるんだ。ちなみに、修学部の先生は教育課に所属する魔法使いがやっている。

 俺はそんなたくさんある仕事の中から、魔法道具課を選択した。

 魔物退治なんて、命の危険と背中合わせの仕事、絶対にやりたくない。正直なところ、魔物なんて見ずに済むなら見たくないからなぁ。

 ほとんどの魔物が気持ち悪い姿だし、正直に言えば怖い。人間に害をなす魔物どもを何とかしてやるぜ、とは思えないんだよな。俺がへたれと言われれば、それまでだけど。

 幻影の魔物を消すってことは、授業で何度もやった。けど、あれをわざわざ現実でやりたい、と思う奴の気持ちがはっきり言ってわからない。幻影と違って、やり返されることもあるのに。

 でも、すごいな、とは思う。命を張って人を守ろうとするんだから。その点は尊敬している。

 先生、という柄でもないし、医療なんて人の血を見るのも苦手な俺にできるはずもないから、選択肢には最初から入ってない。

 薬学の研究とかは、植物や成分、効能を覚えるのが大変そうだから、記憶力が特別いいって訳ではない俺にはちょっと無理。

 そんなことばっか言ってたら、何もできる仕事がないぞって思って、真剣に考えた。

 で、さっき言った、何を思って魔法使いになろうとしたんだろうって思い出す。

 魔法を使ってみたい、というのは当然なんだけど。魔法がかかった道具に触れるのって面白そうって、絵本を見ていて思ったんだよなぁ……なんてことを思い出した。

 子どもの時はどの道具に関わりたいとか、そんな明確には考えてない。そもそも、どんな物があるかもよく知らないし。

 それでも、触れてみたいって思って、修学部に入ったんだ。

 だから、認定試験をパスして正式な魔法使いと認められるようになった時、魔法道具課を希望した。

☆☆☆

 すっかり忘れていたけど、ここで自己紹介。

 俺はスペルオ。少しくせのある明るい茶髪に茶色の瞳で、顔は十人並みよりちょっと上……と思いたい。今まで生きてきて特にもてた覚えはないので、それなりってところかな。

 背は高い方。もう少し筋肉が付けば、と思ってる。

 この前二十歳になったばかりの、新人魔法使いだ。

 ……うーん、やっぱりいいなぁ。まだ新人とは付くけど「見習い魔法使い」じゃなく「魔法使い」って響き。

 こんなことで感動できるのも、新人と呼ばれる今のうちだけど。

 俺の現在の職場は、さっき言ったように魔法道具課だ。さらに細かく言うと、研究班。さらにさらに細かく言うと、回収係。

 入ったばかりなので、当然下っ端だ。

 魔法道具課は目的によって分かれていて、たぶん一番細かく部署が分かれてるんじゃないかな。組織図を見たことがないから、推測だけど。

 研究班の他に新しい道具を考える開発班、新旧の道具を図解したり説明書を作る図録班、道具を必要とする魔法使いに販売する企画・販売班がある。

 新しい道具を考えられる程、ひらめく自信はない。

 絵を描いたり、説明するのは下手。

 販売は商売要素が強くて、自分がやりたいこととはちょっと違う気がする。

 ということで、俺は研究班に入った。

 今は使われていない道具がどういう経緯で作られ、使われていたのか。現在使われている道具の改良点はあるか。

 ざっくり言えば、こういうことを研究する。

 一番しっかりと、魔法道具と向き合える職場のような気がしたんだ。

 研究班・回収係では、魔法使いが引退もしくは亡くなった時、その人が持っていた魔法道具を引き取る仕事をしている。

 魔法だ何だと言ったって、結局作っているのは人間だからな。完璧な物なんて存在しないんだ。

 普通は呪文を唱えなければ機能しないはずの魔法道具も、どういったきっかけで不具合を起こすかわからない。下手すると、周囲にいる人を傷付けることだって考えられる。

 だから、依頼を受けたらそういった魔法道具を引き取り、使える物はそのまま再利用し、修繕して使えるならそれも再利用。どうしたって使えそうになければ、廃棄する。

 これは、魔法使いでなければできない仕事だ。

 要するに、古道具と向き合う部署だけど、たまに珍しい道具を回収することもあるって聞いた。いわゆる、掘り出し物って奴。

 アンティークなんて格好いいものじゃないけど、俺はそういうのにも興味があるので、出て来るのを楽しみにしている。どんな研究ができるかな。

 回収係のメンバーは、ここのトップであるディーセム係長を入れて七名。

 四十代に入ったばかり、と聞いたディーセム係長はひょろっと背が高く、細身で眼鏡をかけていて、図書館にいた方が似合いそうな見た目をしている。

 ごりごりの上司よりはいいけど、もし何かあった時に頼りになるのかなーって印象だ。

 もっとも、魔法道具課で「何かあった」なんて事態があるとは思えないから、やっぱりこの人でいいのかも知れない。

 まだ全ての名前をしっかり覚えられていないので紹介しきれないけど、俺と近い年の女性が一人、ディーセム係長とあまり変わらなさそうな男女各一人、ベテランなんだろうと思えるもう少し年上の男性二人で構成されている。

 みんなの見た目はディーセム係長と同じく、穏やかそうな雰囲気の人達ばかりだから、何とかやっていけるだろう。

 下っ端の俺は、回収された魔法道具の整理を言い渡されている。まぁ、慣れるまでしばらくはこんな感じだ。

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