ビー玉池のカランコロン
むかしむかし、ある小さな村の外れに「ビー玉池」と呼ばれる池がありました。池の水は透き通るほどに清らかで、誰もがその美しさに見とれて足を止める場所でした。その池の周りには小さな売店がひとつあり、そこではびん入りのラムネが売られていました。おかしなことに、ラムネのびんには必ず小さなビー玉がひとつ、入っていました。そして、ラムネを買った人たちはそのビー玉を取り出し、池の中に投げ入れるという習慣がありました。
時が流れ、何十年もの間、池には無数のビー玉が落ち、あふれんばかりになりました。水面に浮かぶそれらのビー玉は、光を受けて七色の虹のようにきらきらと輝き、池全体が虹色に包まれるようでした。その美しさは村の人々にとって、まるで神秘的なもののように感じられ、自然と「ビー玉池」と呼ばれるようになったのです。
そして、ある日から、ビー玉池には不思議な存在が住み着くようになりました。双子の妖精、カランとコロンです。彼女たちは、歌を歌うのが大好きで、いつも池のほとりで歌声を響かせていました。その歌声は、まるで風のように優しく、そしてどこか懐かしい響きがありました。歌を聞いた人々は、心が癒され、日々の疲れがふっと消えていくような気がしたものです。
そんなある日、カランとコロンの歌声を耳にしたひとりの少女が、池へとやってきました。少女の名前はアオイ。彼女は生まれつき目が見えませんでしたが、音に敏感で、他の人々の感じることのできないものを感じ取ることができました。歌声を聞いたアオイは、何か特別なものがそこにあるのだと直感し、思わずその歌声の源を求めて歩み寄ったのです。
「誰ですか、この美しい歌を歌っているのは?」アオイは静かに問いかけました。
カランとコロンは、アオイの優しい声に答えました。「私たちは、ビー玉池に住む双子の妖精、カランとコロン。歌を歌うのが大好きなんだ。」
アオイは微笑みながら答えました。「でも、私には『ビー玉池』がどれほど美しいのか、わかりません。目が見えないから。」
その言葉を聞いたカランとコロンは、しばらくの間黙って考え込みました。池の美しさを伝えることができないことを、ふたりは少し悔しく思ったのです。だが、すぐに思いつきました。
「アオイさん、もしよければ、私たちがあなたの目になってあげます。そうすれば、ビー玉池の美しさを感じ取ることができるかもしれません。」
アオイは驚きましたが、心の中で何か温かいものを感じました。「本当に?私が目を持つことができるの?」
「ええ、私たちの力で、あなたに新しい目を授けます。」とコロンが言いました。
カランとコロンは手を取り合い、池の水面に浮かぶ七色のビー玉をふわりと取り上げ、その一つをアオイの前に差し出しました。ビー玉は光を受けて、まるで小さな星のように輝いていました。そして、二人はそのビー玉をアオイの目元にそっと置きました。すると、不思議なことに、アオイの目がほんのりと温かくなり、目の前がぱっと明るくなったのです。
「目が……見える!」アオイは驚きと喜びで声を上げました。彼女は手で目を覆いながらも、恐る恐るその手を離しました。そして、初めて目にした世界は、まるで夢のように美しいものでした。まばゆい光を放つビー玉池は、まさに七色の虹が広がる美しい池で、周りには花々が咲き乱れ、小鳥たちがさえずっていました。
「なんてきれいな池なんでしょう。」アオイは、涙を浮かべながらつぶやきました。
その後、アオイは何度もビー玉池を訪れました。彼女の目はカランとコロンがくれたものだったため、池の美しさを視覚で感じることができたのです。しかし、池のほとりで歌う二人の妖精の姿は、いつの間にか見当たりませんでした。カランとコロンはどこかへ消えてしまったようです。
それでも、ビー玉池の美しさは変わることはありませんでした。池の水面には相変わらず、七色の虹がかかり、池の周りには心を癒すような静かな空気が漂い続けていました。そして、アオイは、二人の妖精がくれた贈り物を忘れることはありませんでした。彼女は今も、池のほとりで、妖精たちが歌った歌を心の中でそっと歌っています。
こうして、ビー玉池は今も変わらず輝き続けています。