迷路
「まぁまず無理だろうな」
お医者さんは僕に言った。
単純だった。
末期の大腸がんだった。
今考えれば、昔から暴飲暴食で、
人様におかまいなく食べたらかし飲み散らかす有様だった。
となりで母が言った。
「そんなこと言わないでください!」
しかし医者は平気で、
「お母さん、今は冷静になってください。
お気持ちはわかります。
でも、そういうことなんです。」
明日、死ぬとしたら何がしたいんだろうという、
平和な空想をした後に、寝た。
昼寝だった。
夢の中で、犬が3匹こちらを見て、舌を出していた。
特に可愛げもなく、悲しそうでもなかった。
目を覚ますと、院内の人たちの笑い声が聞こえた。
楽しそうだった。
そのすぐ後に目を覚ました僕に気づいて、
母と父が取りつくろう光景を見た時、
あぁ、もしかしてこういう時に、
結婚がしたかったと思うんだろうなぁと思った。
今、見舞いはいないが、
もし見舞いに誰か来てくれたら。
もし見舞いに誰か来てくれたのならば。
いや、呼んででもお前に会いたいという、
傲慢さと卑屈さを涙ぐましくも越えてくる人がいたのならば。
でもそれは、、
と考えていると、母が一言。
「起きた?」