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側編

人という生物は思慮深く考えているようで結構考えていない。どんなに脳内シミュレートをしてみても、最終的にはその時の直感で行動してしまう。

愚直・愚鈍・愚図と三拍子そろった私の親友はその最たる例と言える。

親友は何を思ったのか遂にその日にその淡い恋心を告白した。

親友の恋心は前から気が付いていた。

そしてその結果がどうなるかも解りきっていた。


強い意志とは裏腹に頼りない足取りで想いの人の元まで歩いていくと、愚直な親友らしい「ど」が付くほどのストレートな告白。

あまりのそのままの言い回しに入れる気も無かった突っ込みが思わず口から漏れる。

一拍の間の後の返答。

綺麗にあごを捉えそのまま親友の意識を掻っ攫うビンタの一撃。

「・・・」

今回の一件は傍観者を務めようと思っていたが、流石に腰を上げかける。

しかし親友の想いの人は更に行動を続ける。

突如意識を失った私の親友を気使う振りをして手を伸ばしつつ飲んでいた珈琲を倒しそれをぶっ掛ける。

更に動転した振りをして自分のバックの中をあさりハンカチを出しながら文庫を落としぶつける。

やりすぎだろう。

私の親友に対して良くない感情を抱いた事は解った。だがそれぐらいで勘弁してやってくれないか?そいつは見た目の豪胆さとは裏腹に脆すぎる心の持ち主だ。

片思いの告白に対してお断りする方は楽でいい。次の日にはそんな事忘れられる。

しかし告白する方はそうは行かない。告白に至るまでの長い時間が一瞬にして水泡に帰す訳だ。

今回は泣きじゃくるだろうな。

高校に入ってから少し大人しくなったとはいえ幼馴染という間柄の私には親友の心の脆さを十二分に理解している。

振られて直ぐに割り切れるほど心の切り替えがうまい奴では無い。

幼稚園の頃から何かあると私の部屋に無断で上がりこんできて、私に愚痴りながら泣きじゃくる。

親友の世話役を幼稚園の頃からやっている私には今回の一件で親友がどれほど落ち込むか嫌というほど解る。

この後に起こりうる展開に頭を抱えながら先ずは親友を救いに行く。

自分で掛けた珈琲をハンカチでふき取りながら次なる一手を考える親友の思いの人の元に行き、その場で倒れている親友の両脇に手を掛け引きずり回収。

さながら廃品回収状態。

「うちの連れが迷惑を掛けた。」

形だけの謝罪。こんな悪逆非道に対して心からの謝罪をする気には残念ながらなれない。

私の謝罪を聞いた後、珈琲代をカウンターに叩き付けて去って行った。

そこまで苛立つものか。今時の若者は解らんね。

ため息を一つ吐いて、親友を自分たちの座っていたボックス席まで移動させる。途中バーテンダーのおじさんが手伝ってくれた。素直に感謝。

無言の内に私のホットコーヒーと親友のアイスコーヒーが運ばれてくる。隣に積まれたガムシロップのタワーの高さがバーテンダーのやさしさを物語っている。

バーテンダーに謝辞の挨拶をして、無言で珈琲に口をつける。いつも以上に苦く感じるのは飲み手である私が原因。


気を失ったままの親友を放置するわけも行かず、その場でその親友の寝顔を肴に珈琲を楽しむこと小一時間。

微かなうめき声と共に親友が目を覚ます。

状況把握をした親友と無駄な会話の応酬、その後予想通り泣きじゃくる親友を介抱する。

ある程度泣き止んだ所で、会計を済まし自宅に招く。

家に帰った所で母親に見つかったが親友の姿を見て、それ以上は何も言わなかった。その辺理解のある母親でとても助かる。というより昔からこんな事を続けているのでもう慣れたと言う方が正しいか。

親友を風呂場へ誘導し、中に入った事を確認していったん自室に戻る。その途中にバスタオルを用意してくれている母親に話しかけられる。

「着替えは何か在るの?無ければパジャマでも引っ張り出すけど。」

失念していた。私にしては珍しい。1・2秒考えて妙案をひねり出した。

「ん、大丈夫。持ってる物でどうにかする。」

「そう。解ったわ。」

それだけ言って、居なくなった。本当に気遣いが有難い。

自室のクローゼットの中には私の趣味をそのまま顕現した服が並んでいる。

フリルをあしらったどちらかと言うとかわいい系の服。

その中でもパステルピンクの服を選び、それを持って風呂場に向かう。

「着替え、此処に置いておく。」

「サンキュー。」

シャワーの音に紛れて親友の返答が帰ってくる。空元気だとしても返事が返ってくるだけ良しとする。

親友の脱ぎ捨てた制服には珈琲のしみが既に付いていた。それを回収して、母親にしみが取れるかどうか相談し結果、やってみるという母親の一言を信じて、親友の制服を託し自室で親友の風呂上りを待つことにした。

親友の趣味から行って、かわいい系のそれもパステルピンクは確実に選ばない。親友は美意識を常に「かっこいい」方向に持っていく。その間逆の「かわいい」は親友の美意識から言って論外だろう。

そんな事分かりきっているのにも関らずあえてそちらを用意した。

想像しただけで笑みが零れる。これぐらいは役得として得てもいいだろう。それに親友のかわいい系の服装を見てみたい気も在る事は否定しない。

10分少々で親友が風呂から上がり、着替え私の部屋に訪れてくれた。

その表情は風呂上りの火照りだけでは考えられないぐらい赤面だった。

私は腹を抱えて笑った。予想以上のかわいい系のコーディネイトとなった。ものすごく似合う。そんな服装で顔を真っ赤にしてふくれっ面なんてするからより一層の見た目年齢の低下を招く。そこに居るのはどう見ても高校生には見えないかわいい少女だ。

私も私ですでに着替えは済ましている。同方向の服装。しかしこちらはメインカラーがパステルブルーのやや大人しい目の服装。故に親友の方が身長は高いにも関わらず、親友が妹、私が姉の姉妹のように見えてしまう。そのいつもとのギャップが更に私の笑いを誘う。

世にも珍しい親友のかわいい姿の感想を伝えたり、愚痴を聞いたりする。

「ところでさ、ちょっと小腹減ってこない?」

切りの良い所で話題を変えて、わざと食事に誘う。こういった時に親友をそのまま自宅に返してもそのままベッドの中に直行して泣き崩れる。そのまま最低でも一日は出てこない。そうなることが分かっているから、その前に栄養を取らせておく算段。

私からの提案は頷きによって採択された。

そこから更に一計を案じた。せっかく親友がここまでかわいく仕上がったのだから、ちやほやされる方の立場も体験させたい。後は単純に楽しそうだから。

流石に欲張りすぎたせいか、妥協案として、先ずはコンビニでの小手調べと成った。

玄関に向かいながら、母親に外食の旨を報告しておく。

「ちゃんと食べさせてあげなさいよ。」

母親もその辺は十分に理解しているらしく、軍資金を渡してくれた。

多分母親にとっては、もう一人の子供のような感覚なのかもしれない。感謝とともに受け取る。

コンビニで飲み物を物色していると、一人の客が来店して来た。

帽子にジャンバーで小柄。一見すると少年のようにも見えるが、所作の振舞が少年のそれっぽくない。目深に被った帽子の縁からちらりと見えた横顔は、女性の横顔だった。

「・・・」

流石に偶然が過ぎると思ってしまう。まさかの遭遇。数時間前に私の親友の告白を断り、更にコーヒーまでぶっかけた不倶戴天の仇。そいつがさも何事も無かったかのように、夜のコンビニに立ち読みに来ている。きっと既に親友の告白の事は、記憶の中にも残っていないのだろう。

そんな親友は幸か不幸かどうやらそこまで気が付かなかったらしく、少年と思い込んでいるようだ。人生は知らないほうが幸せな事は確かにあるようだ。

私の心を更にざわつかせたのが、その立ち読みしているの恋愛物の少女コミックだったこと。つまりは恋愛には興味があるけど、その対象としては白馬に乗った王子様でなければならず、その資格が親友には無いと。

無駄な思考に労力を取られてもくたびれるだけ。頭を切り替えて親友のとの他愛ない会話に興じる。適当に飲み物を選んで会計をして外に出ようとした時に、

「っ痛えな、くそアマ!!」

程度の低そうな下賤な言葉が飛び込んで来る。

状況を確認して、適当に謝って脇を素通りともいかなそうだと確信する。

小さくため息をつく。次から次へとまるで厄日だ。

幸いなことに私も私の親友も荒事には多少の心得が有った。

好んで争う訳ではなく、降りかかる火の粉を払う事をしているうちに身についた。

小学校ぐらいまでが酷かっただろうか。その年頃は必要以上に「多数派=正義」「異端=悪」の構図を好む。その思考に対して親友は格好の獲物だった。

どんなにいじめられても泣かされても、親友は折れなかった。

異端狩りをする自称正義の側のいじめっ子に、親友は泣きながら殴りに行った。

蛇足ながらその時私は、余りにも弱くその前段階でいじめっ子にやられてその辺でひっくり返っていた。

最後は二人がかりでいじめっ子を撃退した。それ以降、直接的に手を出してくるのは減った。

翻って、今目の前の障害をどのように越えようか。

適当に挑発して、さも向こうが好きそうな1対1であるかのように状況を持っていく。

後はガラガラの横から横槍ならぬ蹴りを入れて終了か。

1対2で卑怯?冗談じゃない。多数派である事を良いことにさも正義であるかのように多勢に無勢を掛けてきたのは常に向こうだった。・・・まあ、今は違うが。

そんな事を考えていると横から槍ではなく助けが入る。

少女コミックを読んでいた少年、もとい彼女。

自然な流れで私たちの前に庇いに入り、そこから一撃で終了。

親友が少年と思い込んでいる彼女に感謝を伝える。

その声を聴いて、彼女が一瞬顔を上げそうになり、すぐ俯く。そして耳を真っ赤にしている。

・・・おや?これは。どうやら私は大きな勘違いをしていたのかもしれない。

彼女は悪意を持ってコーヒーをぶっかけたのではなく、本当に偶然なのかもしれない。

思っていたような悪女ではなく、本当におっちょこちょいなだけかもしれない。

85戦85KOという伝説に惑わされて、勝手に評価を著しく下げていただけかもしれない。

そして私の中で彼女の評価が180度変わっている間にも、親友は話を続けている。

どうやらその少年が思い人の親族だろうと予測をしているらしい。

近いけど果てしなく遠いニアピン賞。

そしてそのまま、本日二回目の愛の告白を口にする。

それを聞いて彼女の耳はさらに真っ赤になっている。

二人から一歩下がった場所で、頑張って笑いを堪えていた。ヤバい、面白過ぎる。

そろそろ止めないと彼女の身が持たないかもしれない。十分に面白いものを見させてもらったので一回止めに入ろうとした所で親友が動いた。

一瞬の隙を衝いて、彼女の帽子を跳ね飛ばす。

そして、彼女の真っ赤な顔が露わになり、状況の理解をしようとした親友の一瞬の間にビンタが飛んでくる。あっという間に彼女は突風の様に過ぎ去っていった。

呆然としている親友に一言掛けてあげた。

「馬鹿だろお前。」

それから二人で作戦会議を開く。近くの百均で材料を集めて、プレゼントとともに手紙を入れる。

その間も直接渡すか玄関先に置いて帰るか悩み続けている親友。

「置いてくればいいんじゃない。」

「でもそしたら返事がいつ貰えるか、そもそも貰えるかどうかも判らないじゃないか。」

「何とかなるだろう。多分。」

「多分でなくて確信が欲しい。ねえ何時?今日中?明日中?今週中?」

「知らんよ。まあ待ち続ければいつか来るんじゃね。」

「切株の前で?」

「それ来ないやつな。」

出来上がった即席の小包を彼女の家の玄関先に置いて、その足で適当なファミレスで豪遊する。なんせ軍資金はたんまりと有る。

その間も親友はいつ鳴るとも知れない携帯電話が気になって仕方がない様子。

その様子を茶化して、馬鹿笑いして、お腹を満たした。

あの時の反応からこの後どうなるかは判りきっている。

だったら、親友は今日一日で勇気を振り絞って頑張ったり、壊れたみたいに号泣もしたんだから、最後の勇気ぐらいは向こうで出してもらわないとつり合いが取れない。

デザートを選んでいると、ついに親友の携帯電話が鳴動し始めた。表示されている番号は知らない番号。つまりは彼女の可能性が高い。

親友は携帯電話を手にそそくさとファミレスの外に出て話始める。

その姿を遠目で見ながら、長い長い初恋に失恋で終止符が打たれた事を実感する。

私のことなんか眼中に無い事は百も承知。それでもいつかいつの日かもしかしたら。

そんな思いは絶対に口にはしない。墓まで持っていく。

「・・・一番奥手だったのは私かぁ。」

窓の向こうの会話は終わりそうにない。しょうがないので一人でデザートを頼んで満喫することにした。


あれからとんとん拍子で話が進んで、明日は初デートらしい。

当事者でない私がなぜ知っているか?それは簡単。二人して人の事を生き字引扱いをして色々聞いてくるものだから、二人の秘密は簡単に漏れてくる。

今日も今日とて彼女から明日の服装についてのアドバイスを求められた。

話を聞けば聞くほど、彼女は恋愛初心者であることが分かる。それもそうだ。聞けば男性嫌悪がひどいらしく仲良し以上の関係というのを一回も作ったことが無いそうで。

談笑ついでにぽつりと呟く。

「本当の事を言うと、貴女が嫌な奴だったら二人の仲を何としても破壊してやろうと思ってた。あいつの傷が深くならないように早めに、完全に。でも、話していてそんな必要ないって思えた。だからできる限り協力するよ。」

牽制の毒は忘れない。最初で最後の私の嫌味。

そして何点かアドバイスを送る。まあ、この段に至ってのアドバイスなんかてんで価値が無い、おまじない程度のものだが。

彼女との通話を切って、ふと思いつく。

備えあれば憂いなし。良い格言だ。

親友によく貸している服をクローゼットから取り出し、しわ付いていないかチェックする。

ついでにバッグを始めとした小物類を色々合わせてみて、親友が一番素敵になりそうな組み合わせを探す。

心から明日のデートの成功を祈りたい。

親友が笑顔で居てくれればそれでいい。例え隣が私じゃなくても。


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