学園入学前夜
やばい、やばい。とうとう明日になってしまった。何がって学園の入学式である。
物心ついた時から自分の健康管理に明け暮れ、そのおかげで理想の健康体を手に入れたが友人と呼べる同世代の子が皆無なのだ。
本来であれば他家や自身の邸宅で開かれるお茶会や舞踏会等で知り合い、交流を図って自然と仲良くなれるはずだが、何せ“あの騎士団長の末っ子愛娘”である。自分で言うのも恥ずかしいが自他共に認められてるので積極的に仲良くしようとは思われないのだ。
例えば、お互いの意見が合わずケンカなどしようものなら…わーこわい。おまけに兄が4人ついてくるのでさわらぬ神にたたりなしってやつだ。
私自身も自分から進んで関わりを持ちたいタイプではないので、まあ一言で言うと「詰んでる」状態で今日まで来ている。
でも、今まで楽しかった!
ちょっと前まで前世でいう推し活を布教ってやつをしまくっていたのだ。
朝6時半くらいから小学校の夏休み期間にスタンプ目当てで参加していたあれ。100年近い歴史を持つあの体操を国中に広め回っていた。
10年前、私が5歳の時にこの国に存在しない事を知り大変驚いた(考えてみれば住む世界が違うので当たり前)。私はこの国に広めねば!と使命感に駆られたのだ。
老いも若きも関係なく、やり方さえ分かれば誰でもできしかも3分と少しで終わるこれを毎日続けることで、衰えた身体機能を取り戻したりまたは維持したり、肩こりや腰痛の改善予防、子供なら運動機能の向上、身体の育成につながるなどメリットしかない。
前世に比べ文明の劣るこの国で皆が続けたら、健康で丈夫な良い人材が育つ→国力上昇につながる、それもお金をかけずにと考えたら広めない手があるか。いや、ない。と思い至りそこからは熱量と勢いでやってのけた感じだった。
協力してくれた皆には感謝しかない。とうとう国王から勲章まで頂戴したのだから。私1人でなし得た訳ではないのでおこがましいと思いつつ、有り難くも国民の長女と呼ばれ皆に認められた私を評価して国民に寄り添う王アピールしたいとか目論みもありそうだから遠慮なく貰った。
まあちゃっかり王都の子ども達にはスタンプカードを渡してスタンプ貯まったらお菓子をプレゼントする様取り付けたから結果オーライという事で。
ご褒美がないと子どもは続けられないのだ。私がまさにそのタイプだったから。
ーーさて、過去を振り返ったってどうにもならないので現状をおさらいしよう。
・私には友人がいない(顔見知り程度しかいない)
・騎士団長の末っ子長女(兄1人在学中)
・流行に疎い
・両親に在学中に婚約者を見つける様に言われている
…友人はもしかしたら1人くらい出来るかも知れないけど、婚約者は…無理ではないだろうか。思わずため息が出る。
よっぽど自分の身体とその能力に自信があるか、お父様や兄達と気が合うか、うちと同等か格上の家柄か。うん、ほぼいないんじゃないかな。
それなりの家柄の子は社交デビュー前後で相手がいたりする。ダメだどうあがいても詰んでる。
やれるだけやって、無理そうならこの家で独身謳歌して生きよう。
とりあえず愛想よく!トラブル起こさない巻き込まれない!マナーは守って慎みを持って学園生活を送る!で、無難に過ごしてみよう。
そう考え私は寝ることにした。