本心
「え……?」
私と兄上は揃って絶句していた。
なんせ、十秒前には私たちの主張を一切聞き入れてくれなかったのだ。一体、どういう風の吹き回しなの?
「本当なのかと聞いているんだ。」
「あ、え、はい。」
「そうか。」
アルフィーは私たちをまっすぐ見つめて言った。
「お前らはとても正義感が強いのだな。昔の俺を見ているようだ。」
「え?」
私は不思議に思った。
アルフィーは「そうなるのも無理はない。」と優しく言うと、傍らの槍を手に取った。
さっき、私たちを捕まえる際に使っていた槍だ。
「この槍はな。」
アルフィーはぼそりと言う。
「俺が生まれて初めて手にした武器なんだ。もう10年以上使っている。…そう、俺が革命に目覚めた日から。」
「革命?」
「お前らには話しておいた方がよさそうだな。」
アルフィーは私たちを交互に見ると、尋ねた。
「まず、この国について何か知っていることはあるか?」
「いえ。そもそもここと私の国は世界規模で違うので。」
「そうか。実はな、この国は独裁者によって支配されているのだ。国民が何かを発言する権利もなければ、土地や食料も十分に与えられていない。国民が働いたときに出る利益も、全てその独裁者の物。『闇の国』…。異国から来た者はここをそう呼ぶ。」
「闇の国……」
私は呟いた。身体が震えていた。
こんな国に捕まってしまったなんて。もう助かる道など、あるはずがない。
「そんな国に、俺は生まれてしまった。両親は仕方がないことだ、と諦めていたが、俺はそうはいかなかった。国民に自由がないなど、許されるはずがない。そして俺は8歳のころ、密売人のところでこの槍を買ったんだ。」
アルフィーは槍の持ち手の部分を撫でる。
「若くして、俺は革命家になった。これで国家とも敵対関係。俺は独裁者に仕える兵士に隠れて、仲間を集めた。道行く旅人にも、協力を募った。そのおかげで、異国から武器を仕入れることも可能になった。そして4年後。同志が10000人を超えた時、俺の攻撃は開始した。」
「結果は、どうだったんだ?」
兄上が深刻な表情で尋ねる。アルフィーはふうと息をつくと、自嘲的な笑みを浮かべた。
「今考えれば、愚かなことだ。12歳の小さな少年率いる人々と、大量の兵士たち。結果がどうなるか。考えればわかることだろう。」
「負け、ですか。」
「負けどころの話ではない。全滅だ。」
「全滅。」
「ああ。本当は俺がリーダーだったというのに、最年長だからという理由で一人が公開処刑。それ以外は労働施設に送られた。みんな過労死してしまったが、まだ幼かったということもあって、俺は一人生き残った。それを聞いた独裁者が、俺を兵士として雇ったというわけだ。」
「脱走とかは、できなかったのですか?」
「俺は弱みを握られている。見つかった時点で、処刑は確定だろう。」
「そんな…」
ベルーニャが今までどんなに平和だったのか、思い知らされた瞬間だった。
目には、いつの間にか涙がたまっていた。
アルフィーはそんな私を見ると、少し悲しげな顔をして言った。
「だからな。どんなにお前らと俺の考えが一致しようと、処刑は免れないわけだ。残念なことに、な。」
「…。」
「…ちっ。」
私たちは、もう何も言い出せない。
アルフィーに助けを求めるということは、アルフィーの死を意味するのだ。
そんなこと、今の私たちには到底できない。
すると、
「アルフィー殿!刑執行の準備が整いました。」
「おお。ご苦労。」
アルフィーは私たちに言い放った。
「どうやら、お前らも終わりのようだな。」